突如現れた二人のお姉さん

 とある平日の午後、これまたとある場所に位置する人気の喫茶店に二人の美女が居た……二人と聞くと誰だという話になるのだが、答えを言ってしまうと真白と林檎である。

 真白の部屋で昼食を済ませ、買い物ついでに喫茶店に立ち寄ったのだ。


「……あぁ美味しい。いい雰囲気の所ですね」

「でしょう? たか君も結構気に入ってくれたのよここは」


 真白が良い場所があるからと林檎を連れてきたこの喫茶店は隆久も気に入っている場所だ。真白としては数年通っているわけだが、店主も店員もみな爽やかなのもあるし店の雰囲気も良くお気に入りだ。

 運ばれてきた紅茶とクッキーを味わう林檎の様子も大変満足しているようで真白は笑みを零す。


「……はぁ」


 スマホに目を落とし、時間を確認してから再びポケットに戻す。今の小さなため息は当然林檎にも見られており、真白がどうして今のようなため息を吐いたのか理由が分かってしまうため苦笑する他ない。


「あはは、隆久君が授業を終えるまでもう少しですね」

「そうね……はぁ」


 後少しすれば触れ合うことが出来る、だからこそ早くその時が来てほしいと感じてもゆったりとした時の流れが嫌になってしまう。真白は自分でも、そして隆久が考えている以上に寂しがり屋であり依存している。依存というものがダメだと理解していても、溢れ出す気持ちはどうしても抑えることは出来なかった。


「……えい!」

「わぷっ!?」


 隣に移動した林檎がギュッと真白に抱き着いた。突然の不意打ちに変な声を出してしまった真白だが、一体どうしたのかと林檎に視線を向けた。ペロッと舌を出した林檎はこう言うのだった。


「隆久君が傍に居なくて寂しいのは分かりますけど、寂しい時だからこそビシッとしてないと隆久君が逆に困りますよ?」

「そ、それはいけないわ!」

「でしょう? 真白さんの方がお姉さんなんですから、心にしっかりと余裕を持っていないと!」

「そうよね。私の方がお姉さんだものね……うぅたか君!」

「……可愛い」


 お姉さんだから、そう思って気持ちを奮い立たせたもののすぐに隆久を想い気持ちが沈んでいく真白の様子に、林檎は真白が年上であることも忘れて可愛いなと素直に口にした。

 とはいえ真白の方も林檎が傍に居るのに落ち込んでばかりは居られないと思ったのかすぐに気持ちを切り替えた。


「ごめんね林檎ちゃん、もう大丈夫よ」

「そうですか? それはよか――」

「私もお返しをしなきゃね!」

「わわっ!?」


 抱きしめられたのなら抱きしめてお返しを、林檎の体をギュッと抱きしめた。二人ともかなりのレベルの美女であり、更にはスタイルも抜群となるとこうやって身を寄せ合うと色々と大変なことになってしまう。ぎゅうぎゅう、ぼいんぼいん、正に色んな効果音が聞こえてきそうな光景だった。

 チラチラと男性だけでなく女性の視線さえも集める二人だが、当然真白は全く気にしてはいないし林檎に至っても同様だった。しばらくそうしていた二人だが、完全に持ち直した真白を見て林檎がこの間のGT杯に関しての話題を振った。


「そう言えば真白さんGT杯見ましたよ。凄かったじゃないですか」

「ありがとう。でも惜しかったのよねぇ」


 優勝を逃し惜しくも準優勝、だが本当に真白を含めチームの活躍は素晴らしかったのだ。林檎はゲームについてはあまり詳しくないが、それでも真白たちの戦いが興奮なしでは見られないものだったと熱く語る。


「それであの時の真白さんの動きが凄くて! それはもう――」


 完全にファンのそれである。

 ヒートアップし続ける一つ年下の林檎を微笑ましく見つめていると、そんな真白の視線に気づいて言葉を止める。確かに暑くなりすぎたかなと周りを見て林檎は冷静になったようだ。


「すみませんつい……」

「いいのよ全然。ふふ、林檎ちゃんをそこまで夢中にさせたなんて嬉しいわね」


 改めて言われると恥ずかしい、林檎は頬を赤くして俯いた。


「そう言えば、あの時の面子と交流は続いているんですか?」

「続いているわよ。その内たか君も含めて四人でやれるゲームをしないかって話をしているの。そろそろたか君のパソコンも届くから」

「おぉ、それは楽しみですね!」


 近い内……もしかしたら週末には届くかもしれない。真白が使っているパソコンとほぼ同じ性能を持った代物だ。処理の激しいゲームでも問題なく稼働するポテンシャルを秘めたパソコン、到底高校生の小遣い程度では買えないものだが全額真白の自費である。


「マイカーさんとセリーナちゃんからのお誘いなのよね。たか君とも是非遊びたいからって言ってくれて」

「ふふ、やっぱり隆久君は年上に好かれますねぇ」

「そうなのよね。そこも含めて全部たか君の魅力なんでしょうけど……私としてはちょっと不安な面もあったり」

「あはは」


 マイカーは言わずもがな、セリーナに関してはオフで年齢の話をしたが彼女は十九歳らしい。隆久の一つ上になるわけだが、お姉さまと真白を慕うのと同様に隆久ともそれなりに仲は良いのだ。

 ちなみに、最近セリーナはSNSの投稿はしているが配信の方はお休みしている。なんでも実家に戻るとかで一週間程度のお休みを取っているのだ。


『父と母もそうですけど久しぶりに妹にも会いたいんですよ。ちょっと派手な見た目で勘違いされてしまうことも多いですが、凄く優しい良い子なんです』


 そう言っていたセリーナの声には妹を想う優しさが込められていた。きっと里帰りをしている今、その大好きな妹と仲睦まじく過ごしているんだなと思うと微笑ましくなる。

 さて、そうやって林檎と時間を潰していると思いの外早く時間が過ぎた。


「林檎ちゃんちょっと待っててね」

「了解です♪」


 せっかくここまで来たのだから隆久を迎えにでも行こう、そう考えた真白は隆久にメッセージを送るのだった。





 最後の授業を終えたくらいに真白さんからメッセージが届いていた。なんでもすぐ傍に出ているからそのまま一緒に帰らないかとのことだった。俺としてはその提案はとてもありがたかったので二つ返事でお願いしますと返した。

 校門を出て道路の傍を歩いていくと、見慣れた車が停まっているのを見つけた。


「あれだ」


 どこかに出掛ける際にいつも乗せてもらっている真白さんの車だ。

 ……ただ、俺としては少しだけどうしようかなと思っていることがあった。


「それでさ、これからどうする?」

「カラオケでも行かね?」

「いいじゃん行こうよ」


 ちょうど傍に同じクラスの騒がしいグループが居たのだ。俺は彼らに目を向けることなくそのまま車の方へ向かっていく――その時だった。


「おい工藤、お前もカラオケ行くか?」

「どうせ一人でしょ? もしかして女と待ち合わせ?」

「んなわけないじゃん。だってこいつ、前田と一緒に変な写真見てたし」

「だよなぁ。彼女とか居るわけねえか!」


 ……うるさいなぁ、というか真白さんの写真を変って呼ぶんじゃねえ! って気持ちだけど、確かにあの写真を見ているのを外から見たらそりゃそういう反応になるのも仕方ないのかな。


「ほら行こうって。私たちだけで楽しも!」

「それもそうだなぁ。って待てよ工藤」


 背を向けて歩き出したら待てよって肩に手を置かれる。いや、なんで逆に俺を呼び止めるんだよって感じなんだが。


「いや、急いでるんだよ俺」

「暇なくせにか?」

「決め付けんなよ勝手に」

「はぁ?」


 ……めんどくせええ!!

 思わず舌打ちをしそうになった自分を抑え、とっとと腕を振り払って車に向かおうとした俺だったが、予想していなかった声が聞こえた。


「隆久君~! 早く帰るわよ~!」

「……えっ!?」


 真白さん……ではなく、この声は林檎さんだった。

 車らから降りた林檎さんはその大きな胸元を揺らしながら俺の元に駆け寄り、手を握るようにして引っ張る。突然の林檎さんの登場に俺だけでなく、クラスメイト達も呆気に取られていた。


「林檎さん?」

「来ちゃった♪ っていうのはアレとして、大切な彼女さんも待ってるわよ?」


 すると真白さんも降りてきた。

 ……相変わらず綺麗だなぁ、なんてことを思いつつ見惚れていると空いている手を取られた。


「ほらたか君、早く帰りましょう。お姉さん、ずっと寂しかったんだからね?」

「そうなのよ隆久君。真白さんったらずっとたか君たか君って」

「あはは……」


 そうですね、俺も真白さんに会いたかったですし早く帰るとしようか。

 特に振り向いて挨拶をすることもなく、俺は二人に手を引かれて車に乗った。真白さんも俺と同じで特に何もしなかったが、林檎さんはヒラヒラと彼らに手を振る。すると男子は顔を赤くし、女子はそれが気に入らなかったのか林檎さんを睨んだが彼女のはどこ吹く風だった。


「たか君!」

「真白さん!?」


 助手席に乗った俺に抱き着くように真白さんは体を寄せ、深くはないが触れるだけのキスをしてきた。今のは当然クラスメイトに見られており、くわっと目を見開かれていた。


「真白さん、帰るまで我慢するって言ってませんでした?」

「無理ね!」

「……そですか」


 取り敢えず早く帰りましょう。

 俺がそう言うのは当然だった。




【あとがき】


セリーナの設定で、一人っ子という設定だったんですが妹が居るというものに変えました。既出の部分も修正しました。


 

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