昔の素晴らしきお姉さん像を語るお姉さん
「そうそう、それで……あら?」
セリーナちゃんと思いの外話し込んでしまって気づいたのだが、隣で一緒に横になっていたたか君が目を閉じて動かなかった。彼も話に参加していたけど眠気の方が勝ってしまったみたいだ。
『どうしたんですか?』
「たか君が眠ってしまったのよ」
さっきのこともあって体は火照っているし、興奮が残っていないわけではない。だからセリーナちゃんの電話がなかったらこれでもかと愛し愛されていたと思うけれど今日はもう仕方ないかな。
少し残念に思いながらも、たか君の寝顔が可愛くてやっぱり私はそれだけで満足してしまう。
『ごめんなさい、タイミングが悪かったですね』
本当よ……とは言わなかった。
セリーナちゃんと話をするのは嫌ではないし、ご実家がとても近いということも知れてちょっと嬉しかった。Vtuberとして活動する彼女とオフで会うのは色々とリスクが高いものの、彼女の方は是非会いたいと言っているし……もしかしたら近い内にオフコラボの可能性も無きにしも非ずって感じだ。
「この可愛い寝顔は私だけが独占するんだもの、セリーナちゃんはそこで悔しさに打ち震えるといいわ♪」
『くぅ~! どうして私はあの時たか君を見なかったんだ!!』
仮に見たとしてもその段階ではただの通行人でしかなかっただろうからそこまで記憶には残らないだろう。とはいえ、私と彼女が会うということは必然的にたか君も出会うことになる……まあ、特に何も起きはしないか。
『そういえばお姉さま、たか君とは中学の時に出会ったんですよね?』
「そうよ。私が中学生でたか君が小学生の時にね」
『迷惑でなければどんな風に過ごしていたのか聞いてもいいですか?』
「構わないわ」
別に聞かれて困ることでもない、だから私は話し始めた。
たか君に出会い、たか君と触れ合い、たか君を好きになった自分のことを。
~七年前~
「……はぁ」
机に入っていた手紙を見て私はまたかとため息を吐いた。
お母さん譲りの金髪から始まり、体も周りの子たちより遥かに成長が早かった。外見に関しても自分で自覚する程度には整っていることは分かっていたので、自分の見た目が男子たちに好まれることも必然と理解していた。
何回目……何十回目? 数えることもめんどくさくなるほどに私は男子から告白をされていたけれどそのどれもに興味はなかった。
「た、高宮さん! 良かったらこの後――」
「ごめんなさい。すぐに帰りたいからまたね」
「あ……」
声を掛けてきた男子に目を向けることもなく、私は廊下に向かって歩き出した。男子から声を掛けられることもそうだし、手紙を含め対面での告白をかなりされるからこそ私は女子からは毛嫌いされていた。特に何かをした覚えもない、単純に彼女たちは目立つ私が気に入らなかったのだ。
「……ちっ」
「お高く止まってさ生意気だわ」
「外人のクセに。日本から出て行きなさいよ」
「……………」
外人のクセにって……私はハーフなんだけど半分間違ってない……のかな? とはいえそんな戯言に耳を貸すこともない。何の反応も返さないということは相手にしていないということ、それを理解した彼女たちは更に怒りを露わにする……本当に友達関係ってのはめんどくさいなって思うよ。
もちろん、クラスのみんながそうではない。仲の良い友達は居たし、先輩も後輩も私を好いてくれる人たちはそれなりに居た……彼女たちのように露骨に私を嫌う人たちが目立つだけだ。
「……はぁ」
またため息が零れた。
長くもサラサラとした金髪、黒くない瞳、顔立ちもそうだし私はロシア人の母の血を色濃く受け継いでいた。この見た目に関して馬鹿にされると……顔には出さないが母から受け継いだ大切な物を馬鹿にされているようで気持ち良くはない。
心配してくれる友達に大丈夫だからと言葉を返し、放課後ということですぐに学校を出た。向かう先は当然、いつもあの子が来てくれる公園だった。
「今日はまだ来てないのかな?」
あの子……大分前に知り合った子でまだ小学生の男の子だ。人懐っこくて可愛らしく、私の心を掴んで離さない男の子……あぁたか君! たか君に早く会いたいよおおおおおおおおおおお!!
「……はっ!?」
おっといけないいけない。
ちょっと気を抜くとすぐに暴走しそうになってしまう。彼女たちにどんなことを言われても響かない私だけど、たか君のことを考えると物凄く気持ち悪い顔をしているとはお母さんの話だ。失礼な……私はただ純粋にたか君のことを考えているだけなのに! というか、別に普通だよ? 私はたか君にとって頼れるお姉さん、優しくて綺麗な立派なお姉さんなのだ!
「……むふぅ!!」
鼻息荒く握り拳を作って頷いた。
そんな私だったが、たか君の為に培われたたか君察知レーダーがビビッと反応を見せた。サッと公園の入り口に目を向けると、そこには辺りをキョロキョロしながら私を探すたか君の姿……あぁもうもうかあいいんだけどもう!!
「たか君!」
「あ、まーちゃん!」
「……ふへ」
まーちゃん、なんて幸せな響きなんだろう。気持ち悪い笑いが出そうになり瞬時に引っ込め、余裕のあるお姉さんを演じるように私は姿勢を正した。タッタと音を立てて走ってくるたか君に向かって腕を広げると、たか君は少し戸惑うようにしながらも私の胸に飛び込んできた。
「うふふ~♪ たか君は可愛いねぇ」
「……ちょっと恥ずかしい」
何を言ってるのよ! まだ小さいんだからたっぷり甘えなくちゃ! 元からそこそこ大きかった私の胸、たか君への愛を囁きながら一人で色々したりした影響か更に大きくなってしまった。集める異性の視線、肩凝り……色々な問題はあれど、こうしてたか君が恥ずかしがっている姿を見れるのならばどうでもいい悩み事だ。
「たか君はお姉さんのおっぱい大好きだもんね?」
「……あい」
「素直なたか君大好きよ!」
「わぷっ!?」
思いっきり抱きしめるも、当然苦しくないようにするのを心掛ける。張りはもちろん柔らかさもお母さん譲り、自慢の感触をどうぞ堪能あれ♪
「……まーちゃん、ずっとこうしてるの?」
「……………」
ずっとこうしていたんですけど何か? というか照れ顔可愛いな私を悶絶させる気かなたか君。それとももっと激しい事や刺激のある事をしたいっていう意思表示……ってそんなわけないか。私はいつでもいいんだけど、流石に小学生のたか君にそこまで求めるのはダメだろう。
照れているたか君を見つめ続けるのもそれはそれで至福の時間だが、そろそろお家に方に行こうか。たか君の大好きなお菓子とかたくさん買ってるし、家ならもっとたか君とイチャイチャできるもんね!
「……ふわぁ」
「あら、眠たいの?」
家に着いてからはお菓子を食べたり、ボードゲームやテレビゲームをして遊んでいたけどたか君が眠たそうに欠伸をした。うつらうつらとするたか君を抱きしめたい衝動に駆られながらも、私は自身の膝の上をポンポンと叩いた。
「膝枕してあげる……きて、たか君」
「うん……」
目元を擦りながら私の膝に頭を置いたたか君はすぐに眠ってしまった。
一人残された私は手持ち無沙汰になってしまったけど、こんな時間もやっぱり幸せで素晴らしい。学校で色々とある私だが、それを上回るほどの幸せがたか君との間にあるから平気なのだ。
「……今日も配信するかなぁ」
中学生の身でありながら生意気? そう思われるかもしれないけど私は配信者という肩書を持っている。登録者も一万人を超えてそれなりに大きくなった。まあ、集客のMVPは私の胸なんだろうけれど。
「……ふふ」
男の人……女の人も居るかもしれないけど単純だなって思ってしまう。
でも残念、私の全てに触れられるのはたか君だけなんだから……やっばい本当に寝顔可愛いな。
「……誰も居ない」
私とたか君しか居ないので誰も居ないのは当然だ……よし。
「……まーちゃん」
「っ!?」
夢の中でも私と!?
……え、これはもう行っちゃっていいんじゃないの? いいよね神様、いいよねたか君私本当に行っちゃうよ?
「……ふ……ふふふ……ふへへ」
眠るたか君の柔らかそうな唇に向けて。真白、行きま~す!
「真白」
「むがっ!?」
あと少しで触れるという瞬間、私とたか君の間に何かが入り込んだ。それは誰かの手で、私の顔を包んだと思ったらギュッと握りつぶすかのような力が込められた。一体何と思ったのも束の間、グッとそちらに視線を向けさせられた。
そこに居たのは阿修羅だった。私と似た顔立ちの悪鬼が私を睨みつけている。おのれ、お前なんかに私の愛を阻むなど出来るわけが――。
「お仕置きよ真白」
「いやあああああああああああああああああ!?」
たすけ……たか……く……ガクッ。
「ということがあったのよ~。後ちょっとだったのにね!」
『それは……お母さんグッジョブでは』
「何か言った?」
『いえいえ何でもないです!』
少しだけ、真白がヤバいやつだと気づいたセリーナだった。
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