第4話 頭痛
これは俺がファミレスで体験した出来事だ。
昼食を取る為にウエイトレスに案内された席は角席の隣だった。角席には大学生と思われる2人組の男が向かい合わせに座っており、片方がコーヒーを飲み、もう1人が頭を抱えていた。
俺は頭を抱えている男を背にした席に座り、メニュー表を取り何にしようか考えていた。
すると後ろから男の呻き声が聞こえる。状況を察するに頭を抱えていた男の方だろう。
そして俺の予想通り、後ろの男が溜め息とともに苦痛を吐き出した。
「はぁー、マジで頭いてぇ」
「それさっきも言ってたな。いつから痛むんだよ」
「昨日の夜から。ズキズキと頭全体がいてぇから、マジ辛い……」
「頭痛薬は飲んだ?」
「飲んだ。けど効果ねぇ」
「しょうがねぇな。ちょっとみてやるよ」
「ああ。頼む」
カチャリとコーヒーカップを置く音が聞こえた。
なるほど、奥にいた男は医学生なのか。触診などして原因を調べるのだろうか。
ジジジジッ。
後ろでチャックを開ける音がする。その後、グチュグチュと粘膜をかき混ぜる音が聞こえ始めた。
最初は鞄から道具を取り出してジェルで消毒しているのかと思ったが、そのかき混ぜる音がいつまで経っても止むことはない。それにオイルのようなつんと鼻につく臭いがしてきた。
いったい何をしているんだと、俺が後ろを振り向こうとしたら、診断している男が「あっ」と声を上げた。
「お前、記憶媒体の部品の使用期限が切れてるじゃないか! 何で替えなかったんだよ‼︎」
「いや、まだ使えるし。その時金欠で……」
「バカ‼︎ ココは重要な箇所だから、使用期限が切れる前に交換しろと上に言われただろう⁉︎」
「そう、だっけ?」
「はぁ、もういい。今から知り合いの店で取り替えてもらうぞ」
診断していた男が溜め息をつくと、ぐちゃりとまた不快な音がし、チャックを閉める音が聞こえた。
ガタリと音を立てて2人が席を立つ音が聞こえた。そして、2人は俺の横を通って会計へ向かう。
その時に頭痛に苦しむ男のこめかみからつぅーっと赤黒い液体が流れ落ちた。そしてもう1人の男はハンカチで両手を拭っていたが、まだ濡れている手は頭痛の男がこめかみから流したソレと同じ色をしていた。……微かにオイルの臭いもする。
2人は会計を済ませて店を出て行き、視界から消えたことを確認すると、いつの間にか止めていた息を吐き出した。
荒くなった息を整えようとすると、額からドッと流れた汗を手の甲で拭う。
背後で聞こえた2人のやり取りと何かをかき混ぜる音、あれは頭痛に悩む男の頭を開けて原因を手探りでまさぐっていたのか?
そんなことはありえない。タチの悪い冗談に決まっている。
冗談だと思うのなら、すぐにでもあの2人を追いかけて確かめればいい。
確かめたい気持ちはあるのに、足はピクリとも動かない。代わりにようやく動けるようになった首で、ゆっくりと後ろを振り向く。
……後ろのテーブルには赤黒くオイルの臭いがする液体が散らばっていた。
完全に食欲を無くした俺は、空腹と気持ち悪さでフラつきつつも席を立ち店を出て行く。
もう二度とこのファミレスに行かないと心に決めながら。
終わり
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