やる気に満ち溢れるお姉さん
GT杯に出場しているT0の一人、ゲンカクと同じく元プロゲーマーであり現在はストリーマーとして活躍している“アイザック”にとって、こういった大会は当然多く経験している。
日本国内の大会だけでなく、世界を舞台にした大会にも多くの記録を残すほどの腕前である。そんな彼と、そしてチームメイトも実力は凄まじく現在のポイントは堂々の一位を誇っていた。
「来てるな」
『ですね……これは二パかなぁ』
『挟まれる? めっちゃ嫌なんだけど』
こちらに迫ってくる二つのパーティに気づくも、足を止めるわけにはいかずそのまま走り抜ける。だがその片方のパーティが勝負を仕掛けてきた。アイザックたちは当然応戦し、その高い実力を遺憾なく発揮する。
「リーパーダウン! 詰める詰める!」
残り部隊は六、アイザックのキルは既に七に到達しておりかなり暴れていた。キルポイントが大切になる終盤戦だからこそ、もっと貪欲にキルを奪いに行くムーブだ。
そのまま距離を詰めて攻めてきた相手チームを壊滅させたアイザックのチームはもう片方からの漁夫を警戒し、味方のロックにドームシールドを発動してもらい回復に努める……しかし、みすみすそんな隙を逃す敵ではなかった。
「ロッカ来てる!!」
空から奇襲を掛けるように重力を操ることが出来るロッカが突っ込んできた。続くように残り二人、敵のロックとサーシスが突っ込んでくる。アイザックは即座に敵のデスボックスからアーマーを奪い取り応戦の姿勢を取る。
「……こいつは」
その時、そのロッカから感じる威圧感のようなものをアイザックは感じ取った。時々だがアイザックは感じることがある――今だけはこいつに勝てない、今はこいつに負けると。自分の調子に左右されることが大きいが、それでも相手の動きを見て今は勝てないなと無意識に思ってしまうことがあるのだ。
「……つよ、てかキャラコンヤバすぎるだろ」
ついそんな呟きが漏れて出た。
物凄い動きでこちらの攻撃を回避しながら的確に銃弾を撃ち込んでくる。アイザックが口にしたキャラコンとはキャラクターコントロールの略で、戦闘中に如何にキャラクターを素早く動かせるかの技術のことを指す。アイザック自身も凄まじいキャラコンを披露しているが、そんな彼ですら驚くほどの動きだったのだ。
アイザックともう一人を撃破したロッカ、次いで最後の一人はロックによってキルを取られた。
マシロCh → アイザック キル
マシロCh → eureka キル
マイカーCh → ソニア キル
『つっよ!』
『マジか……くっそおおおおおお!!』
「……なるほどなぁ。マシロさんか」
今自分をキルしたマシロに対し、アイザックが思い出したのは初戦だ。最後まで三人で生き残り、一人で飛び出して来たリーパーにアイザックは唯一ダウンさせられたのだが、その時のリーパーを使っていたのはマシロだった。初戦のダウン、そして今のキルをそのマシロから取られたことでアイザックはただただ強いなという感想を持った。
『この三人連携いいですね』
『マイカーとはやったことあるけど本当に上手だわ』
「みんな上手だけどマシロさんヤバい」
アイザックの言葉に二人も頷いた。
『俺も見たことあるけど普段から上手だよ。ただそこまでの頻度やってないからランクが上がってないだけで』
「それでこんなに上手いの?」
『やっば……つうかエウレカさん見てるんだ』
『あのおっぱいは至高やぞバーロー』
「へぇ……」
ちょっと見てみようかな、なんてことを思ったアイザックだった。
ゾーンに入る、なんて言葉があるが今の真白は正にそれだった。
『今のアイザックさんのチームですよマシロさん!』
『いやぁ漁夫とは言え勝てるとは思わなかったよ』
「……………」
アイザック、その名前は当然真白も聞いたことがあった。GTをやっているプレイヤー……いや、FPSゲームをやっていれば知っている有名人である。初戦でもぶつかったけれど確かに強かった。こうして勝てたのは奇跡に近いと思っているが、不思議と真白には負けるビジョンはなかった。
「……勝てる……勝てますよ真白さん」
背後から抱きしめてくれる愛おしい人、隆久の言葉に頬が緩みそうになる。もちろん今の呟きは無意識だろうが、それでも真白にはしっかりと聞こえていた。彼が傍に居るから、かっこいいところを見せたいといつも以上の力を発揮出来ている。
本当に好きな人の存在は力になるんだなと真白は思った。まあそれも今更かと苦笑してより良い結果を出すために全力を尽くす。
「後三チーム、頑張りましょう」
『はい!』
『……ドキドキしてきたわ』
声のトーンは落ち着いているが、マイカーのようにドキドキしているのは同じである。どっくんどっくんと大きく鼓動を放つ心臓も、それを落ち着けてくれるのが隆久の存在だった。
「ねえたか君、もっと強く抱きしめてもらっても良い?」
「もちろんですよ」
ギュッと強く、抱きしめる腕の力が強くなった。
『俺も妻に抱きしめられたら強くなるのかな』
『私は誰に抱きしめてもらえば……』
「……ふふ」
真白もマイカーもセリーナも、それぞれタイプの違う配信者だ。今日こうして初めて会ってチームを組んだわけだが、不思議に思ってしまうほどに波長が合っているのは確かだろう。どのチームよりも……とは言えないかもしれないが、それでもこのチームで良かったと思えるほどだ。
残りは真白のチームを含めて四チーム、後三チームを倒せばこのマッチは真白たちの勝利となる。安全圏のエリアも狭くなり、ここからは正に死闘となるだろう。現に真白たちが進む先では激しく銃声の音が飛び交っている。
『あ、補給物資来てますよ』
『……おぉスナイパーだ。マシロさんどうぞ』
「いいんですか? それじゃあもらいます」
時間が経過して空から降下してくる補給物資、その中から現れたのはGTにおいて最高値のダメージを叩き出すことが出来るスナイパーライフルだった。ショットガンを捨てて持ち替えた真白はそのまま走り出す。
遠くで敵のロッカが空に浮かび上がり、それを真白は狙って一発撃つ……すると見事に頭を抜いたのか装甲の上から体力を一瞬にして蒸発させた。
『すっご!』
『ナイス!!』
かなり離れているので今のヘッドショットはまぐれだが、それでもこれで勝ちに大きく近づいたのは事実だ。それから辺りを上手く捜索しながら自分たちにとっての有利な場所を探していく。
そんな中、真白たちのチームは残っていたチームと接敵した。マイカーがダウンさせられたが既にそこそこ削れていた二人を真白がダウンさせ、一旦離脱してから回復をしようと建物に逃げ込んだ瞬間だった。
「うわガスある!!」
思わず真白は声が出た。
ロッカでもなくロックでもなく、サーシスでもない別のキャラクターの特技であるガスのタンクが置かれていた。それは毒ガスのようなもので敵が傍に近づくと起動して一定範囲内にダメージを及ぼすものだ。既にギリギリの体力だったので真白はその中でダウンしてしまった。すると奥からそのガスを置いたであろうプレイヤーが出てくるのだった。
「マズったなぁごめん」
これはやられたかな、そう思ったがそんな絶体絶命の真白を救ったのはセリーナだった。
『お姉さまに何しとんじゃわれえええええええええ!!』
物凄い声を出しながらセリーナの使うサーシスが飛んできた。一対一の撃ち合いだったが何とかセリーナは撃ち勝ち、ダウンから復帰したマイカーも合流して真白は窮地を脱出した。
「ありがとうセリーナちゃん」
『全然大丈夫です! ここでお姉さまがやられたらもう復活は無理そうでしたし』
『いやぁセリーナさん凄かったな今の。ナイス!』
『……えへへ、ありがとうございます!』
ちなみに、今真白がダウンした時に緊張してしまったのか隆久がかなり強く抱きしめてきた。実を言うと少し痛かったのだが、その痛みも悪くないなと一瞬思った真白だったとか。
「……ふぅ」
「焦ったね」
大きく息を吐いた隆久に応えるように真白はそう口にした。
さて、気づけば残りは二チーム……つまり、真白たちと残り一つのチームだけだ。
『相手に上取られてるけど、エリア外れるから絶対降りてくるはず。ラストは完全に近接戦になりそうだなこれ』
『ですね……』
「……すぅ……はぁ~」
大きく深呼吸をしてその時を待つ。
そして、ついに最後の収縮が始まった。エリアが狭まったことで真白たちは一斉に中央に飛び出すが、当然高い位置から銃弾の雨が襲ってくる。マイカーがドームシールドを使い安全になるが、そうなると当然相手も動かないといけないので飛び込んでくるしかない。
『来るよ!』
『はい!』
「……あ」
っと、そこで真白は気付いたことがあった。それは持っていたスナイパーライフルをショットガンに変え忘れたことだ。どうしようなどと思っても時は止まってくれない、なので真白は一か八か賭けに出ることにした。
「よし……」
スナイパーは基本的にボルトアクション、一発撃つごとに弾を装填する動作が入るので一回しか撃つ機会はないだろう。しかも至近距離、それでも真白はやるしかないと思った。
至近距離で撃ち合う中、相手一人がダウンしてこちらもマイカーがダウンした。セリーナが相手一人を大きく削るもそれより早くダウンしてしまう。
「ここ!」
思わずといった具合に声が出た。
かなりの至近距離であり相手も素早く動いているのでエイムを合わせるのは難しいのだが、それでも腰撃ちの状態で放った一発は見事頭を撃ち抜いた。その時点で相手は二人目がダウン、つまりお互いのチームで一人が残ることになった。
『マシロさん!!』
『お姉さまあああああ!!』
「真白さん!!」
多くの耳に届く声援を受けながら、素早くアサルトライフルに持ち替えた真白は敵と撃ち合う……そして、装甲を削り切られ体力も後僅かとなったその瞬間――相手の方が先に倒れるのだった。
「……あ」
Victory!!
目の前に広がったその文字に、一瞬真白は茫然とした。だがすぐに、マイカーとセリーナの喜ぶ声が届いた。
『おっしゃああああああああ!!』
『やったあああああああああ!!』
その声を聴いた時、ようやく真白はこのマッチに勝利したことを実感する。いつもよりも感じる達成感、勝利を噛みしめるように真白も大きく声を上げるのだった。
「勝ったああああああああ!!」
クルッと後ろに向き、そのまま全身で隆久に抱き着くように喜びを露わにする。隆久もどこか感動したように少し目が潤んでいたが、すぐに真白と同じように喜んで正面から抱きしめた。
【あとがき】
ラブコメなのに戦闘描写を書くとは……難しすぎる!
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