第17話 世界を遊び場に
「おっしゃ、おい、おっさん!」
「ほへっ?」
「これで登録すっから、登録しといてくれ!」
眠そうに立っていたギルド責任者に、ジオは紙を手渡す。
「えっと? これでよろしいんでしょうか?」
「おお、やっておいてくれ。んで、もうちょい待て」
「はっ?」
「名前を決めるので時間かかっちまって、その他のことがまだ決まってねーんだ。だから、その間に登録しておいてくれ」
「い、いやいやいや、ちょっと! だ、だから、今日はもうこのギルドには予定が……って、あのぉッ!?」
チーム名は決まったけど、まだ忙しいと、ジオはギルド責任者に紙を渡してすぐに登録するように告げる。
そして、ジオたちは再びテーブルで向かい合い、次のお題に入る。
「で……俺ら……チームになって登録も済んで……具体的に何やる?」
次は、今後の行動目的であった。
「決まっておる。とりあえず、賞金の高い実力者たちを片っ端から消し去っていく!」
「……自分は……今まで与えられた任務以外してこなかった……だから……冒険がしたい」
「……田舎で野菜作ってスローライフ……」
そして、それもまたやりたいことが各々バラバラであった。
「強い奴を片っ端からって……ジジイ……」
「悪くはないじゃろ? これから二代目大魔王の座を狙っておる輩を片っ端から倒していくのも楽しそうじゃ」
「しかし、それだと我々が……いや、リーダーのジオが、最終的に大魔王になってしまうぞ?」
「ちょ、それじゃ、僕たちが魔王軍になっちゃいそうなんで!?」
まずはガイゼンの案。好戦的なガイゼンらしいが、冒険者の自分たちが新たなる魔王軍扱いされてしまうのはどうなのかと、誰もが顔を顰めた。
「なにい? よいじゃろう。なら、いっそのこと大魔王になってしまえ! それはそれで面白そうじゃ!」
「いや、面白そうって……俺、大魔王に恨みがかなりあったんだが……」
大魔王にいい思い出の無いジオは、ガイゼンの冗談交じりの提案に微妙な顔をした。
「やっぱ、却下だ。大魔王なんてアホらしい物目指すのは、俺も嫌だしな。で、次は、マシンの案だな。純粋な冒険か?」
「ああ。そして、願わくば……船などで、海を渡ってみたいな」
「海か……となると、船に乗ってぶらりと世界を回るか……面白そうだな。俺も嫌いじゃねえ」
マシンの案は意外にも面白そうだとジオも感心したように唸る。
そして、次はチューニの案だったが……
「で、チューニのすろーらいふ? なんだそりゃ?」
「ああ。むしろ、そんな暴れるとかやめて、田舎で悠々自適にのんびり―――」
「「「却下」」」
「ええええええっ!!!??」
考えるまでも無く却下されたのだった。
「俺は海で冒険ってのはいいと思うぜ? 俺も航海は戦争とか以外でやったことねーしな」
「まっ、今の時代なら腕の立つ海賊も多かろうし、それも面白いか……」
「そう言ってもらえると、自分も少し楽しみになってきた」
「僕の案は……」
そして、各々の意見をまとめると……
「じゃ、とりあえず最初は海に出て、宝探ししたり、邪魔な海賊ぶっ飛ばしたり、そして船の上で畑を作る。こんな感じか?」
「まっ、いいじゃろう」
「異論ない」
「いや、僕はのんびり暮らしたいだけで、そこまで畑づくりしたいわけじゃ……」
まずは海に出て世界を回りながら、やりたいことをしよう。
それが、ジオ達のチームが掲げた最初の行動であった。
そして……
「おーい、旦那たち。協会に魔通信であんたたちの冒険者登録及びチーム名登録終わったぞ?」
「おお、終わったか」
「ああ。ってなわけで、これで今日からあんたたちは―――――」
同時に、ギルド責任者が登録を終えたと報告に来た。
丁度いいタイミングであり、さぁ、今こそ新たなる人生の幕開けだと四人で頷き合う。
「これで今日からあんたたちは……『ジオパーク冒険団』だ」
それは、ジオ(地上世界)を、パーク(遊び場)にして冒険をする者たちのチームであった。
「……やっぱ、口に出されると少しダセーな」
「少し弱そうじゃのう」
「確かに、他人がチーム名だけを聞けば、我々のような者たちを想像しにくい名前だな……」
「やっぱ、せっかくだからファンタジーとか入れた方が……いや……もう面倒だから僕ももういいけど……」
完全納得とはいかずに、ちょっと微妙な顔をするジオたち。
もう少し名前を弄ってみるか? そう思い始めた時……
「おーい! 船が着たぞ~! 『ミルフィッシュ王国魔法学校』の生徒たちだぞー!」
「おっ、異大陸から、若者たちのご到着だな!」
そのとき、急にギルドの外が騒がしくなり、街の者たちが慌てて港へ駆け出していく。
どうやら、予定していた学生たちが現れたようだ。
そしてそのとき……
「えっ? ミル……フィッシュ……」
「ん?」
「な……なん……で?」
何故か、チューニが顔を俯かせて青くなっていた。
何かあるのか? ジオがそう尋ねようとしたとき……
「しっかしまぁ、戦後まもなく治安も不安定と聞いておるが、そんな状況でよく若い学生たちに海を渡らせて違う大陸から来させるもんじゃわい」
何気なくガイゼンが呟いた言葉に……
「まあ、そうなんですけど、当然警備も厳重ですから」
「ほう」
「このあたりの海は辺境とはいえ、帝国領土。当然、『帝国海軍』の将校による、厳重な警護の下で招き入れているんですよ」
ギルド責任者が口にした発言に、ジオの体が大きく跳ね上がった。
「……帝国海軍の……将校の……警護だと?」
「ええ。そして今日来られるのが……」
思わず唇が少し震えてしまう中でジオが尋ねると、ギルド責任者は頷きながら答えようとしたとき、ギルドの扉が乱暴に開けられた。
「大変だ、マスターッ!!」
「っ、お、おい、朝っぱらからなんだよ!?」
扉を開けたのは、冒険者風の男。よほど慌てていたのか、激しく息を切らせていた。
何かあったのかと、ギルドで寝ていた他の冒険者たちも顔を上げると……
「きょ、今日、ここに来る……学生たちの警護の予定だった将校が……変更になっていた」
「はぁ?」
それは、元々この港町に来る予定だった警護担当の将校に変更があったということ。
しかし、それだけならば大きな問題ではない。
問題なのは……
「誰に変わったんだ? 町長はコナーイ将校に対する歓待の準備してたってのに……」
コナーイ将軍という名前をジオも聞いたことがあるし、顔も知っている。もっとも、その人物は急遽来なくなったという話。
ならば、誰が代わりに?
「そ、それが……」
すると、駆けつけた男は唇を震わせながら……
「な、なぜか……帝国海軍トップが……」
「……はっ?」
「帝国の第一王女でありながら……海軍提督……アルマ姫が直々に……」
その瞬間、ギルド内の時が止まったかのように沈黙した。
そして、ジオは……
「アルマ……ひめ……いや……ッ……あの女が!?」
その名を自身の口でも改めてジオが呟いた瞬間、ジオの意識からチューニのことが消え、ただ苦しそうな表情で自身の魔族の腕と化した右手の『指』を擦った。
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