少しだけ過去を思い返すお姉さん
「……う~ん! はぁ……」
朝、気持ちの良い目覚めだった。
昨日のGT杯、最後にはどうでもいいハプニングはあったものの自分の実力を出し切ったので大変満足のいく結果だった。自分もそうだし、傍で見守ってくれたたか君も楽しんでくれたようだしね。
「た~か君♪」
隣で眠り続けるたか君に囁くと、少し反応したくらいで起きはしなかった。何だろうね、こうやってたか君よりも早く起きることが当たり前だからやっぱり私の一日は彼の寝顔を眺める瞬間から始まる。
……前にもこんなことがあった気もするけど、やっぱりいつ見ても飽きることなんてない。むしろ隣にたか君が居るだけで幸せっていうか、彼を感じられるだけで他に何も要らないって思っちゃうほどだもんね私は。
「……私って重い女?」
答えてくれる人は居ないけど、たぶんそうなんだろうなと私は納得した。
中学生の時にたか君と出会い、彼と遊んでいるうちに好きになった。弟のように思っていた気持ちが一人の男の子へと昇華した時、特に戸惑いはなくてあぁやっぱりそうなったかって感じだったから。
『真白、あなた最近楽しそうだけど何かあったの?』
『あら……あらあら、随分と可愛らしいお友達なのねぇ』
『真白、お願いだからまだ小さいたか君に手を出すのはやめなさいよ?』
……今となっても当時のことがこれでもかと思い出せる。そんなことを言われなくても分かってる、とは言えなかったんだよねぇ。たぶんだけど、お母さんに何も言われなかったら間違いなく食べちゃってただろうし。
『二十歳になったらまた会いに来ますので、それまで……それまで……うぅ、うぅたか君~~~!!』
久明さんと咲奈さんは苦笑していたけど、あの時から私の気持ちはたか君にしか向いてなかったのだ。猪突猛進……うん、正にそんな感じだったかな。まあでも、そんな過去があって今がある。今私の隣にたか君は居るのだ……おっと、見つめているだけで火照ってきちゃう私の身体よ落ち着け! ステイステイ!
「……うあ?」
「あら、お目覚め?」
「……今何時ですか?」
眠そうにするたか君が可愛いって叫び出したい気持ちを抑えながら、まだ全然早いから眠っても良いわよと伝える。するとたか君は二度寝をするように毛布を抱きしめて再び眠りに就いた。
「……そこはお姉さんを抱きしめるところでしょうがぶーぶー」
不満気な声を出しても既に愛しのたか君は夢の中、まあこれはこれで可愛いんだけれどね。さてと、私は早く起きて朝食の準備をすることにしましょうか。
「っとその前に」
一応昨日のことをエゴサしてみることに。
昨日は配信を終えてからシャワーを浴びて、その後すぐにたか君と愛し合ったから見る暇がなかったのだ。SNSでGT杯マシロと検索すると、やっぱり多くの投稿が出てきた。
「……ふむふむ」
既に切り抜きも出来ているみたいで結構注目をされているみたいだ。
:マシロがアイザック倒した!
:キャラコンえぐすぎる
:上手すぎやなこの人
:惚れたけどこの人彼氏居るじゃん……はぁ
:マシロさん八十万人突破めでたい!
:おめでとうございます!
「え、嘘!?」
確認してみると確かにチャンネル登録数が八十万人を突破していた。つい最近七十万人を突破したばかりだというのに……驚いたけどやっぱり嬉しい、取り敢えずありがとうございますと私も投稿することにした。
その瞬間多くのハートとリプが送られてくるけど取り敢えずエゴサはこの辺りにしておこう。それじゃあ今日も学校に向かうたか君のために、美味しい朝食を作ることにしましょうか!
朝、真白さんに肩を揺らされて目を覚ました。
一度起きたような気がしないでもないが、それでも目覚めた瞬間に俺の目に入ったのは真白さんの顔……ではなく大きな胸だった。
「真白さん、前が見えないんですが」
「たか君に朝一の絶景をお届け♪」
確かにこれは最高の絶景だった。
ピンク色のパジャマ、上からボタンが二つ外されており谷間が見えている。贅沢なことに何度見たか分からないこの景色、だがいつまで経っても飽きることはなくドキドキさせられてしまう。
「すぅ……はぁ……それでは失礼して」
「うん♪」
思いっきり真白さんの体を抱きしめ、顔をその天国とも言える場所に埋めた。こうすると真白さんは逆に喜んでくれるからなぁ、それもあって俺自身こうやって真白さんに抱き着くのが癖になってしまった……これはもはや麻薬の類いだ。逃げられないし逃げようとも思わない……ふぅ。
……それから数分後、今日も今日とて真白さん分を補給した俺は彼女が作ってくれた朝食を食べていた。温かくも柔らかい食感の白米、半熟の目玉焼きにサラダ、お味噌汁と……うんうん、本当に素晴らしい朝だった。
「真白さん、今日も美味しいご飯をありがとうございます」
「いいのよ。料理をするのは好きだし、たか君が嬉しそうに食べてくれるのを見ると私も幸せだもの♪」
白米が出てきたりパンが出てきたりと真白さんの気分次第だが、本当に毎日美味しい料理を作ってくれることには感謝している。……その内、俺も何か料理を練習して真白さんにご馳走してみたいものだなぁ。
……あっとそうだ。
「真白さん、ちょっとこの風景を写真に撮ってみていいですか?」
「あぁそういうこと? いいわよ」
スマホを手に取って今の食事風景を写真に収めた。美味しそうな朝食がテーブルの上に並んでおり、真白さんがピースをしている写真だ。
「おはようございます、これで今日も頑張れます」
そう言葉を添えて俺はSNSに投稿した。
真白さんもリツイートしてくれたようで、ハートの数が凄まじいことになってしまいちょっと驚いた。マイカーさんとセリーナさんがリプとハートを送ってくれたのを見て俺と真白さんは二人揃って笑みを零した。
「……あぁそうだわ! 実は八十万人突破したのよたか君!」
「え? マジですか!? おめでとうございます!」
そんな大事なことを忘れていたんですか真白さん! というか確かに真白さんがそう呟いているのを俺は見つけた。この前に七十万人を突破したばかりなのに凄い勢いだ……本当に凄い、俺は素直にそう思った。
……ケーキは昨日買ってしまったし、何かお祝いを考えなくちゃな。
「たか君?」
「あぁ何でもないです。俺もリツイートしておきました」
このまま学校を休んで真白さんと一日お祝いでも……なんて考えてしまうけどそれはダメだろうと苦笑した。
「真白さんの魅力が多くの人に知られた結果ですよ。まだ止まらない、もっともっと有名になりそうな気がしますね」
「ふふ、そうなのかしらね。まあでも、そんな私の本当の姿を知っているのはたか君だけよ。あなただけが私の心に触れられるの。そしてたか君の心に触れられるのも私だけ……素敵だわ♪」
心に触れられるの部分で少し恍惚とした表情になったのは怖かったけど、そこまで想われているのなら嬉しい限りだ。それにしてもGTかぁ……モバイルなら少しやったことあるけどパソコンの方もやってみてもいいかもな。
確かそろそろ真白さんが俺のために買ってくれたパソコンの機材が届くらしいし相談してみるのもいいかもしれない。
「ご馳走様でした」
「お粗末様でした」
朝食を食べ終えた俺は身嗜みを整えてから荷物を纏め、部屋から出て玄関に向かうと当然のように真白さんが見送りをしてくれる。
「それじゃあ真白さん」
「あ……うん」
腕を広げると真白さんが抱き着いて来た。そしてそのままどちらからともなく顔を近づけ、触れるだけのキスをしてから体を離す。相変わらず真白さんは名残惜しそうにするけれど、この辛さをまず乗り越えて玄関を潜ることから俺の一日は始まるわけだ。
「そろそろ夏休みですから。好きなだけ一日一緒に居れますね」
「そうね。今からとても楽しみだわ」
朝から晩までずっと真白さんと一緒に過ごすことになるのか。一応旅行とか遠出も計画しているみたいなので今から凄く楽しみである。
「いってらっしゃいたか君」
「行ってきます真白さん」
さてと、それじゃあ今日も一日頑張るとしますか!
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