欲望を溢れさせるお姉さん
隆久の友人である宗二は今、幸せの絶頂にあった。憧れのマシロ、彼女が配信にコメントを残してくれたからである。その前に隆久がコメントをし、その後にマシロがコメントをしたのはおそらく一緒に居るからだろう。その一点には激しく嫉妬してしまうが、それでもマシロの頑張れの文字に全て流されてしまう。
:マシロってモノホン?
:本物だぞ
:え、どうなってんの?
:どういうことなん主
:知り合いなの?
「……あ~」
さっきまで二人くらいしかコメントがなかったのに一気に増えてきた。今やっているゲーム、通称GTをマシロもやり込んでいるためやはり知ってるんだろう。中には偽物と思った人も居るはず、しかし名前からチャンネルに飛べるので本物というのはすぐに判明することではある。
マシロがコメントを残してくれたことは嬉しかった……しかし、こうやって追及されると困ってしまうのも確かだ。下手のことは言えない、それこそマシロにも隆久にも迷惑を掛けることはしたくないからだ。
「えっと……」
知り合い……くらいは言ってもいいだろうか。取り敢えず身バレに繋がることを一切言わなければ大丈夫かなと宗二は考えた。幸いにソウジーンとして活動を始めたことは隆久にしか伝えておらず、秋月や三好にもまだ伝えてはいないのだから。
「まあ……知り合いの知り合いって感じですかね」
マシロの彼氏と友人が一番正しいのだが、別にこの答えも間違いではない。あまり深いことは伝えず、一番無難だと思われる答えにコメント欄はなるほどと納得した様子と、知り合いであれることが羨ましいという様子に分かれた。
:マジかいいなぁ……あ、登録しておきます
:俺もするわ。何となくだけど歳近そうだし
「マジっすか! ありがとうございます!」
ふと見てみると登録者数が十人になっていた。まだまだ収益化までは遠く、誰もが全く大したことのない数字だと笑うだろう。それでも宗二は手応えを確かに感じることが出来たのだ。
:ちなみに近くで見るマシロってやっぱり美人?
「めっちゃ綺麗ですね……後大きいです」
:だろうな
:あれはデカい以外の言葉ねえよ
:俺も近くで見たい……
:俺はたぶん知り合いってだけで神様に感謝するわ
:それなw
「……はは」
ただゲームをするだけでなく、こうやって誰かと話をしながらすることに楽しさを見出せるのは良い事だと宗二は思っている。それからも数は少なくてもコメントしてくれる視聴者と共に、宗二は楽しい時間を過ごすのだった。
:ちなみに主はマシロが付き合っている件について
「爆発すればいいと思いました」
「くしゅん!」
「あら、風邪?」
「いいえ、誰かが噂してるのかも」
ただいま真白さんと一緒にお風呂に入っております。
お互いに頭と体を洗いっこして湯船にのんびりと浸かっていた。お互いに目が合うとどちらからともなくクスッと笑みが零れるのがくすぐったくなるが、俺と真白さんも何も隠したりしてない辺り本当に慣れてきたなって感じがするよ。
「……いい湯だなぁ」
「おじいさんみたいね」
それくらいリラックスしているってことだな。
しかし……こうして裸の真白さんを見ると毎回思うことがある。それは本当に綺麗な肌をしているなってことだ。シミ一つない肌、なんて表現の仕方があるけど正にそれである。
お湯を肩に掛けるようにする真白さん、視線を少し下に向ければお湯に浮かぶ大きな母性の塊……ついさっきのことを思い出してしまい下半身に力が入りそうになってしまうが、何とか抑え込むように深呼吸をする。
「ふふ、たか君ったらエッチなんだから♪」
……返す言葉もなかった。
そっと視線を逸らした俺をクスクスと笑った真白さんだったが、彼女はゆっくりと俺に近づいて来た。そのまま全身を俺に密着させるように体を寄せたことで、その柔らかさはもちろんなのだが、真白さんのすべすべな肌の感触を感じてとても気持ちが良かった。
「でも……こうやって体を押し付ける私もとてもエッチね♪」
「……エッチなのもそうですけど可愛いです凄く」
エッチなのは当然、そして可愛かった。
そう伝えると真白さんの目にハートが見えた気がした。そのまま顔を近づけてきた真白さんに応えるようにキスをするのだった。触れるだけのキスを何回か繰り返し続きはまた後で、そう約束して体を離した。
「最近の悩み、たか君ともっともっと色んなことをしたいって欲望が止まらないんだけどどうしましょうか」
「いいんじゃないですか? ずっとこれから一緒なんですから、色んなことを一つずつしていきま――」
……それからしばらくして、お風呂から出た俺はソファに背中を預けて扇風機の風に当たっていた。
「あ~~~~~~~~~」
風を受けながら声を出すやつ、誰でもやったことはあるんじゃないかな。そんな俺を髪を乾かし終えた真白さんが愛おしそうに見つめていて……何というか真白さんの日常に俺が存在している、それが本当に嬉しいと言っていた。後はまあ行為の後ということもあるんだろうけど、本当に真白さんの目は優しかったのだ。
その後二人で夕飯を済ませ、ゆっくりとした時間を過ごす。
「見てみてたか君」
「……おぉ」
真白さんが見せてきたのは今日投稿した動画のページだ。
現在の時刻は八時半ということで、予約投稿が行われてから三十分が経過していた。再生回数はまだ二万程度だが、高評価が三千を超え低評価が二十くらい……どうやら受けはかなり良いようで安心した。
「コメント欄も悪いことは書かれてなさそうだわ……あら」
「どうしたんですか?」
「たか君の声が可愛いって書いてあるわよ」
「それはなんか恥ずかしいですね」
自分の声だから可愛いとかカッコいいとか思うことはないけど、寝起きということでしゃんとしてない声だ。これを可愛いと思ってくれるのなら……それはそれでいいことなのかな。
「この調子で色々と投稿していきましょうか。こういう日常的なモノもいいけど一緒にゲームをしたりとかね?」
「そうですね。凄く楽しみです」
そう言えば、近い内に真白さんが俺のために買ってくれたパソコンのパーツが届くんだったかな。いくらするのか見せてもらったけどかなりの大金だった。これから真白さんと一緒に頑張って恩返しをしていかないとだ。
小さく握り拳を作って気合を入れる俺だったが、そんな俺の握りしめた手を真白さんが優しく両手で包んできた。
「二人で頑張りましょう。私とたか君、二人で……ね?」
「……はい」
まるで誓いのように、大切な約束事をするように俺は頷いた。
……本当にこの人はどうしてこうなんだろう、どうしてこんなにも俺を夢中にさせてくれるのだろう。
「真白さん、抱きしめても良いですか?」
「いいわよ。というか、許可なんていらないのに」
「それもそうですね」
「えぇ♪」
真白さんの体に腕を回し、そのまま俺は背中から倒れ込むように横になった。時々と言わず最近ではずっとこうなんだが、本当に真白さんが愛おしくて仕方がない。抱きしめても足りないくらい、もっともっと真白さんの存在を感じたいと思うほどに。
何もすることはない、ただこうやってただただ抱きしめ合っている時間が何よりも尊く感じる。この人の温もりを、感触を、その全てを感じられているこの瞬間が本当に幸せなのだ。
「こんなに幸せでいいのかしらって最近思うのよ」
「それは……俺もですけど」
幸せの前借……とかは思いたくないな。
ずっとずっと、こんな時間が進むことを願う……いいや、願うだけでなくずっとそうなるようにしていく、それが一番大切なことだ。
それから真白さんが生放送を開始するまで、俺たちはそうやって身を寄せ合っているのだった。
「ねえたか君、ちょっと聞いてみても良い?」
「何ですか?」
「姉と妹、どっちの私を見てみたい?」
急な問いかけですね……でも姉と妹か。
「今でもお姉さんみたいなものですし、妹みたいな真白さんは新鮮で見てみたい気もしますね」
「そう……うふふ。楽しみにしていてねたか君♪」
「うん?」
次の日、その言葉の意味を俺は思い知るのだった。
【あとがき】
前回の終わり際の人物に関して、別にゲンカクを書いたわけではなく単純に嫉妬する人を書いたつもりだったのですが、ゲンカクとしか見られてなかったみたいです(笑)
なので、あれはゲンカクさんになりました。マシロへの愛を拗らせた人はみなゲンカクになるんですそういうことです(え
つまり、まだ第二第三のゲンカクが……。
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