大会の途中でもイチャイチャは忘れないお姉さん

 Vtuberとして活動するセリーナにとって、自分よりもゲームが上手であり、更には登録者の多い人との絡みは大切にしたいと考えている。汚い話だが、もっと自分が有名になるために必要なことだと思っているからだ。

 もちろんそれだけの繋がりではなく、少しでもコラボをして気が合ったりすればその相手とは友人という関係であり、これからも末永く付き合っていきたいと思えるようになる。それは今回のチームメイトであるマシロとマイカーも同様だった。


 キル合戦になる後半戦、やはり戦いは熾烈を極め、T3ランクではあるものの三人の中で一番実力が低いセリーナは早々にキルされてしまう。いつもの配信時のように上手く行かないと思ってしまうが、単純に相手が強すぎるのが理由の一つだろう。それでももう少し、チームの役に立ちたいと思ってしまうが故に気持ちが沈んでしまうのだ。


「……本当にごめんなさい」


 二人の足を引っ張っている、そう考えてしまったセリーナの声は暗かった。いつもみたいに騒ぐことも出来ず、ただただ自分の力量の低さにガッカリする。やることがなくなりマシロの視点から観戦する中、落ち込むセリーナに声が届く。


『大丈夫だからねセリーナちゃん、すぐに回収するから』


 まだ敵が近くに居るのにそれでもお構いなしにセリーナを回収するマシロ、そんなマシロを援護するように的確に相手を撃ち抜くマイカーの姿、本当にありがとうとセリーナは思わず泣きそうになったほどだ。


「ありがとうございます! ありがとうございます!」

『ふふ、まだまだ終わるには早いから。ここから見せてやりましょう。私たちはまだまだやれるんだって』


 マイカーもそうだが、今日初めて会ったマシロは本当に優しい言葉をくれる。言葉だけじゃなく、話し方も年上の余裕を感じさせるモノでとても落ち着くのだ。妹は居るが姉の居ないセリーナにとって、まるで本当のお姉さんのような何かを思わせるマシロにセリーナは自分でも信じられないほど心を開いていた。


「分かりましたお姉さま!!」

『お姉さまって……もうそれで決定なのね』


 マイクを通して苦笑する雰囲気が伝わってくるが、それでも咎められない限りはお姉さまと呼ぶことにした。もう少し頑張ろう、自分に出来ることを最大限発揮できるようにとセリーナは気合を入れ直すのだった。

 それからのセリーナの動きは凄まじく、序盤と同一人物とは思えないほどの活躍を見せる。とはいっても相手は格上が多いため、セリーナを含めた三人の快進撃も三位まで上り詰めた所で止まった。


「……悔しいいいいいいいいいいいい!!」


 この面子の中で三位はかなりの奮闘である。一戦目の二位もあって総合順位も最終戦の結果次第では優勝も狙えるだろう。ちなみに、GT公式の配信でもセリーナたちのチームはかなりピックアップされて映されていた。

 最終戦を残すだけとなり、最後の長い休憩時間が用意されている。


『ちょっとお手洗い行ってくるわ。たか君、お話する?』

『……えっ!?』


 少しマイクが遠いため聞こえずらいが、隆久の驚いた声をセリーナは聞いた。


『お、たか君おいでおいで』

「あはは、私もちょっとお話してみたいなぁ!」

『ということらしいわよ? ほらほら♪』


 楽しそうなマシロの声に促されるように、次いで隆久の声が聞こえた。


『……参ったな。取り敢えずよろしくお願いします』

『よろしくたか君』

「よろしくたか君!」


 なんか色々と聞いてみたいなぁ、そんなことをセリーナは考えるのだった。







「……参ったな。取り敢えずよろしくお願いします」


 トイレに向かった真白さんに代わり、暫しの間この椅子に座ることになった。よろしくお願いしますと口にすると、マイカーさんとセリーナさんがそれぞれ返事を返してくれた。


『あまり固くならないでいいよ。最初に言ったけど僕たち四人で戦っているようなものだし』


 四人で……か。最初に言われた時もそうだったけど凄く嬉しかった。俺自身が操作しているわけではなく、真白さんの傍で応援して見守っているだけだけど、やっぱりそう言われたことは嬉しかったんだ。


「ありがとうございます。その……凄く嬉しいです」


 カメラで顔は映ってない、何ならマスクもしているけど俺って今凄い口元が緩んでいると思う。声からも喜びが滲んでいるような気もするし……あぁ真白さん早く戻ってきてほしい恥ずかしいんですけど!


『たか君さ、年上に好かれるタイプじゃない?』

『……何となく分かるかも』

「え?」


 年上に好かれるタイプって言われてもな、そういうことは自分ではよく分からないけれど真白さんは年上だしそういうことなのかな。


『ねえねえたか君、お姉さまといつ知り合ったの?』


 あ、もうお姉さまで通すんだねセリーナさんは。

 真白さんといつ知り合ったか……別に特別なことでもないから話してもいいのな。真白さんにも雑談や質問をされた時に特定に繋がらない程度で過去のことを話すのは構わないと言われているし。


「俺が小学校の頃ですね」

『え、そんなに昔なの?』

『うわぁなんか凄いね!』


 間に空白の時間があるとはいえ、真白さんが俺を想ってくれていた時間はそれほどに長い。忘れていたことを申し訳なく思うが、その空白を埋めるために俺はこれからも彼女の傍に居たいと思っている。


『幼馴染ってやつなんだねぇ』

「幼馴染ってのも少し違う気がしますね。実は俺、昔に会ったことを忘れた状態で今の真白さんと再会して、それでつい最近にそのことを教えてもらったんです」

『そうなんだ。でもそれもロマンチックだなぁ』


 そのタイミングでちょうど真白さんが戻ってきた。真白さんが戻ってきたことで椅子から腰を上げようとしたが、真白さんは俺を制するように手を向けてきた。そのまま真白さんは俺の後ろに回るように移動し、背後から抱き着いてきた。


『マシロさん大胆だね』

『いいなぁ……ねえマイカーさん、あれ絶対気持ちいいですよ』

『うん。僕はちょっと答えづらい話題かなぁ』


 今日が初めてではないけど、こうやって真白さんが配信に映る形で抱き着いてくるのは珍しい事ではない。頭の後ろに恐ろしく柔らかい感触を感じるが、カメラでは見えない位置なので視聴者には真白さんが後ろから抱き着いているということしか分からないだろう。


『そんなたか君に聞いてみたいんだけど、真白さんのことどれだけ好きなの?』

『おぉいい質問だ。僕も聞いてみたい』

「あら~、いい質問ね。さあたか君、お姉さんに教えてほしいなぁ?」


 ……これは最早逃げられる雰囲気ではなくなっていた。

 コメント欄における三分の遅延、それが今になって物凄く怖くなってくる。たぶんだけどこういう大会なので今真白さんを知った人も居るだろうし……まあそれでも素直な気持ちを伝えることを隠す必要もないか。


「どれだけ好きかって言われても……どうしようもないくらいに好きですとしか言えないんですよね。ずっと傍に居たいしずっと傍に居てほしい、ずっと俺だけを見てほしいっていうか……まあそんな感じです」


 そう言うと、真白さんが嬉しそうに笑った雰囲気を感じた。


「私も好きよたか君。ずっとずっと一緒だからね?」


 チュっと、頬に唇が触れた。


『わ、わああああああああ!?』

『うるさ!? ちょっとセリーナさんうるさいって!!』


 やけに興奮しているセリーナさんを咎めるマイカーさんだけど、本当に今のはうるさくて俺もちょっと顔を顰めたくらいだからなぁ。まだ騒ぎ続けるセリーナさんに苦笑した真白さん、彼女は俺にちょっと立ち上がってほしいと言って来た。

 言われたように立ち上がると、最近買った大きめの椅子に交換するように取り換える。そして座ってと言われて腰を下ろすと、そんな俺の足の間に真白さんが座るように腰を下ろした。


「よし、最終戦はこれで行くわよ!」

『おぉ……』

『……もう嫉妬しないくらい見てて清々しいんですが』


 取り敢えず、真白さんのお腹に腕を回すようにして抱きしめた。それだけでやる気が出たのか真白さんの纏う雰囲気が変わり、そんな真白さんに続くように最終戦のマッチも開始された。


「これもう負ける気がしないわ」

『あはは、頑張りましょう』

『なんか凄いやる気に満ち溢れてるねお姉さま』


 そうして始まった最終戦、どこまで行けるか分からないが俺に出来ることは見守る事だけ……頑張ってください真白さん。


「ねえたか君、あんな風に気持ちを伝えられてお姉さん昂ってるから今日も寝る前にたくさん愛してね?」

「っ!?」

『今凄い音聞こえたけど大丈夫かいたか君!』

『なんかもうきゃあああああああああああ!!』

『だからうるさいってば!!』


 ……思わず足の小指をテーブルにぶつけてしまった。

 ちなみに俺と真白さんを含め四人で話していた間、かなりの投げ銭が投げられていたことに気づいたのはもう少し後のことだった。






【あとがき】


みなさんから頂くコメントがあったけえ、あったけえですわ本当に。


改めて、こうやって続いているのはみなさんのおかげでもあります。

本当に感謝していますありがとうございます。


まだまだ止まらねえからよ、どうかこれからもよろしくお願いします!

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