第15話 ラブレター
『この手紙を読んでいただいているということは、ほんの少しでも興味を持っていただけたのですね。
突然の手紙でアナタは大層驚かれたかと思います。差出人不明の手紙がアナタの通学用鞄の中に入っていたのですから。
捨てられることも覚悟しておりましたが、こうして読んでいただけて、私はとても感激しております。
さて、まずこの手紙の目的をアナタに伝えなくてはなりません。
私はアナタのことを愛しております。
好きや好ましいなどの軽い気持ちではありません。
私は本気でアナタのことを愛しております。
アナタの為ならば私は自分が出来る全てを掛けてアナタに尽くします。いえ、たとえ出来なくてもアナタが満足するように努力を惜しみません。
それだけアナタを愛しく思っているのです。
この気持ちに返事は要りません。私がアナタに伝えたかっただけなのです。
これからもアナタのことをずっと見守っております。
もし、アナタが私を必要としてくれるのであれば、アナタの学校の机の中にこの手紙を置いてください。
そうすれば私はアナタの下へ参り、アナタの為に動きましょう。遠慮なく使ってください。
心からアナタのことを愛しております。
そして、これは私の我儘ですが、どうか私の気持ちを踏みにじらないでください。
……愛が憎しみに変わるのは嫌ですから。』
俺は自分の鞄の中にあった手紙を読み上げた。
高級そうな封筒に万年筆で達筆な字で書かれている。
俺は手紙から顔を上げると、自分の席に座っているクラスメイト達の顔は青ざめていた。
誰も手紙の内容を茶化すことはなく、ある人は頭を抱え、ある人は小さな嗚咽を漏らした。
俺も手紙を持っている手が震えた。気味が悪くて仕方がない。
俺はこの手紙を読む前にこの内容を知っていた。
もう俺は手紙の内容を25回聞いていたからだ。
そして出席番号が最後の俺が26回目となる差出人不明の手紙を読み上げた。
誰かの悪戯と笑い飛ばせれば良かったが、これは悪質過ぎて笑う気も起きない。
俺は高級そうな手紙を後ろの黒板にテープで貼り付けた。
そこには既にクラスメイト全員宛の手紙が貼られている。しかし、並んでいる手紙は内容こそは同じだが、他は全て違っていた。
折り紙の裏にクレヨンで幼児が書いたような物、質素な手紙に普通に書かれている物、ノートの切れ端に暗号みたいな文字(ギャル文字というらしい)で書かれている物。
全ての手紙が筆跡と手紙の材質が異なっていたのだ。
「……ねぇ、この手紙どうするの?」
1人のクラスメイトがポツリと呟いた。
俺達は全員で話し合い、手紙をまとめて焼却炉に焼べることにした。
こんな不気味な手紙を持っていたくないという人が多数いたからだ。
俺達は全員分の手紙がある事を確認して、焼却炉に入れて火を付けた。
パチパチとよく燃える手紙を見て、俺はふとある一文を思い出す。
『そして、これは私の我儘ですが、どうか私の気持ちを踏みにじらないでください。
……愛が憎しみに変わるのは嫌ですから。』
この行為が差出人の憎しみにならないよう祈りながら、俺は焼却炉の扉を閉めた。
終わり
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