過去を掘り起こす覚悟をするお姉さん

「それにしても」

「どうしたんです?」


 膝の上に頭を乗せている俺を見つめながら真白さんは言葉を続けた。


「お花をもらったこともそうだし、あの券をくれたことも嬉しかったんだけどね。まさかその後すぐに甘えても良いですかって言われるとは思ってなかったの」


 あぁ……まあ何というか彼女――白沢さんから話を聞いてちょっとモヤモヤした気分になってしまったのだ。俺たちのような存在が居るのと同じで、彼女のような人たちが少なからずいる……付き合うってことは相手のことを少なからず特別に想っているはずだ。だというのに、こうやって甘えることも一緒に居ることも出来ないのだとすればそれはとても悲しいことだから。


「いつも甘えてるんですけどね。やっぱり落ち着きます」

「そう……ふふ♪ でも分かる気がするわ。好きな人に甘えるとね、本当に安心するのよね。心も温かくなって、ポワポワして幸せが溢れてくるの」


 俺だけでなく、真白さんもそう思ってくれているのだろうか。でも確かに、俺もそうだが真白さんも俺に甘えることは多い。その時の彼女の表情は本当に嬉しそうなのだ。撫でてあげたら喜び、抱きしめてあげたら幸せそうに笑みを零す……そう言う部分では本当に似た者同士だな俺たちは。


「ねえたか君、心行くまでお姉さんに甘えなさい♪」

「はい……では早速」


 顔を真白さんの方へ向け、お腹に抱き着くように顔を押し付けた。相変わらず頭を撫でる真白さんだけど、こうされるのが嬉しいのか声が弾んでいた。


「たか君に甘えられるとこう……母性が溢れるのよ。もっと甘えてほしい、もっとお姉さんに溺れてほしいって」

「もうどうしようもないほどに溺れてると思いますけど」


 もしも頭の中を覗けるのだとしたら、俺はほぼほぼ真白さんのことを考えているのかもしれない。四六時中そうではないけれど、それでも基本的にハッとした時には真白さんのことを考えていると思う。


「私ね、もしもたか君が血の繋がった弟でも結婚したいわ。なんなら私が生んだ子供だとしても結婚したい」

「それは……どうなんですかね」


 ちょっと想像してしまった俺は罪深い人間だ……。

 それはどうなのかと、そう聞いた俺に対し真白さんは素晴らしい笑顔でこう言葉を続けた。


「でもたか君だってそう思うでしょ? 私が血の繋がった姉だとしても、母親だったとしても私のことが欲しいって思わない?」

「……………」

「うふふ~♪」


 ぐぬぬ……これはどうやら想像したことすら勘付かれているみたいだ。

 まあ実際に血の繋がりがある関係だとしたら踏み止まるだろうし、ある意味恋愛感情を抱くことすらないかもしれない。けれどもしも今の真白さんに抱く気持ちのままそんな関係性だとしたら……絶対にないとは言い切れないんだよなぁ。


「今日もらったあの券はそのうち使わせてもらおうかしらね。安心してねたか君、そんな無茶な要求はしないから」

「真白さんなら多少無茶なことでも――」

「あらそう? なら婚姻届けを……」

「ちょっとまだ早いですね」


 ちなみに、さっき俺に見せてきた婚姻届けの紙だが偽物ではなく本物だった。既に真白さんの名前も書かれて印鑑も押されており、本当の意味で俺が名前と印鑑を押せば婚姻届けとして完成する。

 ……実を言うと、もういいんじゃないか書いてしまえよと心の中で囁く声があったのは確かだけど後少しだけ待ってもらうことにした。真白さんとしては少しだけ不満そうにしたが、既に彼女の中では俺たちは結婚する運命だと思っているんだろう。だから後は待つだけだと笑っていた。


「そういえば真白さん、記念配信は今日やるんですよね?」

「えぇ、一応告知はもうしているから八時からするつもり。もちろん、たか君も隣で一緒に出演するんだからね?」

「あはは、了解です」


 なんかもう完全にレギュラー的な立ち位置になってしまったな。

 取り敢えず、八時から記念配信かぁ。前も言ったけど七十万人から八十万人までの期間はかなり短い。というか今もどんどん増えているわけだし、このペースだと半年経たずに百万人行きそうだがそれは流石に言い過ぎかな。


「何をしようかしら……って言っても雑談メインになるんでしょうけど」


 配信のことを考えながら笑みを浮かべる真白さんを見つめる。

 おそらく……いや確実に、これから先もっと多くの人が真白さんの魅力に気付くはずだ。そうやってファンを増やし、今よりももっと有名になっていく。そんな人の恋人として重荷がないわけではなく、プレッシャーも少なからず感じてしまう。


「……………」


 この人の隣に俺が居ても良いのだろうか……なんてことを考えることもあった。でも最近はそんな気持ちは全くなかったんだ。だってそんなことを考えても仕方ないからだ。好きな人の傍に居ることに資格なんてものはいらない、お互いが想い合っていることが大事なのだから。


「はっ!? ……あ、あぁ……」

「どうしたんです?」


 なんかいきなり真白さんが慌てだしたと思ったら次の瞬間には安心したようにホッと息を吐いた。当然いきなりそんな仕草をされたら気になるのは当たり前で俺は聞いてみた。


「えっと……なんか一瞬胸騒ぎを感じたと思ったら、気にしなくていいような気がして安心したの……何なのかしら今の」

「??」


 不思議なことがあるもんだなと、お互いに目を合わせてクスッと笑った。

 真白さんの膝の感触を堪能し終えた俺が上体を起こすと、今度は真白さんが俺に甘えるように腕を抱きしめてきた。


「次は私がたか君に甘える番だもんね♪」

「好きなだけ甘えてください」

「うんうん♪ すきぃ!」


 まだ夕飯の準備及び風呂に入るには早い、なのでもう少し真白さんとイチャイチャすることにしようかな。っと、そこでふと俺は思ったことがあったので真白さんに聞いてみた。


「真白さん、そう言えばなんですけど配信を始めた頃の動画のデータって残ってるんですか?」

「えっ……あるにはあるけど……」


 確か最初期の動画は見れたものではないとかで消したと聞いたけど、どうやらデータとしてはまだ残っているみたいだ。


「振り返るみたいな感じで、昔の動画を見るとかどうです?」

「……えぇ」


 おや、物凄く嫌そうな顔をされてしまった。でも企画としては悪くないなと思ったのか顎に手を当てて考える真白さん。


「確かに初期の頃とか私もあまり記憶にないし……う~ん、企画としてはありよね。でも……あぁどうしよう、人様に見せられるモノなのかしら。というか私ちゃんと喋ってたっけ……」

「真白さん、俺めっちゃ見たいです」

「……ま、まあたか君にそこまで言われたら良いの……かなぁ? よし、お姉さん覚悟を決めるわ! 昔の動画を発掘しましょう!」


 提案した側の俺がこんなことを言うのはどうかと思うけど、真白さんが悶絶しないことを祈るしかない。というか俺としても楽しみなのは本当だ。あの頃、覚えていない真白さんがどんな風に実況をしているのか……うん、凄く楽しみだ。


「あの頃……まーちゃんの頃だよね」

「くぅ~!! その呼び方にトキメク私とは別に羞恥に悶える私が居るぅ!!」


 はてさて、今日の放送がどうなるのか凄く楽しみになってきたぞ!!


「たか君、どうしてそんなに楽しそうなの?」

「え? 俺の知らない時の真白さんを見れるんだから嬉しいんですよ」

「……嬉しいのよ凄く。嬉しいのよ凄く! でも恥ずかしいのよおおおおお!!」


 ……大丈夫だよね今日の配信。





【あとがき】


ということで次回は八十万人の記念配信回となります。

それに先駆けてなのですが、一つとある企画のようなものを考えました。


配信回ということで当然視聴者からのコメントは書くつもりです。そこで、この作品を読んでくださっているみなさんのコメントをスパチャの形式で本文に使うのはどうかなという試みをしたくなりました。


みなさんから頂いたコメントと名前を隆久か真白が反応する形ですね。

初めての試みなのでどうなるか少し不安ですが、ちょっとやってみたいと思ったのでお知らせしました。

【※コメントと名前をそのまま書いてもいいよ】という方が居られましたら是非お祝いコメントのようなものを書いてくださるとありがたいです。

他のみなさんが不快にならないもの、どぎついモノでないならそのまま使わせていただきます。隆久と真白に対する質問のようなものでも大丈夫です。


希望額(一万円以内でお願いします)¥【スパチャコメント】

みたいな感じで区切って書いてくださると分かりやすいので、二度目ですが余裕がありましたらよろしくお願いします。

長かったらちょっと削るかもしれないですがご了承ください。


29日の朝の8時までのコメントで締め切ります!

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