オフコラボを急遽企画するお姉さん

 セリーナさん……いや、由夢さんが来たということでせっかくだしオフでのコラボ配信をしようかという話になった。お互いに配信者という肩書を持っているのでそうなるのは当然ともいえるか。


「真白さん、胸元がブカブカなんですけど!」

「あら……まあそうなるわよね」


 由夢さんは当然顔を出すことは出来ないが、せめて真白さんのようにコスプレをして隣で喋りたいということで服を借りることにした。けれどほとんどの服で胸元がブカブカになるという問題点が発生した。


「……それじゃあこれはどう? 私が高校生の時に買ったものなんだけど」

「あ、それなら――」


 ということで、かなりのお古である服を試着……しかし、当然のようにブカブカだった。


「……いや分かってましたけど! うぅ……これが胸囲の格差社会なのか!?」


 まあ、真白さんに関しては仕方ない部分はあると思うけどね。

 結局何を着るか迷ったのだが、最終的に真白さんとお揃いでメイド服に落ち着いたようである。やっぱりブカブカだけれど、フリルの多い衣装なだけに可愛らしい由夢さんに似合っていた。


「いいじゃないですか。可愛いですよ由夢さん」

「……ありがと、たか君」


 頬を赤くして下を向いてしまった由夢さん、ちょっと不満そうに唇を尖らせる真白さんに見つめられて困っていると、由夢さんがボソッと呟いた。


「その……さ。異性の人にそうやって褒められることはそんなになかったから慣れてなかったの。だから照れちゃったんだよね」

「なるほど……」

「視聴者のみんなにいくら可愛いって言われてもそれはVとしての自分だから。まあそれも嬉しいんだけどね。とにかく、ありがとうたか君」

「いえいえ」


 ギュッと背中に抱き着いてきた真白さんに、由夢さんと一緒に苦笑するとむぅっと頬を膨らませてもっと強く抱き着いてくるのだった。甘えん坊で嫉妬もするし、けれどたくさん甘えさせてくれる可愛いお姉さん……はぁ、めっちゃ好きです真白さん。


「うん♪」

「え? たか君何か言った?」

「ふふん! 私はたか君の考えてることが分かるのよ♪」

「……恋人って凄いなぁ」


 いや、恋人関係でも心は読めないと思いますが……。


「……でも真白さんとたか君を見てるとこう……こっちまで幸せになります。こんなに仲が良くて、お互いに想い合って……ラブコメの主人公とヒロインを見てるような感じですもん」

「うふふ~。そうなると私は絶対に負けないヒロインって感じかしら♪」

「……う~ん、こんな素敵な人が傍に居たら目移りは絶対しないだろうし」


 ラブコメかどうかはともかく、どんな立場でもこんな人が傍に居たら他の女性に目は向かないと思うけどな。もちろん俺みたいな考え以外の人はたくさん居るだろうけれど、付き合う前でも真白さんにあれほどのアピールをされてしまったら絶対に逃げられないと思う……会った時点で捕まっているとも言えるのかな。


「逃がすつもりなんてこれっぽっちもなかったわ」

「っ……」


 耳元で囁かれ体が震えた。そのまま真白さんは俺の耳たぶをペロッと舐めながら言葉を続ける。


「ねえたか君、たか君は私にとって本当に一番の大切なの」


 それは俺だって同じだ。そう言葉を返そうとしたその時、真白さんは悪戯っぽく微笑みながらこんなことを口にするのだった。


「私がそう思うのと同じように、たか君も私が一番でしょ?」

「……はい」


 本当にそう思っていたからこそ素直に頷いた。背中に抱き着いていた真白さんは前に回り、そのまま俺の唇にキスの雨を降らす。ちなみに、由夢さんは顔を真っ赤にして手を顔に当てて隠していた……まあ、しっかりと指と指の間は開いておりガン見されていたわけだが。


「これが……これが真白さんとたか君の……ほわあああああああ!!」

「ゆ、由夢ちゃん?」


 ……何だろう、やっぱり彼女も一癖ある人みたいだ。

 さて、気を取り直そう。

 これから真白さんと由夢さんがコラボ配信をするわけだが、当然先ほど決まったことなので告知とかは何もしてはいない。由夢さんもセリーナとして告知はしていないので本当に急遽決まったものだ。ただ、マネージャーさんには連絡を取って許可をもらっているようなのでコラボ自体は問題はない。


「まあシンプルに雑談でしょうね。短めになりそうだけど」

「それでも全然いいですよ! 私、真白さんやたか君と色々お話したいですし!」

「……え?」


 おかしいな、今俺もって聞こえたんだけど……真白さんと由夢さんも俺を見つめて頷いているけど、これはたぶん色々と話を振られることになりそうだ。

 配信部屋に移動し、パソコン等を起動させて準備を始める。


「凄い綺麗ですね。配線とかも纏まってますし」

「ふふ、実を言うとたか君が来るまでは結構ごちゃごちゃしてたの。今のレイアウトとかは全部たか君の案でね」

「そうなんですか?」


 実を言うと真白さんの言っている通りだ。ごちゃごちゃしているとは言ったけどそこまでではあったのだが、こうした方がいいんじゃないかなって言ってみたらじゃあそうしてみようってなったのである。


「へぇたか君がですか」

「身の回りの整理だったりもそうだけど、たか君には本当に多くのことで助けてもらってるわ。今の私があるのは自分で積み上げたものもそうだけど、たか君の支えもあってのことなの。本当に感謝しているわ」


 真っ直ぐに見つめられてしまい、照れくさくなった俺はさっきの由夢さんのように顔を伏せてしまった。


「……可愛い」

「でしょう? たか君ったら本当に可愛いんだもの!」


 またもやギュッと抱き着かれてしまった。倒れそうだったものの何とか踏ん張って真白さんの体を受け止める。胸元にスリスリと顔を当ててくる真白さんの頭を撫でていると、こちらを微笑まし気に見つめる由夢さんと目が合った。


「何というか、お互いに多くの魅力があるんですね。二人を見てると私も恋人が欲しいなって思うけど……う~ん、出会いがないからなぁ」

「きっと素晴らしい出会いがあるわよ。恋愛なんて急ぎ過ぎると間違えてしまうこともあるし、のんびりゆっくりとすればいいわ」

「そうですね……はい!」

「仮に好きな人が出来てもゆっくりね? キスをしたくても、もっとイチャイチャしたいと思っても時には我慢が必要だわ」

「なるほど……ふむふむ」


 まるで真白さんが恋愛の先生みたいだな。

 っと、そうこうしている間にソフトとかも全て立ち上がったみたいだ。真白さんがこれから配信をすると投稿すると、早速多くの反応が返された。生放送のページを作るとすぐに三千人ほどが一気に集まった。突然のことだからそこまで集まらないかもと言っていたけど、このペースだとすぐ万は越えそうだ。


「それじゃあ始めるわね? たか君」

「はい! ほらたか君も!」

「……あい」


 どうやら俺も一緒にやるみたいだ……ええいいつもと同じと思え!

 真白さんの隣に座ると、その俺の隣に由夢さんが座った。画面に映る構成としては真白さんはいつものように映っており、その隣に少しだけ映っている俺が居る。そして動かないセリーナが映されていた。


「よしっと。みなさんこんにちは~」

「こんにちは~」


:こんちゃ!

:いきなりだったね

:なんでセリーナ?

:……まさかそういうことか

:まさかまさかなのか!?


 早速察しの良いコメント欄に苦笑してしまった。真白さんが頷くと、由夢さんは笑顔で頷いて口を開く。


「どうも~セリーナで~す! 今日は真白さんとたか君の愛の巣にお邪魔しているんだよ~!!」


:マジか!?

:ゲリラにしては豪華すぎんか

:オフコラボとか最高すぎる!

:おのれセリーナ……俺より先にたか君を見たのか

:どういうこと?


「ふふ~ん。たか君の顔とかこれでもかって見ちゃったもんね♪ いやぁ今日は良い日だなぁ。みんなが見れない二人のイチャイチャ、それを近くで見れたんだ。お前たちざまあみろ♪」


:はっ?

:何言ってんのこの猫女

:調子乗んな

:また炎上するぞ


「またって何よ炎上してないってば!!」

「あはは……」

「ふふ」


 完全にセリーナのキャラになり切った由夢さん、そんな彼女の声がこうしてすぐ隣から聞こえてくるのはとても不思議な気分だ。って、マイカーさんが今ズルいってコメントしてたぞ。


「マイカーさん、オフコラボは私が一番乗りでした! いえ~い!!」

「……なるほど、こうやって敵を作っていくんだなセリーナさん」

「たか君!?」

「そうね。あまり真似はしたくないわね」

「真白さん!?」


 さてさて……って、セリーナが参加することが分かったからか一気に人が増えてきた。真白さんのファンだけでなくセリーナのファンも混じっているはずだ。ところどころ見知らぬ名前があるけど、由夢さんはそれが分かっているかのように言葉を返してるし。


:3000¥ たか君今度デートしてくれ


「はっ? アンタ何言ってんの?」

「ひっ!?」


 真白さんのとてつもなく低い声に由夢さんが怯えるように仰け反った。

 こうして始まった突然のオフコラボだけど、一体どういう風に終わりを迎えるのか全く予想が付かないんだが大丈夫だよな?

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