夏休みだからこそはしゃぐお姉さん
「お、こっちの方で動画投稿されてるな」
日本某所にて、一人の男性が食事をしながらパソコンの画面に目を向けていた。その画面に映っているのはつい先ほどアップされた動画で、それは真白が隆久とのラブラブな日々を記録に残すために作ったサブチャンネルである。
元々男性は真白のファンだったが、隆久のことも心の底から受け入れており二人のやり取りを楽しんでいた。若干の寂しさがなかったわけでない、それでも真白が楽しそうにしているのを見て応援したいと思ったのである。
「サウンドオンリー?」
どうやらこの投稿された動画は映像を見るというよりは音声を楽しむタイプのものらしい。真白が投稿しているものだとASMRがそれに該当するが、それに似たようなものかなと男性は思った。
何にしてもクリックして聞いてみないと始まらない、ということで男性はその動画のページを開くのだった。
「……おぉすっげぇ」
投稿されてから二時間程度しか経ってないのにも関わらず再生回数は十万再生を突破していた。高評価の数もかなり多く、一体どんなものなんだと男性は期待をその瞳に滲ませながら再生ボタンを押すのだった。
すると、聞こえてきたのは戸惑う隆久の声と楽しそうな真白の声だった。
『……これは流石に恥ずかしいんですけど』
『ふふ、音だけだから大丈夫よ~♪』
「……なんだ?」
声が反響する場所に二人は居るようだが……一体どこに居るのか、それはすぐに分かることになる。二人の声に続くようにシャアっという音が聞こえ、その音は男性にとっても毎日聞いている音だった。
「……シャワーか? ということはまさか!?」
そうだと男性は合点がいった。この音は間違いなくシャワーの音、つまり真白と隆久はお風呂場にいるということだ。
『たか君、目を瞑ってね』
『は~い』
諦めたのかは分からないが、幼い子供の様に間延びした隆久の返事だ。クスッと笑った真白の仕草、そこからおそらく……頭を洗っているんだろう。映像はなくて音声のみ聞こえるからこそ想像を掻き立てられるというものだ。
「……いいなぁ。素直に良いなって思うわこれ」
真白の美貌とその抜群のスタイルを知っているからこそそんな言葉が漏れた。あのような美人と一緒の屋根の下に居るというだけでも幸せなのに、お風呂さえも一緒に入れるなんて……あり得ないが少しだけ、男性はそのことを想像してしまう。
『ふふ、次は体を洗うわよ? ……ふへ』
体を洗う、その後に続いた女性が決して出してはいけないような笑い声……完全に真白の喋り方が変態のそれだ。今までこんな真白は見たことがなかったのは当然、しかしそんな真白の姿を引き出しているのが隆久という存在だ。
いいぞもっとやれ、そう思いながら続きに期待をする。そうこうしている間に増えていく高評価と再生回数、みんな考えることは同じだなと男性は苦笑した。
『……真白さん? えっと……改めての確認なんですが、これは一応サブチャンの方に上げるんですよね?』
『そうよ? バッチリ上げるけどどうしたの?』
『……いえ』
『うふふ~♪ あらあらたか君、少し顔が赤いけど?』
『分かってますよね真白さん!』
『たか君が可愛くてね。お姉さん揶揄ってしまったわ♪』
一体何をしているんだ! そう男性は心の中で叫ぶのだった。
シャワーの音が止み、石鹸で泡立てる音が聞こえたまでは良かった。そうして聞こえてきたのは……何だろうか、体を洗っているような感じはするのだが。
『こうやって体を洗うとドキドキ――』
『おっほん!!』
……何となく、何をしているのか理解できた。
羨ましい! もっとやれ! それくらいしか言葉が生まれないくらいに語彙力が低下してしまう凄まじい内容だった。
『という風に私たちは毎日……は流石に言い過ぎだけど、お互いにラブラブしながら日々を過ごしている感じです♪』
『……恥ずかしい、恥ずかしいのに喜ぶ自分が居るんですよ』
『いいじゃない。そんな風に言ってくれるたか君好きよ』
恥ずかしいけど喜ぶ、それは当たり前だしおかしなことではないだろう。真昼間から何を見ているんだって気持ちに男性はなってしまったが、やっぱりこの二人のやり取りは心が安らぐ……ちょっとドキドキしてしまったのは当たり前だが。
『ねえたか君、後でたか君のシャツを借りてもいい?』
『別にいいですけどどうしたんです?』
『よくよく考えれば彼シャツっていうのをやってなかったから♪』
その言葉に男性はだからかと納得した部分があった。
動画を一旦停止し、スマホを取り出してSNSを開いた。向かう先は当然真白のアカウントである。
彼シャツ、たか君に撮影してもらいました♡ そんな文章と共に久しぶりに真白のエッチな写真が投稿されていた。
「そういうことか……ふ~んエッチじゃん」
隆久のカッターシャツのみを着た真白の姿、胸元は当然際どく見えており谷間は当然として……ボタンを留めているもののとても苦しそうだ。そして下半身に至っては綺麗な足が惜しげもなく写っている。挑発する豹のように、ベッドの上でポーズを決める真白の姿は控えめに言ってエッチだった。
「……続きを見よっと」
「ふんふふ~ん♪ ふんふんふ~ん♪」
「ご機嫌ですね」
「それはそうよ。たか君が傍に居るから♪」
俺の隣に座るYシャツ一枚の真白さんは嬉しそうに微笑んだ。その綺麗な微笑みはもちろんだが、反するかのような際どい姿にやけに心臓が脈打つ。しかも自分の服を着られているというのは何というか……悪くはないなって思った。
「あらあら、何を思ったのかなぁ?」
ツンツンと、人差し指を頬に当ててくる真白さんに何でもないですと返す。するとそんなことはないでしょと身を寄せてきた。そして、嬉しそうに笑みを浮かべながら言葉を続けた。
「本当にいいものね。配信者っていう立場だからあまり時間に左右されない、だからこそたか君と一緒に居られるんだもの」
「……そうですね」
確かにそれは思う……俺はゆっくりと手を伸ばした。
真白さんの頬に指を這わせ、手の平で包むようにするとすべすべの肌の感触が気持ちいい。
「……っ」
「真白さん?」
頬を赤くして目を逸らすも、チラチラと恥ずかしそうにする真白さんに俺は首を傾げた。すると、真白さんは恥ずかしそうな表情のまま俺の手を掴んでこう口にするのだった。
「今のたか君の表情が凄くかっこよかったの。まるで……何て言えばいいのかな、王子様みたいな感じでかっこよかった」
「……っ」
次はこっちが照れてしまった。
入れ替わるように顔を赤くした俺を見て真白さんはクスッと笑い、立ち上がって冷蔵庫に向かった。
「良い感じにお互い照れたということで、シュークリームでも食べましょうか」
「あ、それって駅前のですか?」
「うん。実は買っておいたの」
駅前の有名な菓子店でしか買えないシュークリーム、いつも売り切れ続出とされているそれを食べることが出来るとは……ありがたやありがたや。
普通のもあればチョコであったりメロンが混ぜ込んであったりと……うん、これは噂に違わず美味しそうだ。二人でシュークリームを手に取り、いただきますと言って口に運んだ。
「……美味い!」
口の中に広がる甘さ、気を抜いたらガツガツと食べてしまいそうになる美味しさだった。ただクリームが顔に付いてしまったので、それを取ろうとするとそれに待ったをかけたのが真白さんだった。
「お姉さんが取ってあげる」
真白さんが近づき、ペロッと舌で俺の顔に付いたクリームを舐めとった。そして気づいたのだが、真白さんも分かりやすくクリームが付いているではないか。それを指摘しようとした時、真白さんは俺に向かって顔を近づけてくる。
「……ん!」
「……えっと」
「ん! ん!」
……なるほどそういうことですか、俺も真白さんがしたようにペロッとそのクリームを舐めとった。満足したようにうんうんと頷いた真白さんはスマホを取り出し、俺を含め手に持ったシュークリームが写るように写真を撮った。
「たか君の顔は映ってない……よし! 彼と一緒にお菓子タイムっと」
どんどん世間様に伝えていくスタイル、真白さんの投稿はしっかりと俺もリツイートしておくことにしよう。
こうして家に居るだけで幸せになれる真白さんとの時間、これから配信もそうだし旅行にも行く予定だ。学生としての夏休みはこれが最後……だからこそ味わえるその時間をしっかりと真白さんと楽しんでいこう、俺はそう考えるのだった。
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