人間だもの、舌打ちくらいするお姉さん
「……むにゃ……たか君~♪」
「あはは……」
天国と地獄を両方感じた風呂場での出来事から少し経ち、今は真白さんの生配信をいつものように見守っている。場所は当然配信部屋になるわけだが、そんな俺に寄りかかるようにフィリアさんが眠っていた。
夕飯の時にお酒を飲んでいたからなのか、フィリアさんも真白さんの配信を見守りたいと言って隣に座っていたが……まあこの有様だ。
「は~い……そろそろ雑談は終わりにしますかねー」
気が抜けたような、早く配信を終わらせてしまおうと考えているような真白さんの声だ。フィリアさんが眠ってしまい、俺に身を寄せてからずっとこの調子で……カメラに目線はあまり向けず、代わりにこちらにばかり視線を寄こしている。
コメントの方も真白さんにどうしたのかと聞くようなものばかりで、そのコメントを目に留めた真白さんは正直に答えるのだった。
「実は今日うちにお母さんが来ててね? 夕飯の時に酒を飲んでたんだけど、眠くなったのか私の目の前で彼氏に寄りかかって眠ってるの」
:仲が良くていいじゃない
:マシロのお母さん……どんな人なんだろ
:めっちゃ美人なんだろうな
:違いない
:なるほど、嫉妬してるのね
:10000¥ 可愛い
「一万円ありがとう。お母さんは……そうだね、娘の私が言うのもなんだけど本当に美人だと思うよ。性格は丸くてふわふわしてて天然かなぁ……あぁ後、胸は私よりも大きい。もう四十過ぎてるってのに張りもあってさぁ」
それから真白さんはフィリアさんのことについて話し出す。最初は俺を独り占めされてるって愚痴も多かったけど、中盤からはフィリアさんのことが本当に大好きなんだと、いつも助けられていると感謝の言葉を口にしていた。是非ともフィリアさんが起きている時に言ってあげればいいのに、なんて思ったけれど実の両親に感謝の言葉を伝えるのって恥ずかしいもんなぁ。
「みんなも自分のご両親は大事にしようねって話でした。まあでも、やっぱりちょっとムカつくぅ!」
:結局そこなのねw
:分かった! 父さんと母さんに感謝の言葉を伝えてくる!
:俺も!
:私も!
上手い具合に纏まりかけたのに結局後戻りしたことに苦笑する。
今日の配信は見ての通り雑談配信だけど、視聴者数は一万人を超えている。ゲーム配信は一万人くらいすぐに届いていたが、雑談での配信はここまで伸びることはそんなになかった。それもおそらく、真白さんが顔出しをしたことが影響しているのだろうと思われる。
真白さんに顔出しに関してはSNSでもずっと話題になり続けているくらいで、心底惚れているガチ勢の人がずっと真白さんへの愛を囁いているくらいだ。中には真白さんがどこに住んでいるのか、その情報を求めている人も居るくらいでそれに関してはちょっと気持ち悪かったけど。
「あっとそうだ。近日中に彼との動画を投稿するサブチャンネルも開設します。最初のうちは短い動画ばかりになるかなぁ。見たい方は是非ともそっちも登録してくれるとありがたいです」
:任せろ
:登録します
:悔しいけど見ちゃう
:彼にも貢げるのかい? おじさん頑張っちゃうよ
:↑なんか危険な香りがする
:ホモかな?
近日中にサブチャンネルを公開することも決まっていたことだ。そしてもう一つ俺は聞かれていたことがある。それはSNSのアカウントについて、俺のアカウントのこともこれから概要欄もそうだし、真白さん自身の投稿で触れてもいいのかなというものだ。俺としてはこのアカウントで身バレに繋がることは一切投稿していないし、宗二くらいしか知らないので別に構わないと伝えている。
「よいしょっと……今私のプロフィールちょっと弄って彼のSNSのURLも貼っておきました。男共、DMで迷惑の掛かることは言うなよ? 女共、ちょっかい出したら許さないからね」
:ひえっ
:声のトーンがマジなんだが
:迷惑を掛けるつもりはないけど……
:全部は無理だろうなぁ
:彼氏さんにはちゃんとブロック機能使ってもろて
:フォローして愛の告白してきました
:俺も
:マシロ、ちゃんと見てあげるんだぞ
もしやと思ってSNSを開くと通知が凄まじいことになっていた。数百人程度だったフォロワーが千人超えててちょっと逆に怖くなってきた。後DMを覗いてみると確かに愛の告白だった……男からな!
小さい溜息を吐く俺を見てクスッと真白さんは笑みを溢す。
「これから先、二人三脚で頑張っていくからね。まずはその第一歩、最初の動画は何にしようかなぁ……寝ている彼にちょっかいを出すのも……よし、決定!」
:寝起きドッキリ!?
:面白そう
:最近思うんだけどさ、マシロの動画エッチだよな
:うん? 今更?
:何言ってんだお前
:マシロはエロいだろうが。エロいはマシロだろうが
:お前は何を言ってるんだ
:草
:250¥ 以前に質問した者です。まだ幼い甥っ子がマシロにハマっておっぱいおっぱい言っていますどうしたらいいですか?
「何がいけないの? もっとお姉さんにどっぷりハマりなさい」
:将来安泰だな
:俺たちの意思を継ぐ者が現れた
:一寸先は地獄ぞ
:投げ銭しだしたらもう戻れない
確かに一度ハマったら抜け出せないモノってあるよなぁ。その甥っ子さんには是非ともあまり真白さんに浸からないように面倒を見てあげてほしい。こう言ってはなんだけど……真白さんのファンの人は基本良い人たちだけど、ぶっ飛んでる人はぶっ飛んでるからな。
視聴者の人たちと楽しそうに話をする真白さんを眺めていると、そこでフィリアさんが目を覚ました。
「……はれ~?」
「あ、目が覚めましたかフィリアさん」
フィリアさんは目を擦りながら俺を見つめている。そして……チュっと、頬に優しくキスをしてきた。突然のことに俺はビックリして変な声を出しそうになったが何とか我慢したが、当然真白さんはそうではなかった。
「何してんのこのババア!?」
ちなみに、その声はバッチリと配信に乗っていた。
コメント欄では一体何が起きたのか盛り上がる中、配信中にも関わらず真白さんはズンズンとこちらに歩いて来た。
近づいてくる真白さんの存在にフィリアさんは気付くも、ニヤリと笑って俺にそのまま抱き着いてきた
「ほおら真白? 配信中なんだから戻らないと~」
「なら離れなさいよこら!!」
「い~や~!」
二人からグイグイと引っ張られる。
腕がもげる……とまでは行かないが、ちょっと落ち着いたほしいと思って真白さんの体を引っ張って抱きしめた。
「……あ」
「あら~、雌の顔ね♪」
フィリアさん! 女性がそんなことを言わない!!
俺をフィリアさんから取り返そうとあまり他の人に見せてはいけない表情をしていた真白さんだが、俺が抱きしめた瞬間すぐに表情が変わった。
目をパチパチとさせたのも束の間、すぐに蕩けたような表情になって俺に抱き着いてくる。
「あの~真白さん……配信が」
「いいもん」
「うふふ~♪」
取り敢えず、コメントにどんなことが書かれているのか非常に気になる。
結局、その後しばらく真白さんに抱きしめられていた俺だった。配信自体は無事に終了し、その後に三人並んでベッドで眠ることになった。やっぱり真白さんのベッドは大きいので三人横になっても問題はなかった……いやいや、それはいいんだ。
「たか君……すきぃ」
「……すぅ……すぅ」
「……………」
流石二人とも親子なのかベッドに入った瞬間の寝付きは恐ろしいほどに良い。しかし、この二人に挟まれるように眠るのがどういうことなのか、俺はそれを身を持って知ることになるのだった。
「……眠れん」
右を見ても左を見ても、こちら側に体を向けて眠っているからこそ大きな二つの膨らみがこんばんはしている。取り敢えず目を瞑ろう……そうすれば必ず眠れるはず!
それから数十分後、何とか俺は眠ることが出来るのだった。
真白さんが口にした一つの出発点、本格的に俺という存在が知られてから数日が経過した。SNSのフォロワー数が三千人を超えた。何気ない呟きでもリプがもらえたりしてちょっと楽しい……そんな中だった。
「?」
届いていたDM、また前のと似たようなものかなと思い覗いてみた。
“マシロさんに迷惑を掛けるのはやめた方がいいですよ。正直邪魔です”
送り主は……ゲンカクさんだった。
「……………」
黙り込んでしまったが、特に俺はこのことについて思うことはない。むしろようやく来たのかって気持ちの方が強かった。どう返そうか、或いは無視をしようかと考えていると。
「は、何こいつ」
「真白さん?」
ちょうど、近くに真白さんが居たのだ。
俺のスマホの画面を見ていた真白さん、彼女はいつもは絶対にしない舌打ちをして自分のスマホを操作した。
「うっざいなぁこの人……はい、ブロックしたわ」
「いいんですか?」
「いいのよ。ついでにお前の方が邪魔だわって送っておいたから」
「……あ~」
ふんと鼻を鳴らし、身を寄せてきた真白さんに苦笑する。
取り敢えず俺もゲンカクさんをブロックしておいた。特に絡むつもりもないし、話をする必要もないだろうし。
「そろそろ夏休みねぇ」
「そうですねぇ」
今年の夏休みは色々と予定がある。
真白さんと海に行ったり遠くに旅行に行ったり……あぁ本当に楽しみだ。
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