第15話 拒絶の男
マジックアイテムを『無反応』ではなく、『無効化』してしまう力。
それが、チューニの能力。すなわち……
「先天的な体質……いや、能力として『魔法無効化(マジックキャンセル)』……を持っているようじゃな」
「「「ッッ!!??」」」
ガイゼンの発言にジオたちも驚愕を隠せなかった。
「ば、ま、魔法無効化能力者だと!?」
「恐らくじゃがな」
「お、おいおいおい、マジかよ! 確か、魔法無効化能力者なんて、噂だけの……」
「確かに、ワシの居た時代においても、数十年に一人いるかいないかの突然変異と言い伝えられていた。ゆえに、誰も見抜けなかったのかもしれんのぉ」
「……ちょ……マジか……そんな伝説級の超レア能力を……こいつが……?」
「ワシもかつて、一人だけ同じ能力を持った輩と出会ったことがある。間違いないじゃろう」
ガイゼンの口から語られた、『魔法無効化(マジックキャンセル)』という能力。
しかし、チューニ本人はまだポカンとしたままだった。
「ぼ、僕が、魔法無効化?」
「おお、そうじゃ。ゆえに、ウヌを解析しようとした魔鏡も効果がキャンセルされて、ウヌの数値を出せなかったのじゃろう。ウヌは、とにかく今は自分に関わる魔力は無条件に全て打ち消してしまう……そんなところじゃろうな」
「そ、そんな……ぼ、僕なんかが……そんなチートを……」
チューニ自身も自分にそれほど恵まれた能力が備わっていたなど、全く予想もしていなかったのだろう。
未だに信じられずに動揺している。
「しかし、ジジイ。そうなるとだ。この野郎は、あらゆる魔力を無効化するっていうなら……こいつは、補助やら回復やら、そういった魔法も無効化しちまうのか?」
「今の状態だとそうじゃのう。しかし、それも自分の意思次第で本来は使い分けすることができるはず。『自身に有利な魔法や解析のための魔法などは受け入れる』などな。ワシの知っているそ奴もそうであった」
「おいおい、そんな都合のいいもんなのか?」
「まっ、試してみれば良かろう。こやつは今まで自分の能力を認識していなかったが、認識した今なら少しは変わるじゃろう」
試す。そう言って、ガイゼンはチューニを手招きする。
「おい、もう一度ウヌは魔鏡の前に立て。そして今度は……『この魔法は受け入れる』……と頭の中でイメージしてみせよ」
「い、イメージすか?」
「うむ、分かりやすく言えば……『ベッドの上でブスなオナゴは抱かぬが、超絶美人なオナゴは抱きたい』……みたいな感じじゃ」
「ぶぼっ!? ちょちょ、そんなんでいいんだ!?」
「多分な。まぁ、ワシはブスでもオナゴはオナゴ。皆抱くがな。ぐわははははははは!」
冗談なのか、本気なのか、相変わらずよく分からないガイゼンの豪快な笑いの中、緊張しながらも覚悟を決めたチューニが改めて魔鏡の前に立って、言われた通りイメージする。
すると、魔鏡が発光し、そして次の瞬間には……
・落ちこぼれ魔導士見習い・チューニ
・腕力:15
・スピード:20
・魔力:999(最上限)
・潜在能力:10
・レベル:261
「うええええええええええええええ、ぼぼぼぼぼぼ、僕がぁぁぁぁぁあ!?」
「「「いやいやいやいやいやいやいや!!???」」」
その瞬間、腰を抜かしながら、チューニ本人とギルド内から驚きの声が上がる。
「ほう……やるじゃねーか……つか、俺より魔力の量が多かったんだな」
「驚いた。大魔道士の器の持ち主であったか……」
「ぐわはははははは、やはりのう!」
そして、これにはジオとマシンも驚き、感心の声を上げる。
「う、うそ……そ、そんな……ぼ、僕が……」
「と、いうことじゃ、チューニよ。ウヌは何も悪くない。ウヌを見抜けなかった、魔法学校の教師陣が無能だっただけじゃ。まぁ……見抜けぬのも無理はないぐらい珍しい能力じゃからのう」
そう、このチューニの事実は、魔法学校を魔力が足りずに進級できなかったというチューニにはあまりにも皮肉な事実である。
もし、これが明るみになっていれば、チューニは留年や退学どころか、即軍に登用されて、英雄になっていてもおかしくなかったかもしれない。
「なんかショックなんで……平民、能無し、魔法使い失格……そう周りから言い続けられた僕の人生なんなのって感じなんで……」
チューニは愕然として肩を落として俯きながら、呟いた。
「ん? なんじゃぁ? ただ、魔法学校を進級できずに退学しただけではなく、他にも何かあったかぁ?」
「…………」
「ふん、イジメでもあったか?」
「ッ!!??」
イジメ。その言葉にチューニが大きく肩を震わせるが、すぐに首を横に振った。
「いいや、イジメなんて無かったんで。なぜなら、イジメている方がイジメと認識せず、仮にそれがあったとしても止める側の教師もそれを認識していなかったんで。『我が校にイジメはございません』というのが教師たちの結論。ゆえに、僕がどれだけ叫ぼうにも多数決の結果、あの学校ではイジメはなかったという結論に至ったんで」
「「「イジメられていたのか」」」
「いや、だから無かったんで」
また少し明るみに出たチューニの過去。学校を退学しただけでなく、学校生活そのものも色々と問題があったことをジオたちも察した。
だが……
「ぬわはははは、まぁ、そのおかげでウヌの価値を理解できぬ無能者たちに飼いならされたりしなかったのは幸運だったではないか!」
「……」
「いや、しかしそれほどの能力を持っていると分かれば、言い寄るオナゴもたくさんおったじゃろうから……せっかく抱きたい放題だったのに残念だったのう! ぬわははは、やっぱ不幸か! ぬわははははは!」
他人の不幸を面白おかしく笑うガイゼン。正直、チューニからすればあまりからかわれたくない過去なのかもしれない。
だが、そのことを今さら言っても仕方ないと思ったのか、ガイゼン相手にムキになるのもアホらしいと思ったのか、チューニは溜息を吐いて……
「はぁ……もういいんで。確かに……もう未練もないんで」
大切なのはこれから。そんな想いを抱いてか、暗く淀んでいたはずのチューニの瞳が、少しだけ前向きになった。
「まっ、それはさておきじゃ。よし、とりあえず便利そうな魔法が載っている魔導書を片っ端から掻き集めてこやつに習得させるぞい。こやつなら、多少の基本ができなくても、魔力だけで無理やりどんな魔法でも発動できるじゃろう」
「確かに、攻撃力なら自分たちで補うことが出来るが、補助や回復、更には解析や探索の魔法等があれば、自分たちの旅に大いに便利であろう」
「あらゆる魔法を無効化し、自分はあらゆる魔法を扱うことが出来るようになりゃ、こんな反則はねーな」
そしてチューニが物思いにふける中、チューニの意志など関係なくジオたちはチューニをどうしていくかを勝手に話し合いを始めた。
ジオたちからすれば、思わぬ拾い物をしたという感覚だ。
そして……
「そうじゃ、こやつの異名もついでだから何か考えるぞい」
「異名? ああ、俺らのようなやつか?」
「ウム。その方がカッコイイじゃろう。そうじゃの~……」
ガイゼンはついでだからと、チューニの異名まで考えはじめた。
そして、数秒唸った後……
「あらゆる魔法を無効化し、自身は極限の魔力を所有して……あらゆる魔法を習得する予定……よし、チューニよ!」
何か思い浮かんだのか、ポンと掌を叩くガイゼンは……
「今日からウヌは、『拒絶の無限魔導士・チューニ』と名乗れ!」
「お、……ォォ……」
伝説の住人直々の命名。何とも贅沢であり、一方でチューニ自身も気に入ったのか目を輝かせ始めた。
こうして、登録された四人は……
・暴威の破壊神ジオ:レベル475
・鋼の超人マシン:レベル324
・闘神ガイゼン:レベル575
・拒絶の無限魔導士チューニ:レベル261
……として、冒険者及びチームとして登録されることになる。
「おい、おっさん。これでいいんだろ?」
「あ、ああ……じゃなくて、はい! え、ええ……と、とと、登録……さ、させて戴きます……」
当初横柄な態度だったギルド責任者の男も、もう完全に委縮してしまい、ビクビクしながら敬語まで使ってしまうほど怯えていた。
「で、俺らはこれで最上級のA級になるんだっけ? さっきの、シルバーなんたらみたいに? A級が最高なんだろ?」
そんな中、ジオが自分たちのレベルからして、登録される冒険者としてのレベルについて尋ねる。
「あ、えっと……た、確かにレベル50を越えたら最上のA級ですが……その上にさらに、冒険者ギルドとしてではなく、国家などから直接依頼を受けられるS級っていうのがありまして……あと参考までにその上にSS級、SSS級なんてものがあって……あっ、SSS級は大魔王を倒した勇者みたいなのですが……」
一応、最上はA級と言いながらも、その上のクラスはまだあるようだ。
そして、その中でも最上なのが、マシンがかつて所属した勇者一味。
マシンもあまり顔には出さないものの、少しだけ複雑そうな雰囲気を発していた。
それを察したガイゼンが……
「じゃあ、ワシらはそれより上にせい。ワシらは絶対そやつらより強いぞ?」
「ちょっ!? い、いやいやいや、無理ですって! そもそもSSS級以上は存在しないので……それに、SS級以上は実績とかも必要で……」
「じゃあ、特例を作れい。ワシらはSSSS級……いや、もうそこまで来ると何が違うのかよく分からんし、安っぽいわい……そうじゃのう……」
そうして、自分勝手な命令をしたガイゼンは、また数秒考えて……
「よし! もう、これ以上は存在しない最後の文字……Ω(オメガ)級と登録しておけ」
「そそそそ、そんなの無理ですって!!??」
とにもかくにも、こうしてこの日、辺境の港町で、空前絶後のルーキーチームが誕生した。
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