第9話 古本

「あ、あった!」


 私は棚に並んでいる本の中から一冊の文庫本を手にして、顔を綻ばせた。

 その本は私がずっと探し続けていたものだった。

 別の本で載っていた紹介文を見て、興味を持った私は図書館や本屋で探していた。

 しかし、その本はすでに絶版してどこにも売っていなかった。近くのリサイクルショップで探しても有名な著書でもなかった為、なかなか見つけることが出来なかった。

 今日は遠出をしたついでに個人経営をしている古本屋に立ち寄ったのだが、まさか見つかるとは思っていなかった。

 値段も100円のシールが貼ってあり、私はすぐに購入した。ここで買わなければ、もう手に入らない気がしたからだ。

 私は紙袋に入った本を大事に抱えて、自宅へ帰った。

 ようやく読めるとウキウキしながらページをめくると、本の間に1枚の紙が挟んであった。

 2つ折りされた小さな紙をつまみ取る。

 前の持ち主が栞代わりに挟んだのだろうか?

 私はそう思いながら、ぺらりと紙を開いた。


「うわっ!」


 開いた紙の中身を見た瞬間、思わず声を上げて本とメモを落とした。

 メモには誰かの名前と住所、年齢と特徴が事細かに書かれていて、その上に赤いペンでばつ印が付けられている。

 そして本のタイトルは『とある殺人鬼の日記』という実録小説だった。

 気味悪さを感じた私はメモを破り捨て、本を近くのリサイクルショップに売った。

 それ以来、古本を買う時は隈なく確認してから買うことにしている。


終わり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る