第9話 座談会1

 気づけば四人は、街の酒場で座談会を開いていた。

 ジオは戦う意思が薄れたことと、正直ここに居る面々の素姓の確認の方が重要だった。

 それは、特にこの状況に巻き込まれたひ弱な人間が最も切実であり、正直今すぐにでも逃げだしたい衝動に駆られながらも、仕方なくひ弱な人間が恐る恐る各々に確認していく。


「え~っと、じゃあそっちのあんたが、かつて帝国の将軍だった、『暴威の破壊神・ジオ』?」

「おう」

「んで、そっちのあんたが、かつて勇者のパーティーの一人だった、『鋼の超人・マシン』?」

「そう名乗っていた」

「……で……あ~、ほんと嘘であってほしいけど……その、あんたが……いや、あなた様が……神話とまで言われている、初代七天の一人で最強と言われた、『闘神・ガイゼン』?」

「ぐわはははは、ワシは神話か! なかなか気分がいいものじゃな!」


 半魔族に機械式人間に老魔族。異様な組み合わせに酒場の客や街の住民たちは皆が遠目で怪訝な顔をしながらチラチラと盗み見てくる中、ひ弱な男は頭を抱えて俯いてしまった。


「いや、あの処理させてください。……いえ、やっぱ無理です。処理できないんで。僕の頭の中、ほんとカオスワールドになっちゃってるんで。……というか、僕は関係ないんで、席を外させてもらってもいいでしょうか?」


 正直、ジオにとっても、マシンにとっても、そしてガイゼンにとっても、目の前のこのひ弱な男に関してはどうでもよかった。

 だが、ことのついでということもある。

 何故ならこの場に居る三人。ジオは三年間牢獄に。マシンは二年間どこかに封印。そしてガイゼンも数百年間異次元空間に。つまり、三人とも現在の世の情勢は、大魔王が死んだぐらいしか知らなく、それ以外のことは全く疎いのである。

 つまり、今の世の情勢を知っているのは、この場においてひ弱な男だけだったのである。


「で、あ~……テメエは……」

「あっ、僕はただの一般人なんで」

「ふ~ん……名前は」

「はぁ、『チューニ』です。『チューニ・パンデミック』。それが僕の名前なんで。でも覚えなくてもいいんで、ほんとつまんないボッチ男ですから。つか、直ぐいなくなりますんで」


 チューニ。それがひ弱な男の名前。

 案の定、ジオもマシンもガイゼンも全く聞いたことのない名前だった。


「おい、チューニ。話の通り、俺もこの人形もジジイも今の世間の状況をよく知らねー。概要を説明してくれ」


 だから、チューニ自身がどうのより、ジオは今の世についてを訪ねた。

 チューニはずっと怯えた様子だったが、逃げられる状況でもなければ、怒らせていい相手でもないということを察し、観念して説明していく。



「あ~、『人魔大戦』……一年前から本格的に大規模で地上の各所で行われた魔王軍と人類連合軍の戦争はご存じすか?」


「「「まったく」」」


「あ~、いや、まぁそういう戦争があって……んで、魔王軍が負けて、大魔王が死んでハッピーエンド。まぁ、一言で言うならそんなとこっすね」



 大魔王が死んでハッピーエンド。その言葉が自分には皮肉に聞こえ、ジオは少し笑ってしまった。



「で、勇者はお人よしにも魔族を皆殺しにしたりしないで、和平条約みたいのを結んで、魔界が地上の侵略を行わない限り、地上も魔界に攻め込んだり、既に地上で暮らしている魔族に危害を加えたりしないとかって話になったみたいす。迷惑にも」


「ほ~……。おい、人形。テメエをクビにしたのがその勇者だろ? そういうやつか?」


「……ああ。そういうやつだった」



 軍人だったジオからすれば、世界を巻き込む戦争をしていた割りには随分と甘い決着だと思い、少し納得はいかなかったが、そのおかげで自分もガイゼンもこうして街の酒場で食事をできることを考えると、微妙な気分になってしまった。


「大魔王が死んだのは分かったが……七天はどうしておる? 多分、現代の七天はワシも知らんが、全滅したのか?」


 すると、同じく事情に疎いガイゼンも興味を持って質問をした。


「えっと、多分……何人かは死んだのは新聞で配られたから知ってるけど、全員がどうなったかまでは……」

「そうか……つまり、七天自体が既に崩壊しておるわけか。数百年も経っているとはいえ……寂しいもんじゃのう」

「……まぁ、確かに七天制度が無くなったのは事実みたいす」

「して、血肉沸き立つ戦の時代も終わり……今は平和な世界というわけか。惜しいのう……もうちょい早くワシも復活したかったぞい」


 皆がグラス一杯の水に対して、一人だけ酒樽を丸ごと掲げて豪快に一気飲みしながら、ガイゼンが少しだけ切なそうに呟いた。

 だが、ガイゼンの言葉にチューニは即座に否定した。


「あっ、いや、平和かどうかは微妙っす。つか、逆に今はまだ荒れてる傾向にあるっす」

「……なにっ?」


 意外な言葉にジオも思わず聞き返してしまった。


「……どういうことじゃ?」

「あ~……大魔王が死んで……元々統治されていたはずの魔界が混乱状態になったとかいう噂で……これまで大魔王という巨大な王の名のもとで隠れていた、魔王軍にも所属していない危ない奴らが暴れ出しているとか」

「……ほほほう! なるほど……言われてみれば、確かにそれはありえるのう!」


 チューニの言葉に、ガイゼンは嬉しそうに身を乗り出して頷いた。


「ワシが居た時もそうじゃったが……魔王軍という巨大な存在は、人類にとっては脅威だったかもしれぬが、魔界においては無法を働こうとする悪の魔族たちにとっては巨大な抑止力にもなっておったのじゃ。しかし、大魔王が死んで、魔王軍も崩壊したのなら、その抑止力を持った悪の勢力たちが徐々に表舞台に出始めていると言うこと。つまり……」


 つまり? ガイゼンはニタリと笑みを浮かべ……



「そう、悪の世界の権力争いが始まり、次の大魔王の座を狙う戦いが始まったのかもしれんな♪」



 ガイゼンがそう告げると、それは正解だったようで、チューニは頷いた。


「そうす。おまけに、タチの悪いことに戦争の混乱を利用してぼろ儲けしたり、あくどい商売していたギャングみたいな人間たちも居て、そいつらと手を組んで裏で色々とやっているとか……なんか……そういうことみたいす。僕もあんま詳しくないんで、それ以上は知らないんで……」

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