妹とは何かを考えさせるお姉さん

 突然だが俺には兄も姉も弟も妹も居たことはなく正真正銘の一人っ子だ。なので真白さんからお兄ちゃんと呼ばれたことは本当に新鮮で、ちょっと嬉しい気持ちを抱いたのも確かだった。

 ……しかし、これは本当に妹と呼べるものなのだろうか。


「ねえお兄ちゃん、ムラムラしてこない?」

「……どうしてかな?」

「ムラムラしてきたら私がお兄ちゃんの相手をしてあげるの♪」


 ニコッと、とってもいいスマイルをありがとうございます真白さん。でもね、そういうことは絶対に妹は言わないと思うんだ。帰ってきて妹化した真白さんに手を引かれてリビングに向かい、そこからいつものようにソファに座ってイチャイチャするのは変わらなかった。

 しかし、あくまで妹という体を崩さないように真白さんは演じていた。


「……むぅ、手強いねお兄ちゃん」

「だって妹に手を出す兄ってのは――」

「血の繋がりがない義妹設定だから」

「あ、はい」


 食い気味に言われてつい頷いてしまった。


「ほらお兄ちゃん、もっと真白に触れてほしいなぁ♪」


 ちなみに今の体勢だけど、ソファに座っている俺の足の上に真白さんが座っている状態だ。足を回すように抱き着いているので……所謂大好きホールドというやつをされているわけだ。


「ほらほら、お兄ちゃんは真白に触りたくないの?」


 こうやって距離が近いのもあって思いっきり触っているようなものだけど、どうやら真白さんはまだまだ物足りないらしい。ということなので、真白さんの体をこちら側に抱き寄せるように強く俺も腕を回した。

 そうして首筋に顔を埋めると、真白さんは悩まし気な声を出してくすぐったそうに身を捩る。


「くすぐったいわたか君……っ」

「真白さん?」

「あ……コホン! くすぐったいよお兄ちゃん!」

「やめてほしい?」

「やめないで。もっと真白を感じてほしい」


 ……改めて言わせてくれ、何をやってるんだ俺たちは。

 一瞬元に戻った真白さんだけどすぐにまた妹ロールを再開させ、もっと触ってほしいとの要望をいただいた。なので少し大胆といいますか、攻めるという意味も込めて真白さんのその大きな胸に触れてみた。特にビックリするようなことはなく、こちらを見る真白さんは待ってましたと言わんばかりに瞳に期待を滲ませていた。


「どうかな?」

「柔らかい」

「他には?」

「……大きい」

「ふふ、お兄ちゃんを想って毎日一人で……ううん、これ以上は恥ずかしいから教えてあげない♪」


 真白さん凄く楽しんでるなぁ……俺としても兄のように振る舞うということで、真白って呼び捨てにしてるのと敬語は抜きにしてるけどもう無理かもしれない。恥ずかしいのもあるし……色々と耐えられないのだが。


「……ねえお兄ちゃん、お兄ちゃんは真白のこと好き?」

「好きだよ」

「そう、ならいいよね?」

「え――」


 何がいいのか、そう聞き返そうとした俺の口を塞ぐように真白さんがキスをしてくるのだった。触れるだけのキスではなく、最初からアクセル全開のディープキスだ。

 真白さんの息遣い、びちゃびちゃと唾液同士が絡む音がリビングに響く。貪るようにお互いがキスに夢中になり、真白さんが顔を離すと銀の糸が伸びた。


「……たか君、取り敢えずこうなると妹どころじゃなくてもう私だわ」

「ですね……終わります?」

「そうしましょう」


 ということで、いつも通りの真白さんに戻るのだった。

 俺の足の上から退いた真白さんは隣に座り、いつものように腕を抱きしめる形で身を寄せてくる。最近のルーティンというか、一日一回は絶対にこの姿勢を取るのが当たり前になっていた。


「でも……いいものねこうやって役になり切るのはやっぱり。ねえたか君、今度は妹の状態で最後までしましょうか」

「それはそれで恥ずかしいですけど」

「大丈夫、お姉さんも凄く恥ずかしかったから」


 そうは見えなかったけど……でも確かにちょっと頬が赤くなっていた。あんな風にエッチに攻めてきた真白さんだけど、案外真白さんも心の中では羞恥心と戦っていたのかもしれないな。


「私が妹でたか君がお兄さん……きっとそれも幸せなんでしょうけど、家族ということで恋人になれないのだとしたら嫌だわ。それならやっぱり、今のままが一番だって思ってしまうのよ」


 そうですねと俺も頷いた。

 真白さんが姉であったり妹であったり、そんな世界ももしかしたらどこかに存在するかもしれない。でもやっぱり、今こうして真白さんと再会した今の時間の方が俺は好きなのだ。

 ……まあでも、さっきのことを思い返すと確かにちょっと興奮してしまった。あんな真白さんも可愛いしエッチだし……いいなとは素直に思った。でも俺としては真白さんは妹というよりやっぱりお姉さんかなぁ。


「どうしたの?」

「いえ、やっぱり真白さんは俺的にはお姉さんかなって。こう……全部受け止めてくれるっていうか、包み込んでくれる年上の優しさというか」

「……ふむ」


 顎に手を当てて何かを考える真白さん、そうして何かを思い付いたのか真白さんは体を離した。先ほどまで感じていた温もりが消えたことに寂しさを感じたのも束の間、真白さんがこちらに体を向けて両腕を広げた。


「ほらたか君、おいで♪」


 おいでおいでと、真白さんは腕を広げて俺を待つ。そんな真白さんに俺は躊躇することなく飛び込んだ。とはいっても真白さんが背中を打ちつけることがないように優しくだが……まあソファの上だし大丈夫とは思うけど。

 頬が真白さんの胸に乗るように抱き着いたけど、当然真白さんが望んでいたのはそれだったらしい。優しく俺の頭を抱きしめるようにしてソファに倒れ込む。こうして真白さんに受け止められているのは正に、さっき俺が口にした包み込んでくれる優しさを表すかのようだ。


「う~ん……やっぱり私もこうやってたか君に甘えてもらう方が好きかも……いいえこっちの方が好きだわ」


 そうしてしばらく、真白さんに思う存分甘えるのだった。


「まあでも、たか君に甘えるのも好きだし困っちゃうわね。本当に贅沢な悩みだわ」

「真白さんこそいつでも甘えてくださいよ。受け止めますから」

「ほんとう? それじゃあ交代しましょうか」


 クルッと体の位置を入れ替えるように俺と真白さんは入れ替わった。上になった真白さんは俺の胸元に頬を引っ付けてスリスリと甘えてくる。ところどころ匂いを嗅いでは恍惚とした表情になるのは……うん、見なかったことにしよう。


「ねえたか君~」

「なんですか?」

「私たちってバカップル?」

「……どうなんでしょうかね」

「まあ、これくらいイチャイチャするカップルなんていっぱいいるわよね」

「そうですよ。俺たちなんて珍しくないですよきっと」

「そうよね。それじゃあ世の中の恋人たちに負けないようにもっとイチャイチャするわよ~!」


 この後、思いっきりイチャイチャした。


「あぁそうだわ。GT杯、ゲンカクさんと同じチームじゃないなら出ますって伝えたけど良かった?」

「そうなんですか? 俺としては全然いいですよ。というより、真白さんのカッコいいプレイを大舞台で見れると思うと凄くワクワクしてます」


 ワクワクしているのは本当だ。GT杯、実を言うと結構見ていたことがある。ゲンカクさんはともかくとして、有名配信者もそうだしプロゲーマーも出場するお祭り企画、楽しむことはもちろんだが高い実力者同士の戦いは本当に手に汗握る展開が多くて面白いのだ。


「そこまで言われてしまっては頑張らないわけにはいかないわね」

「頑張ってください真白さん」

「えぇ!」


 プロゲーマーや高ランクの相手は真白さんでも厳しいだろう、それでも真白さんなら渡り合えると俺は信じている。それだけ上手だし、いつも俺は真白さんのプレイを見ていたのだから。


「でも一番は楽しんでくださいね」

「そうね。ふふ、顔合わせの練習もそうだし大会の時もたか君に傍に居てもらおうかしらね」

「分かりました。お供しますよ」

「ありがとう……好き」


 この後、もっとイチャイチャした。

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