効果抜群のお断りをするお姉さん

 まだ配信は終わってないというのに、真白さんは俺に抱き着いたまま離れない。それは別にいいのだけど、これがマイカーさんやセリーナさんたちにも見られていると思うとやっぱりちょっと恥ずかしかった。

 試合を終えて結果を待つのみ、なので三分の遅延はなくなっている。だから俺たちの姿はリアルタイムに届けられるし、コメントも全て今その瞬間に打たれたものが俺たちに届けられる。


:マシロないすぅ!

:最後のめっちゃヤバかった!

:かっこよすぎだろ!!

:誰この男

:たか君やぞ

:彼氏やぞ

:10000¥ おめでとう!


 コメント欄の方でも今の戦いに関して賞賛の声が多かった。真白さんは画面を一切見ずに俺に抱き着いているので、代わりに俺がコメント返しをすることに。


『あはは、マシロさんがこうなるとたか君がコメ返しするんだね』

『なんかいいですねぇ。たか君も慣れている感じがするし』


 以前にメインで配信をさせてもらったのもあるし、真白さんの隣に座って視聴者の人と話す機会は多くあった。コメントをしてくれる人も見たことがある名前の人が居るのは当然だが、初めて見るような名前の人でも特に緊張することはなかった。

 ちなみに、首筋に顔を埋めている真白さんの表情は当然見えないのだが……この人チロチロと舌を出して舐めてるんだよな。くすぐったさを誤魔化すの大変なので是非やめてください。


「……ふふ、よし満足したわ!」


 クルッと回って画面に向き直った真白さん、そのタイミングで今回のGT杯における結果発表が行われるのだった。


「……あ」

『おしいな』

『後少しかぁ』


 今回のGT杯、真白さんたちのチームは準優勝だった。一位はアイザックさんのチームとなっている。ちなみにゲンカクさんのチームは四位だった。

 最終戦で勝ったしチームのキルポイントとしては十二に及んでいる。それでもなおアイザックさんのチームが上回った形になった。とはいえ格上が数多く参加したこの大会において、準優勝というのは本当に素晴らしい結果だと思う。


「マイカーさん、セリーナちゃんもお疲れさまでした」

『お疲れ様です。凄く楽しかったですよ』

『私もです! ……その、またみんなで集まってゲームしませんか?』


 そのセリーナさんの言葉に、真白さんもマイカーさんも快く頷くのだった。


『たか君も配信するんでしょ? 見に行ってコメントするから是非拾ってね』

『あ! 私も行きます! というか三人ともSNSとかフォローしますね!』


 おっと、まさかの二人から配信を見に行くとのお言葉を頂いてしまった。クスクスと自分のことのように嬉しそうにする真白さん、俺も嬉しくなってつい頬が緩んで笑みが零れるのだった。


「ありがとうございます。是非楽しみにしています。フォローも返しました!」

「私も返しました」

『ありがとう二人とも』

『ありがとうございます!』


 本日、有名人の二人と相互フォローになりましたとさ。

 準優勝でも確か何か景品があったはずだけど、正直そんなものは気にならないほどの達成感だと思う。マイカーさんもセリーナさんも、真白さんだってきっとそう思っているはずだ。今日初めて出会い得た繋がり、本当に良いモノを見せてもらった気分だ。

 公式の配信ページに飛んで優勝チームのインタビューを見ながら、セリーナさんがこんなことを口にした。


『この後ですがどうします? このまま解散ですか?』

『僕は落ちるかな。子どもの相手をしないとだし』

『なるほど……お姉さまはどうします?』

「私も終わるかな。疲れてるからたか君に癒されることにするわ」

『おぉ! それはつまり大人の……』

「うふふ~♪」

『……実況しません?』

『馬鹿を言うんじゃないよ』


 冷静なツッコミがマイカーさんから入った。真白さんが口にした癒されるって別にそう言う意味ではないとは思うんだけど、セリーナさんの言葉に意味深な笑みを浮かべたからこそそう言う意味に取られるわけで。


:いいぞセリーナもっと言え!

:やめてさしあげろ!

:……俺のたか君が

:おのれマシロ!

:たか君人気すぎワロタ

:20000¥

:てか今日でまた一段とマシロの人気に火が点きそう


 そのコメントとは同じことを考えていた。大会の出場者ということで、今まで真白さんを知らなかった人も見に来たはずだ。それを証明するかのように登録者もかなり伸びていて明日にでも八十万人を超える勢いなのだから。

 それからマイカーさんとセリーナさんと雑談を楽しみ、最後の締めということで全体チャットにお邪魔して挨拶をすることになった。


『お疲れさまでした~』

『お疲れ~!』

『楽しかったわ!』

『今日はありがとうございました!』


 チャットルームに入った瞬間、色んな人の声が響いた。聞いたことあるような声もあればそうでない声もあって、どれが誰の声なのか全く分からないのは仕方ない。マイカーさんとセリーナさんが挨拶をし、それに続くように真白さんも挨拶をした。


「マシロです。本日はありがとうございました」


 短い言葉、その真白さんの言葉に反応する声があった。


『あ、マシロさんお疲れさまでした。アイザックです』

「あ、どうもですアイザックさん」


 なんと声を掛けてきたのはアイザックさんだった。


『初戦の撃ち合いもそうですし、最終戦もお見事でした。キャラコンエグイなと思った瞬間にはダウンを取られてましたよ』

『本当になぁ。あ、エウレカですマシロさんの大ファンです!』

『うるさ!? お前声デカいって!!』


 これは……たぶんアイザックさんのチームメイトかな。思った以上にフレンドリーなやり取りに真白さんもクスクスと笑みを浮かべていた。


『また今度こういう機会があったらその時は俺が勝ちます』

「分かりました。次も私が勝たせてもらいます」

『……かっこいいぜ……マシロさん』

『そこはアイザックじゃないんかい』


 本当だよ、思わず俺もツッコミを入れそうになった。

 さて、こんな感じで今回のGT杯は終わりを迎えることになった。このままの良い気分で終わる……そう俺と真白さんは思っていたのだが、やはりそうはならなかったのだ。


『マシロさん待ってくださいゲンカクです!』

「……………」

『これから打ち上げっつうかお疲れ様会でみんなでゲームやるんですよ。基本的にみんな参加するのがルールみたいなところあるんでどうですか?』

『おい、そんなルールは――』


 何か言ってくることは予想していたけが終わり際にゲンカクは絡んできた。参加するのがルールとか良く分からないことを言っているが、アイザックさんが言い返そうとした時点でそんなものは存在しないんだろう。

 相変わらず俺の前に座っている真白さんがどんな顔をしているか分からないが、感じる雰囲気は一気に機嫌が悪くなったようにも思える。


「真白さん?」


 小声で問い掛けると、真白さんは大丈夫よとマイクに拾わない音量で囁いた。そして、こう言葉にするのだった。


「ごめんなさい。これから彼とベッドの上で色々とすることがありますので」

『……え』

「それではお疲れさまでした失礼します」


 そうしてチャットルームから真白さんは退室した。

 今のやり取りの時点でまだ配信はしている状態、つまりゲンカクさんの誘いと断った真白さんの声は全て見られている。


:ゲンカクざまぁ!!

:というかエッチすぎるやろ

:男らしさとエッチさを兼ね備えた断り方、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね

:たか君羨ましい

:マシロ羨ましい


 ……まあ、聞いている側の俺もえっと声が漏れそうにはなったけれどね。

 あははと苦笑した真白さんは締めの挨拶をしてから配信を終了した。う~んと気持ちよさそうに伸びをした真白さんだったが、やっぱりゲームで白熱したのか汗を掻いていたんだろう。


「ねえたか君、お姉さんちょっとシャワー浴びてくるわね」

「分かりました」

「ベッドで待ってて?」

「あ、はい」

「ふふ♪」


 そのままお風呂に向かった真白さんを見送り、俺はパソコン周りの掃除をしてから寝室に向かった。真白さんが戻るまでの間、スマホを手に取ってSNSを開いて見るとあの時の話を聞いていたセリーナさんからDMが届いていた。


『お姉さま大丈夫だった?』


 どうやら心配してくれたみたいだな。全然大丈夫ですよと、そう返すとホッとしたような顔文字と共にこんな文章が送られてくるのだった。


『あの後変な誘い方をするなってアイザックさん怒っててね。ゲンカクさんうるせえよってログアウトしちゃってさ。ま、色々あったけどお姉さまが大丈夫そうならよかったよ。たか君もいつも通りみたいだし』


 う~ん、確かに聞いてて気分の良い話ではないけど気にしない方がいい。俺も真白さんも彼のことはブロックしているのでどうでもいい……は言い過ぎかもしれないけど本当にそのように思っているのだ。

 心配してくれてありがとうございます……っと、後少し言葉を添えて返事を送る。


『ううん全然いいの。お姉さまともそうだし、たか君も今日出会った大切なお友達みたいな感じだからね! これからもし一緒にゲームをやる機会があったらさ、Vとしてではなく普通の友達と接するみたいな感じで是非お願いします! それじゃあ今日はお疲れさまでした! お姉さまにもそう伝えてね!』


 Vとしてではなく……それはどうなんだと思ったけど、なんというか嵐みたいな人だったなセリーナさん。配信を始める前は色々と話を聞いていたけど凄く良い人だったなぁ。


「ただいま~……ってたか君、どうしたの?」

「おかえりなさい。実は――」


 セリーナさんとのやり取りを伝えると、真白さんはスマホを手に取った。どうやら真白さんからもセリーナさんにメッセージを送るみたいだ。


「今日は楽しかったわ本当に」

「そうですね。俺も見てて本当に楽しかったです」

「そう……ふふ、良かったわ♪」


 そう言って真白さんは寝ていた俺に跨り、ゆっくりと上体を倒すようにして顔を俺の顔に近づける。そうして何度も繰り返すキス、当然そのまま終わるわけはなく、ベッドの上で色々すると言ったことを本当のことにするのだった。






【あとがき】


取り敢えずこれでGT杯は終わりです。

次回からは学校のこととか、或いは夏休みに入るかどうか……一つだけ言えることはもうゲンカクさんは出てこないと思います。出てくるとしても真白が取り合わないので名前だけ出る感じかなと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る