奮闘するお姉さん
GT杯の一試合目、そのファーストキルは真白が奪うことになった。あっと声を漏らした隆久とあははと笑みを溢した真白、きっと他の配信者の視点でも元プロが早々にリタイアしたのにはビックリしたはずだ。
ただ、真白がゲンカクをキルしたことに関しては一つ原因があった。
:ゲンカクの配信なんかラグかったな
:ちょっと回線悪かったみたいだね
:あぁだから止まってたのか
:マシロと遭遇したところで調子戻ったらしい
「……あぁそれで」
三分遅れてのコメントを見て隆久が納得したように頷いた。
どうして一緒に下りたはずの二人から離れていたのか、その原因はどうやら回線の不調にあったらしい。とはいえ勝負は時の運とも言えるし、今回線が悪いからちょっと待ってほしいは通じない。初動に関してのごたつきはあったものの、真白と撃ち合った時は調子は戻っていたのでゲンカクは単純に撃ち負けたと視聴者は解釈した。
『ないすぅ!』
『初手T1を倒したのは熱い!』
向こう側にハプニングがあったのは仕方ないが、こちら側としては都合がいいのは確かである。初動としては悪くなく、拾うアイテムに関しても潤沢でこれ以上ないほどの滑り出しだった。
……しかし、数多の実力者が集うからこそ牙を向くのはここからだった。
『まず!?』
『あ~やられたああああああ!!』
移動中に二チームからの集中砲火を食らう羽目になったのだ。このゲームは広いマップを舞台に戦うのだが、時間が経つごとにダメージを受けるエリアが外側から迫ってくるのだ。そのエリアからも逃げながら、いかに立ち回りを上手くするかが大事になってくる。
真白とマイカー、セリーナは物資は潤沢だったがそのエリアから逃げるために移動していた瞬間を狙われたのだ。
「ちょっと逃げるわ!」
リーパー特有の高速移動を使ってどうにかその場から真白だけは逃げることができた。他の二人は瞬時にダウンさせられてしまいキルも取られ、残されたのは真白だけになってしまった。
『やっちゃったなぁこれ』
『マシロさん頑張ってえええ!!』
ちなみに、このゲームはキルを取られたとしても回収さえ出来れば再び戦場に戻ることは可能だ。ゲンカクの場合はその後に他の二人もキルしたので復活されることはなかった。さて、真白はこれからどうしようかと頭を捻る。二人がキルされた場所に戻ろうと考えたが、頭を出した瞬間銃弾の雨に晒されてしまい戻ることが出来ない。
「回収難しいかなこれは……」
『ですね。エリアももう狭いですから順位を上げる立ち回りがいいかも』
『……うぅ~不甲斐ないです本当にごめんなさい』
気にしないで、真白は優しくそう言った。
真白のコメント欄だけでなく、他の二人のコメント欄でも責めるようなものは見受けられない。あれは仕方ないと、そんなコメントばかりが目立っていた。
真白一人で敵陣に突っ込んだとしても負けは見えている、ということでキルポイントよりも順位が重要視される一試合目のため真白はとにかく隠れることにした。
「……お願いだから来ないでよ?」
『来るな! 見つけるな!』
『お前らマシロさんに手を出したらどうなるか分かってんのか!!』
操作することは出来ず見守ることしか出来ない二人は声を出してとにかく真白が生き残ることを祈り続ける。既に七チームほどが壊滅しており、真白一人だけが残った状態で一桁まで来ることは出来た。
「いやぁごめんねみんな、こんな代り映えのない映像で」
『いいんですよこれで! これも戦いですから』
『うんうん。でもこの生き残らないといけない感じ……私には耐えられないかも』
見に来てくれている視聴者に向けての言葉だが、GTの大会においてこういう光景は何も珍しくはない。確かに手に汗握る撃ち合いを見たい人も居るだろうが、これもこれで醍醐味の一つでもあるのだから。
ただ、確かに同じ絵面が続くのも配信としては致命的だ。なのでその空気を打開しようとしたのかセリーナがこんなことを口にした。
『マシロさん? 私質問したいことがあるんですけどいいですか?』
「どうしたの?」
『……どうやったらそんなにおっぱい大きくなるんですか?』
その質問を聞いて何か飲み物を飲んでいたのかマイカーから咽るような咳が聞こえてきた。真白の隣に座っている隆久も一瞬目を丸くしたが、すぐに困ったように笑みを浮かべた。
真白としてはいきなりだなと思いつつ、別に恥ずかしくもなかったので素直に答えることにした。
「特に何かしたことはないのよ。小学校の高学年くらいから大きかったし、それに母も大きいから遺伝だと思うわ」
『なるほど……』
『……………』
この話題にマイカーは入ってこないが、確かに男性としてはこういう会話に入るのは勇気がいることだろう。
『大きいのも小さいのもそれぞれ好みがあるとは思うんですけど、大は小を兼ねるともいいますし、やっぱり揉めるくらいの大きさは欲しいんですよね』
企業所属の大人気Vtuberであるセリーナ、どうやら自身の胸に関してのコンプレックスがあるようだ。中の人と外を着飾るキャラクターに共通点はないだろうが、確かに猫耳少女の方はペッタンコだった。
『……この会話に入りずらい!!』
『あ、ごめんマイカーさん!』
「ふふ、ごめんなさい」
余談だが、この胸に関する話題の瞬間コメント欄はかなりの賑わいを見せたらしいと後で分かったとか。
それからの試合展開、真白は隠れながら移動することで敵に見つかることはなかった。敵の索敵にあってヒヤヒヤする瞬間はあったものの、残りチームが四チームになったところでまだ真白は一人生き残っていた。
「凄い緊張する……」
「……………」
口数が少なくなるくらいに緊張感が凄まじかった。いつもならこういう時に背後から隆久が抱きしめてくれたりするのだが、流石に大会ということもあって隣から動くことはない。それでも、真白には彼の存在が大きく感じられた。
「……たか君」
「……………」
小さく問いかけても隆久は反応を返さない、チラッと横を見たら真剣な様子で画面を見つめていた。しばらく見つめていると真白の視線に隆久が気づいてこちらに視線を向けた。視線が絡み合い、クスっと笑みを浮かべた真白はパソコンの画面に視線を戻した。
「……そうよね。たか君が傍に居るんだもの、頑張らなくちゃ」
男性が女性に対してかっこいい姿を見せたいと思うように、女性である真白だって同じことを考えている。愛する彼の前でかっこいい姿を見せたい、そしてその後に褒めてもらいたい、そんなことを考えながら真白は表情を引き締める。
「真白さん、頑張って」
「えぇ!」
マイカーとセリーナも頑張れと言っているが、真白の耳には隆久の言葉しか入ってこなかった。既にエリアは最終収縮を始めており、残ったチームで最後の戦いが始まる。一人、一人と脱落していく中真白も戦場に飛び込んだ。
『お、おおおおおおおお!!』
『やばいやばい凄い凄い!!』
高所を取られたらマズかったが、幸いにそちらの方が先にエリアから外れるということでこちら側に下りるしかない。相手は三人、真白は一人、圧倒的に不利な状況において真白は奮闘した。
三人からの銃弾を浴びる中、まずは一人の装甲を削り切ってダウンさせたのだ。しかし……そこまでだった。
「ああああああああ悔しいいいいいいいいい!!」
流石に三人を相手に一人では無理があった。
結局真白は倒されてしまい、一試合目は二位という形に落ち着いた。だが最後の戦いは凄まじいの一言、真白の持ち味がこれでもかと発揮されたのではないだろうか。
『ナイスファイト!』
『最高でしたお姉さま!!』
真白の健闘を称えるマイカー、いつの間にかお姉さま呼びになっているセリーナに真白は満足したように笑みを浮かべた。
一試合目が終了したが、すぐに二試合目が始まるということで待機に。そして二試合目は物資に恵まれることはなく早々に三人ともやられてしまった。そしてキル合戦になるとされる後半戦、その前の休憩時間のことだった。
「真白さん、実はケーキ買ってたんですよ。どうですか?」
「あ! たか君買ってきてくれたの? ありがとう♪」
『ケーキ!? いいなぁ……』
『僕は妻が作ってくれたサンドイッチ食べてます』
『……くそリア充がよ』
前もって真白のために隆久はケーキを買っていたのだ。隆久からイチゴのショートケーキを受け取り、美味しそうに食べる真白の様子は視聴者に届けられる。真白の笑顔もそうだし、隆久の気遣いにファンたちがニヤニヤする中……ついに後半戦が始まる。
『それじゃあ真白さん、是非とも暴れてください』
『くそリア充がよ……あぁごめんなさい気を取り直しま~す!』
「ふふ、頑張るわ~♪」
コメント欄から分かったことだが、真白たちのチームが一番雰囲気が良いかもしれないとのことだ。中にはギスギスであったり、そもそも会話があまりないチームも居るらしいとのこと。もちろんそれは少数で、ほとんどのチームは楽しそうにこの大会を楽しんでいる。
さて、今から始まる後半戦において真白が選ぶキャラはロッカだ。
リーパーでも活躍をした真白だが、やはりこの子だなと真白は頷く。ロッカが持つ固有能力は重力操作、空に浮き上がったりすることも出来るし、自身が意図した場所に敵を吸い込む穴を発生させることが出来るものだ。
基本的に真白はこのキャラを使っていることが多く、配信でも良く見ることが出来るキャラ選びだ。
「頑張りましょう!」
『一位取りましょう!』
『あいあいさ~!』
そして、後半戦は始まった。
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