第10話 座談会2

 悪の世界の覇権争い。そういう発想はなかったが、言われてどこか納得した気もした。

 確かに、大魔王や七天という抑止力がなくなったのなら、魔界の情勢はあまりよくないだろうし、好き勝手に悪だくみをする奴らが居てもおかしくない。

 とはいえ……

 

「そうかい。まっ……もう、俺にはどうだっていい話ではあるがな」


 もう、今のジオにとっては何の関係も無い話でもあった。


「そういえば……ジオとかいったな、小僧。貴様も色々とあったようじゃが……何か世界に恨みでも抱いたか?」


 マシンやガイゼンは過去に何があったのかの概要は話したが、ジオは話していない。

 別に不幸自慢をする気はなかったが、別に隠すことでもないだろうと、ジオは語った。



「ふん、俺は…………………………」



 だが……





 ……数分後……


「つーわけでだ……まぁ、マシンだったか? テメエにキツク絡んだのも、なんか妙に自分と重なって見えたってのがあってよ……イライラしちまったんだよ。そんなとこだ」


 自分の身に何が起こったのかを自嘲しながら語るジオ。

 だが、ジオの話を聞いた一同からは……



「なんじゃ、つまらん。ようするに、拗ねて家出しただけであろう」


「話に聞く限り、すれ違いはあったようだが、今では別に嫌われてもいないと思うし、追放もされていないと思うが」


「つか、あんた好かれてんじゃん」



 三人からの反応は意外なもので、ジオの不幸な話を聞いても、むしろ「そんなもん?」みたいな様子で、むしろジオにも問題があったような言いぶりであった。



「ちょ、お、おま、俺がどんだけ傷付いたと思ってんだ! 仲間に急に忘れられて、体中を切り刻まれて、罵倒され、んで三年も飲まず食わずで暗闇の世界に押し込められて!」


「ワシは数百年じゃぞ? まぁ、ワシの場合はほとんど寝ていたようなもんじゃが……でも、仲間は悪いと思って謝っておるんじゃろ?」


「大魔王の所為なら仕方あるまい。仲間たちも忘れたくて忘れたわけではないのであろう」


「つかさ、あんたみたいな不良キャラが周りから好かれてたって時点で冷める。そこは嫌われとけよと思う。半魔族で不良キャラなのに好かれて、更にお姫様と結婚話もあったとか、もう爆ぜろ……って、うわああ、すんません! 調子乗り過ぎました! すんません!」



 ジオは、同情や哀れみなどは嫌いな方である。

 正直、自分の身に起こったことも、同情されたかったわけでもなかった。

 ただ、話しただけ。しかし、それがここまで言われるとは思わず、唖然としてしまった。


「ぐわはははははは、ま~、そういうことじゃ、小僧。確かに泣きたくなるような話かもしれんが、ウヌが広い心をもって歩み寄ってやれば、まだやり直せると思うがな。正直……人によって大きい小さいはあるかもしれんが……拗ねた恨み事や、その身に起こった悲劇など、いつの時代でもどこにでもありふれておるわい」


 自分を見下すかのように笑うガイゼンに、ジオは殴りかかろうともした。

 だが、どういうわけか否定できないという気持ちもあった。

 目の前で笑う豪快な男に対して、何故か自分の器の小ささを指摘されている気がして、何も言い返すことが出来なかった。



「というわけじゃ。さっさと帰って、姫さんとイチャコラすればよかろう。きっと今なら多少の贅沢や我儘も言えるじゃろうし、その方が幸せになれる」


「っ!? だ、誰が! ……けっ、今さら戻れるかよ……それに、もうあいつらのことは、どーでもいいと思うことにしたんでな。たとえ、どんな事情があっても……許せねーよ……俺は」



 しかし、それでもジオにも意地がある。そして、ガイゼンがどう言おうが、それでもやはり自分は許せる気がしない。

 だからこそ、改めて自分の想いを口にした。

 すると、ガイゼンはそれには納得したように頷いたが……



「ふっ、そうか。まぁ、そこら辺は本人次第じゃからのう。じゃが……仲間から忘れられたことによってウヌに起きた悲劇……それとは別の、ウヌのもう一つの悲劇……そっちはどうじゃ?」


「はっ? 俺のもう一つの悲劇……だと?」



 自分に何かもう一つ悲劇があったのか? そう首を傾げたジオに対して、ガイゼンは……



「血肉沸き立つ戦に参戦できなかったということについて……戦うべき時に戦うことが出来なかったという悲劇……」


「ッ!!??」


「それを解消したいのであれば、こういうのはどうじゃ?」



 突如立ち上がったガイゼン。まっすぐな目でジオに手を差し出して……



「暴れたいと言うのなら……どうじゃ? 地上でも海でも魔界でも、誰が相手でも構わん。何を目指すのも構わん。ただ、ワシと一緒に世界を舞台に、自由に生き、自由に暴れて、自由に遊んでみぬか?」



 それは何の具体的な説明の無い勧誘のような言葉。

 しかしどういうわけか、ガイゼンの惹きつけるような豪快な誘いを聞いた瞬間、ジオの胸は一瞬大きく高鳴った。

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