ちょっと興味を示した由夢さんの妹さん

「セリーナとのオフコラボとかすげえなぁ」

「本当にな。めっちゃ楽しかった」


 翌日の学校での一幕、やっぱり昨日の配信を見ていたのか宗二から開口一番にそんなことを言われた。Vtuberを数多く抱える企業の中でも、由夢さんが属しているVライブはかなり有名な企業だ。古株であるセリーナたち一期生に続くように、数多くの後輩たちが続々と現れファンを獲得している。


「どんな人だったんだ?」

「良い人だったよ」


 流石に本人を特定出来るような情報は口に出来ない。ましてや白沢さんの実の姉なんてことも言えるわけがない。宗二としてもその辺りのことは分かってるのか深く聞いてくるようなことはしなかった。


「おはよう工藤君、前田君」

「おはよう」

「おっす秋月君に三好君」


 宗二と話をしていると秋月君と三好君も登校してきた。最近知ったのだが、三好君はかなりのVtuberファンになったらしい。グッズはもちろん、ASMRにも数多く手を出しているようだ。


「三好君の最近の推しは誰なん?」

「最近一番追っかけてるのは天童てんどう朝陽あさひかな」

「ほう」


 天童朝陽、由夢さんと同じ企業に所属するVtuberだ。そこまで詳しいわけではないので知っていることは少ないが、彼女もまたVライブに所属するライバーで二期生になる。三好君が追っかけているということで今度見てみようかな。


「でもあそこって結構問題起こしてるよな」

「新人がな! 看板に傷を付けるのやめてほしいわ」


 本当にやめろって顔をする三好君に俺たちは苦笑した。

 特に気になったりせず興味がなかったとしても、SNSをやっていれば勝手に入ってくる情報というものはある。所謂不祥事、Vライブに所属するライバーが起こした問題事だ。


「キャラの方向性を無視したり、彼氏バレやら色々……まあ恋人に関しては別にいいとは思ってるけどさ。それでも気を付けてほしいもんだぜ」


 俺が知ってる限りの事件だと、企業側から案件などを受ける際にキャラ付けが重要ということで方向性を伝えられたものの、元々考えられたキャラとは正反対の喋り方をしたりとかだったか? 後は彼氏バレ……スマホを使って配信をしていた時に操作を間違えてメッセージアプリが出てしまい、そこでの彼氏とのやり取りが大衆の目に晒されたのだ。


「あの時のやり取りは……うん、凄かったと聞いてる僕は」

「何が昨日は良かった今度は生でやろうだよクソが!!」

「お、落ち着け三好君!」

「その返しがえぇ~赤ちゃんできちゃうよ♡ ハートじゃねえんだよおお!!」

「……ダメだこりゃ」


 当時は凄かったもんなぁ。別に浮気とか不倫とかそういうものではなく、単純な恋愛の一幕だろう。でもVtuberってのはどこかアイドルのように見られている部分もあって発狂するファンが少なからず居るのも確かなのだ。

 件のライバーだけど清純なキャラって触れ込みだったし、そういうのも大事になった原因なのかもな。現在多少弄られることはあるし登録者も減ったが、彼女は元気に活動をしているらしい。


「それなのに……おっと」


 まだ話を続けようとしていた三好君だったが、騒がしい連中がクラスに入ってきたので身を小さくした。彼らは俺たち……正確には俺を見てどうして舌打ちをしてからそのまま歩いていく。思えばあの時、真白さんと林檎さんが迎えに来てくれた時からこうだった。


「なあ隆久、お前何かしたのか?」

「俺が? 何もしてないよ」

「だよなぁ」

「なんか悔しそうな顔してるよね」


 ……まさか美人なお姉さん二人と一緒に居たことに対して妬み的なやつか? まさかなと俺は首を振った。でもあり得そう……どうかめんどくさいことにならないでほしいと祈っておこう。

 というか、今週が終わると夏休みなのでしばらく彼らと会うこともない。ひと月もすれば忘れるだろうさ。

 それから時間は流れて昼休み、宗二たちと昼食を食べようとした俺だったのだが予想外の人物から声を掛けられた。


「やっほ、工藤君一緒にご飯食べない?」

「俺と?」

「うん」


 声を掛けてきたのは白沢さんだった。あぁでも由夢さん関係かなと思ったら納得できたので俺はその誘いに頷いた。宗二たちも含め、クラス中から珍しそうな視線を受けながら俺たちは屋上まで向かった。

 ベンチに二人で座ると、早速白沢さんが口を開いた。


「あたしさ、お姉ちゃんがVtuberっていうのをやっていることに驚いたんだよ。ずっと知らなかったけど、いざ調べてみると凄いんだね人気とか」

「まあね。今の時代、配信者ってのは立派な一つの職業みたいなもんだからな」

「みたいだねぇ」


 人気が出るか出ないか、圧倒的に人の目に触れることのない方が多いのも確かだろう。それでも知恵を絞って努力を重ねてファンを獲得した人たちが今の有名な配信者たちだ。真白さんも今ではあそこまで大きくなったけど、当時は本当に数字が伸びなかったみたいだしね。


「お姉ちゃんから色々と話を聞いてさ。私も色んな配信を土日で見たんだけどマシロって人は凄いね? ね、たか君」

「……あ~」


 これは知っているな……というか由夢さんだろうな話したのは。


「こんな美人さんが傍に居たら余裕も出ちゃうよね。うんうん納得したよ」

「……出来れば周りには――」

「他言するつもりはないから安心して? 同級生に何かしらの形で迷惑が掛かるのは嫌だし、お姉ちゃんがマシロさんを大好きみたいだし。それなら妹としては守りたいって思うもん」

「そっか……ありがと白沢さん」

「お礼を言われるようなことじゃないって」


 手を振って笑みを浮かべる白沢さんに釣られるように俺も自然と笑みが零れた。


「お姉ちゃんにおススメされる形で寝起きドッキリとか見たけどかなり大胆だね。この相手が工藤君って知ったらクラスの男連中発狂するんじゃない?」

「それは……どうなんだろう」

「それはそれで面白い気もするけど」


 本当に楽しそうに笑う白沢さんだ。

 今まで彼女とはあまり……というか全く話したことがなかったけど、とても話しやすい人なんだなと思った。由夢さんが可愛がる理由も凄く理解できる。


「工藤君とマシロさんを見てると……こういう恋人関係には憧れるよ。碌でもない男に引っ掛かった、なんて言ってもその人が良いなと思ったのは私だし。恋愛って難しいね凄く」

「……………」


 後悔……はなさそうだ。仕方ないって気持ちの方が強いのかもしれない。


「きっと良い人が現れるよ。俺が白沢さんとこうやって話をしたのは初めてだけど凄く優しい人だって思ったし」

「あはは、ありがと。少し前までは派手なギャルだなこいつって思ってた?」

「……いや~」

「あっはっはっはっは! 工藤君分かりやすいってば!」


 ええい、バシバシと背中を叩くんじゃない!

 まあでも、今言った言葉に嘘偽りはない。俺は本当にそう思ったんだから。それに上手く言葉に出来ないけど、笑った時の表情が由夢さんにそっくりなのだ。流石は姉妹、そう言う部分で似るのかもね。

 それから俺たちは弁当を食べ終え、少しゆっくりしていた時のことだ。白沢さんからこんなことを言われた。


「これから夏休みが始まるじゃん? 何か面白い配信をしてる人っている? マシロさんと“たか君”はこれから見ていくから省いてね。もちろんお姉ちゃんも」

「それはありがと……う~ん」


 面白い配信者はいくらでもいるけれど……あっと、俺はとある人を紹介してみた。


「ソウジーン?」

「実はこれ宗二なんだけどさ」

「前田君? 彼も配信してるの?」

「あぁ」


 目を丸くした白沢さんは早速宗二の配信を簡単に見てみることに。まだ動画の数は少なくやっているゲームもGTだけだが、初々しさとちょっぴり慣れてきた中間くらいの話し方が白沢さんは気に入ったらしい。


「……何というか、クラスでは考えられないくらい口が回ってるね。でも好きなことをやってるっていう気持ちは伝わってくるかな。視聴者の人とのやり取りも凄く楽しそう」


 確かにそれは俺も思っていることだ。心から楽しいと思えることをやっているからこそそれは言葉に乗って視聴者に伝わっている。リアルタイムで見ていたわけでもない俺や白沢さんにもそれは伝わるほどなのだから。


「いいなぁこういうの。あたしは配信とかしようとは思わないけど、こういうのは見ていきたいなって思うよ。あ、登録しておこうっと」

「……宗二泣いて喜ぶだろうなぁ」

「だといいねぇ。これ、本人に言ったら驚くかな?」

「ビックリすると思うよ」

「それじゃあ言わないでおこっと」


 悪戯っぽく笑った白沢さんは本当に良い表情をしていた。クラスでも人気の白沢さんがお前のチャンネルを登録してくれたぞ宗二! このことをあいつが知ることになるのはいつなのか、もしかしたらずっと知らないままかもしれない。でも確かに今宗二の登録者が一人増えたのは確かである。


「あっとそうだ。工藤君、お互いに名前で呼び合わない?」

「名前で?」

「うん。お姉ちゃんとは名前呼びしてるんでしょ? あたしもそうしてよ」

「……分かった。愛理さん」

「うんうん! よろしくね隆久君!」


 ちなみに、愛理さんが宗二のチャンネルを登録したのは気まぐれかと思っていたけどそれからもずっと動画は見ていたらしい。家で勉強している時にラジオ感覚で聴いたりすると手が進むのだとか。

 これから先、この出来事を切っ掛けに色々と変化が起きるのだがそれはまだ先の話である。

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