ファーストキルを決めるお姉さん

 ついに訪れたGT杯当日、とはいってもあくまでお祭りのようなものなのでそこまで気負うイベントではない。


「たか君~、時間までお姉さんとラブラブしましょうか♪」

「望むところです……シュタっと」

「きゃん♪」


 真白さんからラブラブしようと言われて何もしないのは無作法というもの、なので俺は真白さんに飛びつくようにその隣に腰を下ろした。時間までは残り三十分程度で後少ししたら用意されたチャットサーバーに繋がることが出来る。そこで今回同じチームになった人たちと初の顔合わせになるというわけだ。

 他のメンバーならある程度の顔見知りであったり、コラボで絡んだ経験がある人はそれなりに居ると思う。だが真白さんは今までコラボはしてこなかったので、本当の意味でマイカーさんとセリーナさんは初絡みになるのだ。


「緊張してます?」

「う~ん、そこまでかな。いつも通り、野良の人たちに混じる感覚で気楽でやろうと思っているわ」


 俺にスリスリと体を擦りつけながら真白さんはそう言った。もしこれが配信中ならとんでもないことになりそうだが、まあ俺としても真白さんとイチャイチャしたい気持ちはあるので思う存分彼女の存在を味わっておくことにしよう。

 それからしばらく、俺たちはお互いに抱き合いながら……少しキスをしたりして時間を潰し、そしてようやくその時はやってきた。


「さてと、それじゃあ繋ごうかしらね」

「俺はすぐそこで見てますから」

「うん♪」


 真白さんから少し離れ、俺はすぐ傍のソファに腰を下ろす。俺は関係ないのだが普通に喋ってくれて構わないとは真白さんに言われている。なんでも俺が傍に居た方が力になるとのことで、それならとこれくらいの近い距離で見守らせてもらうことにした。

 ワイプに映るのはいつものように谷間の見える服装をした真白さん、相変わらずの美しすぎる美貌が楽しそうな表情を浮かべている。真白さんが操作する画面は当然俺も見えているので、どういう風に操作しているのか結構興味深かった。


「これかしらね……」


 立ち上げたチャットアプリ、他の大会参加者もこのアプリに参加することになっている。更にその中からチームごとに割り振られたグループに入ることでチームメイトとの会話が出来るというわけだ。

 ピコンと音を立てて真白さんがチームの為に作られたグループに入った。既にマイカーさんとセリーナさんが来ていたらしく話し声が聞こえてきた。


『それで~、出来るだけ今日はボロを出さないようにするつもりなんです』

『そうなんですね。でも大丈夫だと思うけどなぁ……』


 何を話していたのか気になるけど、取り敢えず真白さんが挨拶をすることに。


「こんばんは~」

『あ、こんばんは!』

『こんばんは~。マシロさん初めまして』

「初めまして~」


 初めて会ったのだから当然初めましての挨拶は必要だ。それから簡単に自己紹介をした真白さんたち、早速会話に花を咲かせることに。


『私本当に今日を楽しみにしてたんですよ!』

「あらあら、そうなんですか? 私も楽しみでした」

『自分は緊張とかヤバいですけど、お二人の足を引っ張らないように頑張ります』

『いやいやいや、何を言ってるんですか何を――』


 ここまでの会話を聞くに空気は悪くなさそうだ。それどころか、お互いに笑いながら会話が出来ているのでとても雰囲気としてはかなり良い。マイカーさんは年長者としての落ち着きがあるし、セリーナさんは……なんかかなり自分を抑えているみたいだし、それに真白さんもいつものように落ち着いたお姉さんみたいな感じで……こう安心できる三人の雰囲気だ。


「今彼も隣で配信を見てて、それで会話も聞いてるんですけど大丈夫ですか?」

『全然大丈夫ですよ』

『私も大丈夫ですよ~!』


 二人に許可をもらえてちょっと安心した。

 それから三人で更に仲を深めるべく会話が続き、ようやくサーバーが開いて参加者が一堂に会する瞬間がやってきた。


「入ります」

『私も~』

『パスワードとか大丈夫ですか?』


 マイカーさんの言葉に大丈夫と真白さんは返し、問題なくサーバーに入れたようだ。続々と集まる参加者、当然中にはGT内において知らない人は居ないんじゃないかとされる有名人も何人か居た。まさかそれをこんな間近で見ることが出来るとは思っておらず、実際にプレイするのは俺じゃないのに変に興奮してしまう。


「さてと、ヤバそうな人結構居ますね」

『ですね。チーム1とチーム2はT0が一人ずつ居るから強そうだ』

『……怖くなってきましたよ私』


 GTにおいて個人の力を表すランク、その最上位が居るからといって勝てるとは限らないのが勝負というものだ。もちろん今回はどこかが突出しないようにと運営がバランスよくチームを振り分けているので、T0の彼らのチームにはそこまでランクが高くない人が混じったりもしている。


「セリーナさん気を楽にね?」

『……あ、なんかお姉ちゃんみたいですね』


 確かに、今の言葉にはセリーナさんを気遣う真白さんの優しさが込められていたようにも感じられた。

 真白さんの言葉にセリーナさんが落ち着きを取り戻したところで、三人とも配信を開始させた。大会中は遅延三分というルールがあり、実際にネットを通して視聴者が見るのは今から三分後になる。伝書バト……単純に言うと、他の配信者にどこどこに誰がいるなんてことをバラさせないための工夫だ。もちろん遅延がなくともマナーをちゃんと理解している人なら言わないはずだが、世の中には迷惑行為を進んでやったりする人も居て色々大変らしい。


「ふぅ……たか君、頭なでなでしてくれる?」

「あはは、いいですよ」

『たか君!!』


 ついいつもの癖で真白さんは俺に甘えようとしたんだろうけど、バッチリ今の声は拾っているので他の二人にも届いている。そして今から三分後、この配信を見ている視聴者にも届くと言うわけで……ええい、今更恥ずかしがってどうするんだ!

 やってしまった、とはいっても苦笑している真白さんの頭を撫でているとマイカーさんがこんなことを言って来た。


『僕たち強いですよ。だってたか君を合わせると四人居るわけじゃないですか』

「あ……ふふ、確かにそうですね」


 俺を合わせて四人、そう言ってもらって凄く嬉しくなってしまい頬が緩んだ。あらあらと笑う真白さんに頬をツンツンされ、赤かった頬が更に熱くなるような気がした。


『……ところでマシロさん、やっぱり彼氏が居る生活って幸せです?』

「幸せね。もう毎日が楽しくて幸せで仕方ないの♪」

『……マイカーさん、これがリア充ってやつですよ』

『僕はもう妻と子供居るからなぁ』

『!?!?!?!?』


 セリーナさんから物凄く低い唸り声が聞こえてきた。


『……私だって彼氏がほしいよおおおおおおおお!!』

「Vtuberなのにいいのそんなことを言って」

『中身は普通の人間だから良いんですよおおおおお!!』

『それを言ったら……まあセリーナさんだしな』


 セリーナさんの魂の叫びを合図にするように、ついに参加者全員の準備が整ったということでゲームは始まった。

 GT、このゲームは三人でチームを組んで戦うものだ。今回の大会は十五チームの計四十五人が参加している。その中で相手を倒し、最後まで生き残ることを目指すゲームだ。


「そう言えば一試合目はキルポイントの上限あるんですよね?」

『そうですね。なので積極的に暴れるのは二試合目以降かな』


 マイカーさんの言葉を聞き、真白さんはう~んと考える。

 GTは戦いの前にチーム内でそれぞれ別のキャラを使うことになっており、そのキャラそれぞれが固有となる能力を持っている。その能力は多岐に渡り、三人の組み合わせが勝敗を分かつと言っても過言ではない。


『……あ、そっか。真白さんはT2だから同じキャラは使えないんですよね』

「そうなのよねぇ」


 真白さんの頭を悩ませているのが今回の大会のルールで、T2以上の参加者は同じキャラは二試合までしか使うことが出来ない。なのでキル合戦になってくる後半戦のために普段使っているキャラを温存するのがセオリーだ。

 となると、真白さんが普段使うキャラとは違うキャラ……たぶんだけどあのキャラになるんだろうなとは思う。


「リーパーで行こうかしら」

『了解です。なら僕はロックで』

『私はサーシスで行きま~す!』


 真白さんが選んだリーパーというキャラ、結構使われるキャラでその固有能力も強力だ。ゲージを消費することで空間と空間を繋ぐことができ、その中を高速で味方を含めて移動することが出来る。奇襲を掛けるのも逃げるのも、とにかく役に立つキャラだ。


「真白さんのリーパーかっこよくて好きですよ俺」

「ありがと、さてと! たか君が見守ってくれてるし、頑張らないとね!」

『おぉ……これが恋人を持つ女のやる気!!』

『頼もしいなぁ』


 ちなみに、マイカーさんが使うロックは全ての攻撃を遮断するシールドを発動することが出来るキャラで、セリーナさんのサーシスは周囲を探知して敵の居場所を知ることが出来るキャラだ。

 奇襲や逃げのリーパー、防御のロック、索敵のサーシスとほぼ理想の形とも言えるパーティ構成が出来上がった。


『それでは頑張りましょう!』

『うん!!』

「いきましょう!」


 そうしてついに、戦いは始まった。

 まずどこに降下するか、それを決めたのはマイカーさんで他のチーム同様に戦場に降下していく。だが一つ、始まって早々ハプニングが起きた。


『待って被ってるぞこれ!』

『もう初っ端からやめてよおおおお!』

「……取り敢えず武器を取ることからね」


 着地した瞬間、真白さんはアイテムを探して走り出す。その間に武器を取ったりする操作、やっぱり手元の動きが凄いことになっている。俺では一生真似できないなと思いながら、真剣に画面を見つめる真白さんの横顔に見惚れていた。


「? 一人離れてる! やれるかも!」

『了解!』

『索敵します!』


 セリーナさんが索敵をした結果、一人だけ真白さんの傍でもう二人はそこそこ離れた距離に居た。それを確認した瞬間、真白さんは一気にその標的に向かって駆けだした。あちらも真白さんに気づいたのか応戦してくるが、やっぱり今日の真白さんの動きもそうだしエイムも凄かった。

 ある程度装甲を削られたものの、アサルトライフルで見事に中距離に位置した相手をダウンさせた。


「誘拐してくるわ」


 真白さんは今居る場所に入口を作り、そこから高速で移動してダウンさせた相手と重なるように出口を形成した。するとその相手は穴に吸い込まれ、真白さんが最初に作った穴から出てきた――つまり、真白さんの味方が居る場所にである。

 無様に地に這い蹲る敵をセリーナさんがケツからショットガンを打ち込むようにキルを取った。


マシロCh → genkaku キル


 そんなログが流れあっと声を出した俺、そして隣で真白さんがあははと笑う。

 ちなみにこれが今のマッチのファーストキルになるのだった。

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