第16話 チーム名

 とにもかくにもチューニもレベルの基準をクリアしてしまったため、結果的にパーティー入りを免れることはできなかったのだった。


「あ、あの、だ、旦那たち、これは俺からのおごりです。いや~、好きにやっちゃってください」


 先ほどまでデカイ態度だったギルド責任者も急に揉み手をしながら態度をコロッと変えて来た。


「ねぇ、おにーさんたち、私たちと一緒に飲まない?」

「うわ~、おじいさんも素敵だし、そっちのお兄さんも目が鋭くて濡れちゃう~♡」

「おにーさんクール~♡ それに、いや~ん、この魔法使いのボクかわいい~♡」


 ジオ達があまりにも規格外の数値を叩きだしたことに、ギルド内に居た冒険者たちも驚き、そして同時にジオたちと「関わり」を持っておくことは重要だと感じたのか、まずは若い女たちだけで構成された冒険者チームがすり寄ってきた。


「おいおいそこのアバズレどもより、オイラたちと飲みましょうぜ! 奢りやす!」

「そうだ、俺の妹は村一番の美人って評判で、どうです? へへへへ、紹介しましょうかい?」


 続くように他の冒険者たちもご機嫌を取るような態度で話しかけてくる。


「しょぼ~ん……」

「ん? おいこら、シルバーシルバー、そんなとこで座ってると邪魔だから、どっか行ってろ!」


 唯一、部屋の隅でへこんでいたのは、格の違う怪物たちの数値に叩きのめされた、シルバーシルバーぐらいであった。


「けっ……馴れ馴れしいもんだぜ……ウザってえ」


 一方で、持て成されているジオは、段々イライラしてきたのか不愉快そうな顔を浮かべていく。


「急に手の平を返しやがって……こういうのが一番ムカつくぜ」


 数字でコロッと態度を変える冒険者たちの変わり身の早さは、ジオにとっては不愉快の対象でしかなかった。

 それは、大魔王の手によって、これまで紡いできた絆などアッサリ消され、自分に対して地獄のような苦しみを味あわせた帝国の連中を思い出させるからだ。


「まっ、タダ飯食えると思えばよいじゃろ? そんなことよりも、まずワシらにはやらねばならぬことがある」


 ジオの気持ちを察したガイゼンが「テキトーに流せ」と言いながら、その前にまず自分たちの抱えている問題について口にする。


「いかにもだ。今日より自分たちは四人のチーム。そして、チームを組んだ以上は果たさねばならぬ最初の課題がある」


 ガイゼンの意見にマシンも同意して頷く。

 そう、ジオ達四人のチームが結成されるにあたり、最初の問題。

 それは……



「「「「で、登録するチーム名はどうする??」」」」



 そう、自分たちの結成したチームの名称であった。

 今後はその名前で協会にも登録されて、自分たちはそのチーム名で呼ばれることになる。

 そのためにも、あまりテキトーで済ませられない問題でもあった。



「俺がリーダーなんだろ? だったら……『ジオ冒険団』でいい……だろ?」


「「「ダサい。却下」」」



 ジオが何気なく提案したチーム名は一瞬で却下された。

 しかし……


「ぐふふふふ、まったくガキはこれだから発想が乏しい! わしには色々案がある!」

「ふむ、チーム名か……なら……」

「あ~、くそ! いいすか? どうせもう僕もそのチーム入るなら、僕にも権利あるんでしょうね?」


 一つのアイディアが出た瞬間、次から次へと湯水のようにチーム名に関する候補が各々から上げられる。


・ジオ冒険団(ジオ案)

・天下無双団(ガイゼン案)

・鋼と愉快な仲間達(マシン案)

・エターナルダークフレイムファンタジーオブレジェンド(チューニ案)


「俺の名前を入れて何が悪い! 普通、こういうのはリーダーの名前が入るもんだろうが!」

「かーっ、どいつもこいつもなんじゃい! 男たるもの、いかなる名においても最強を語るものでなくてどうする!」

「自分にボキャブラリーのセンスは登録されていない。皆の案を尊重する」

「あの~、どうせならもっとかっこいいのに……」


 各々案を出すもののあまりピンと来ず、次から次へと思いついたものを片っ端から四人は紙に書き記して発表していく。


「そうだな……やはりここは、冒険団がダメなら、ジオ軍団でどうだ!?」

「やはりここは大きく! 超銀河無敗軍団でどうじゃ?!」

「……無敵戦艦……」

「じゃあ……そうだな……僕たち嫌われ者たちなんで……これから自由に生きる……フリーダムファンタジー」

「ぬぬぬ、ならば……ギャラクティカトルネードビクトリー!」

「最終兵器軍団」


 しかし、数時間たっても一向に案がまとまらず、それどころか混迷するだけ。

 気づけば、ジオ達とお近づきになりたい冒険者たちもどんどん待ち疲れて寝始めている。

 しかし、何時間も四人で意見を交わしても「これは」というものが上がらず、検討は終わりが見えず、結局徹夜で朝日が昇ろうとする時間まで、紛糾した。

 ギルド責任者もジオたちに逆らう気はなかったのだが、とても言いにくそうにしながら……


「あの~、すんませんが……ちょっと今日はもう……実は今日の朝から、『ギルド見学』の予定が入ってまして……」

「はぁ? ギルド見学ぅ?」

「す、すんません! 反対側の大陸から、若い学生たちが『臨海学校』とかいう制度で、この港町に集団で泊まりに来て、勉強したりするんす」

「へ~……平和だと、そーいうこともすんのか……今の世は」


 ギルド責任者の口から説明された、予想外で、しかしジオたちにはどうでもいい予定が告げられた。


「ええ、国からの依頼でもありまして……田舎街のギルドを見学……みたいなプログラムもありまして、申し訳ないんですが……続きは、公園なんかでしていただけたら……」

「あああん!? いい歳した男たち四人、公園で座って話てろって言いたいのか!?」

「ひいいいっ、で、ですが、この街の公園も海が一望できるような……国の文化遺産にも入れられているようなシーサイドパークでして……座談会したりするにはいい場所だと思いますよ!?」

「ふ~~~~~ん、公園ね~……」

 

 公園。その単語に何か引っかかりを覚え、少し考えるジオ。

 公園とは、遊んだり楽しんだりするような場所のことである。


「シーサイドパーク……海辺の公園か」

「公園の~、ワシ、公園なんぞ行ったことないぞい」

「けっ、ただのガキの遊び場さ。テメエには無縁さ」

「そうかのう? ワシらはこれからガキみたいに遊ぶのじゃから、何かヒントがあるかもしれぬぞ? まぁ、ワシらが遊ぶのは公園ではなく、世界じゃがな」

「世界……」


 そのとき、ジオは急に頭の中にある言葉が思い浮かんで、気付けばそれを紙に記していた……


「……こういうのは?」

「ほう」

「……?」

「え……えええ? なんで?」


 四人の反応はそれぞれ。

 しかし、先ほどのような大きな反対意見や、自分のアイディアで被せる声はこのとき無かった。


「言葉の流れは悪くない……が、初めて聞く名だが……何の意味があるのだ?」

「あ~……僕はちょっと……いや、その名前は……まぁ、別にいいのか?」


 ジオが何気なく書いた名前を神妙な顔で尋ねるマシンとチューニ。

 すると、ガイゼンは意味が分かったのか、笑みを浮かべて頷いた。


「なるほどのう。これから……この広大な地上世界を公園のように丸ごと楽しむ遊び場にする冒険団という意味か?」

「ん……まぁ……何となくだけどな」

「本当は、無敵とか最強とか入れて欲しいところだが……まぁ、よいのではないか? 今までのより、どこかしっくりくるわい」


 多少の不満はあるものの、ガイゼンはこれまでの中では一番納得がいくと、素直に折れた。


「そうか。まぁ、自分も……もう異論はない」

「ええ? いや~、僕にはその単語は全然違う意味に感じちゃうけど……まっ、もういいや……。それじゃぁ、僕もそれで妥協するんで……」


 もうこれ以上は案も無いだろうと、とうとうマシンもチューニも頷いた。

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