第18話 サイコウノクラスメートタチ
「どーした、ジオ……いや、リーダーよ。動揺しておるな? ……と言っても、仕方ないようじゃな」
「リーダーは帝国の姫と懇意だったと先ほど聞いた」
アルマ姫。その名を聞いて動揺を隠しきれないジオの態度から、只ならぬ事情をガイゼンもマシンも察した。
「……けっ、別にもう関係ねーことだ。……」
しかし、ジオは関係ないと言って首を横に振るも、それでも心と体は素直だった。
(あの女……そういえば、俺が釈放された時は居なかったな……とはいえ……記憶は戻ってんだろう……って、おいおい関係ねーって言ってんのに、俺って奴は……)
頭の中で考えることもすることではないと、頭を振って考えを捨てるジオ。
一方で、この状況下でチューニは一言も発さず、ただ顔を青くしてうつむいたままだった。
そんなとき……
「「「「未来の大魔導師たち! 『港町エンカウン』へようこそ!!!!」」」」
ギルドの外から賑やかな歓待の声と楽器の音が響いた。
「へぇ~、良い港町だね。ちょっと小さいけど……」
「あ~、ようやく着いた。長かったな~!」
「ふん、王都に比べたら、とんでもない田舎じゃないか」
「ほんとだよ~、こんなとこでキャンプ? やだやだ。お風呂とかどうするの?」
「うわっ、ダサい男しかいなーい。買い物もできそうもないし、ほんと憂鬱~」
「ちょっと、声が大きいよ! 怒られちゃうよ?」
「そうそう、どんなところでも笑顔を平民の方たちに見せるのも、僕たち選ばれし貴族の役目さ」
「私は……こういうところ、結構好きかな? みんないい人そうだし」
「うん、空気も美味しいよね」
ただ、歓迎の声とは裏腹に、若者たちからは色々な声が上がる。
その声を聞きながら、ジオたちも鼻で笑う。
「ふん、随分と甘ちゃんたちが来たみたいだな」
「戦争に出なかった世代。無理もないだろう」
「青瓢箪なのが声だけで分かるわい。覇気や貪欲さも感じぬ。ゆえに、興味も湧かぬな」
ジオ達三人は、やってきたという魔法学校の生徒たちに特に興味は湧かずに、つまらなそうにした。
だが、先ほどから俯いたままのチューニの様子は変なままだった。
すると……
「おっ、見ろよ! こんなところに、冒険者ギルドがあるぞ!」
「へ~、こんな小さな田舎にもあるのか~……って、スゲー小さい! ただの汚い酒場じゃないか?」
「バカ。今回の授業のプログラムを見なかったのか? 地方の冒険者ギルドの見学も入ってるんだぞ?」
「あ~、そういえば、そうだったな」
「へへへ、きっとこんなところに集まる冒険者なんて、地方でセコセコと小さい仕事で小銭を稼ぐ、小物しかいないんだろうな!」
「ねえ、そういうこと言うのやめなよ。すごい失礼だよ?」
「でも、私、王都以外のギルド初めて見た~!」
「ねえねえ、入ってみようよ。いいでしょ? これも修学旅行の一つだし」
言いたい放題なことを言う若者たちは、そのまま何の気遣いも無くギルドの扉を開ける。
そして入ってきた瞬間、ギルドの中央で陣取るジオたちと目が合う。
生徒たちは皆、白く清潔なシャツと、魔法学校の証明でもある紋様の入った赤いマントを纏い、女子は膝上ぐらいのスカート、男子は長いズボンを穿き、誰もが育ちの良さや気品の漂う顔つきや空気を出していた。
しかし、そんな若者たちがドカドカと数十人でいきなり狭いギルドに入ってきた瞬間、誰もが一気に顔を青ざめさせた。
「ちょ、お、おい! あれ、魔族じゃないか!?」
「うわ、あ、き、騎士団は! おい、早く騎士団を呼んで、こいつら捕まえて死刑にしろよ!」
「で、でも、確か魔族も地上での生存が許されたとか……」
「知るかよ! それより、これは学校側の責任だぞ! 魔族の居るようなところに僕たちを連れてくるなんて、パパに言って訴えてやる!」
「そうだ、船に『アルマ姫』がいらっしゃる! アルマ姫に言えば……」
「ばか、姫様にそんなこと言えるかよ!」
「何言ってんだ、ここは帝国の領土。帝国内での問題だから、アルマ姫が解決する問題じゃないか!」
魔族に対する反応。ジオとガイゼンに向けられたその恐れの反応は、別に特別なことではないと二人は思っていた。
むしろ、慣れていたことでもあり、もう今さらそのことで目の前の無礼な若者たちを相手に暴れるようなこともしなかった。
ただ、気になるのは、青い顔をして俯いていたチューニが、更に怯えたようになり、そしてチューニの存在に気付いた魔法学校の生徒たちは……
「あ、あれ? あれは……ほら、あいつ」
「えっ? あー、あー、確か退学した……あの根暗の気持ち悪い奴!」
「チューニじゃないか! うわ、あのチューニだよ」
「へ、落ちこぼれ貧乏人のチューニが何でここに居るんだよ?」
そして、この瞬間、ジオ達も察した。
今、目の前に居るのが、かつてチューニが居た魔法学校の生徒たちなのだと。
「ふ~ん……そういうことか」
とはいえ、だからどうだということはない。
自分には関係のないことだとジオも思い、特に口を出すことも無かった。
すると……
「ちょ、どいてくださいどいてください! ちょ、どきやが……ってください~! いま、いいいいいいい、いま、チューニくんがいるって言いませんでした~!?」
外から生徒たち人ごみをかき分けて、うるさく騒ぐ女の声が聞こえて来た。
「……ちっ……」
その女の声が聞こえると、チューニは明らかに舌打ちをして、青い顔して俯いていたのに、急に不機嫌な表情になった。
「ちょっ、んも~、どいてくださいよ~っ! ……ぷはっ、……えっと~……あ……」
「…………」
「チューニくん……」
現れた一人の女生徒。
長い栗色の髪をしたその表情は、大きくクリクリとした瞳をパチパチとさせ、シャツの上に羽織ったカーディガンの袖で手が完全に出ないようにした、だらしのない恰好をしているが、少女の愛くるしい可愛らしさがそれを許した。
女はチューニの顔を見るなり、驚いた顔で固まるも、すぐに口元をぷくっと膨らませて、チューニの傍へとズカズカと歩み寄った。
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