恋人にはどこまでも愛されたい真白ちゃん
「……あ?」
ふと、私は目を覚ました。
いつもと同じ風景で、お父さんとお母さんの家族三人で過ごしている家だ。何だか妙に頭がふわふわしていて不思議な気分、良く分からない心持ちだが私は自然に体を起こしてベッドから出た。
「……ふわぁ」
今ここには一人しか居ないので大欠伸を隠すこともせず、私は間抜けな顔を思う存分晒していた。そして一階に下りて家族の元へ向かう。
「おはよう真白」
「おはようお母さん」
お父さんは既に仕事に行ったのかリビングには居なかった。お母さんと朝の挨拶を交わして朝食を食べる……うん、やっぱり不思議な感覚は消えなかった。お母さんと学校のことを話しながら、最近たか君とはどうなのかと楽しそうに聞かれる。
「いつも通りよ。私とたか君はいつでもラブラブなんだから♪」
「見てれば分かるけれどね~。あまりたか君を困らせてない?」
「そんなこと……ないわよ……ないない! 絶対にないから!」
「本当かしら~?」
お母さんの言葉にうっと詰まる。
たか君というのは同い年の男の子で私の幼馴染になる。昔から抱いていた恋心、それが通じて最近付き合うことになったのだ。昔からずっと傍に居た、ということもあって付き合うことになって劇的な変化はなくても、毎日が幸せだと感じられるほどに私はもっとたか君のことを好きになった。
私は別に距離感がバグっていたりする自覚はないけど、どうやらお母さんやお父さんから見た私はかなりたか君を困らせているらしい……解せぬ。
たか君はいつでも私を抱きしめてくれるし、頭を撫でてくれるし、大好きだって言ってくれるし最高の彼氏だもん……でも確かに、ちょっと困らせることはやっぱりあるのかも?
「……むむむぅ」
これは……要検証かもしれないね!
朝食を食べ終えた私は身嗜みを整え、いつも着ている制服に着替える。着替える途中に思ったことだけど、最近やけにブラがキツくなってきた気がする。外に出ても学校に行っても色んな人がこの大きな胸に視線を寄こすけど、その周りの目に対して鬱陶しさを覚えてもたか君にはそれはない。むしろもっと見てほしいというか、触ってほしいというか……ええい落ち着きなさい真白!
「……ふぅ」
精神統一、最後に鏡に写る自分の姿に頷いて私は家を出るのだった。
家を出て少しした場所に公園があるのだが、その入り口で私はたか君といつも待ち合わせをしている。早く会いたい、早く触れたい、そんな逸る気持ちを抑えるようにして私は走った。
「……あ」
そして、目当ての場所に私は最愛の人を見つけた。
「たか君!」
そう声を出すと彼はこちらを向き、笑みを浮かべて手を振ってくれた。その反応が嬉しくて私はそのまま駆け寄り、大好きなたか君の胸元に飛び込むのだった。
「おっと……相変わらず真白はこうするのが好きだな」
「うふふ~、大好きなんだもん仕方ないよね!」
うん、これは仕方がないのだ。恋する女の子にとって、目の前に大好きな人が居たら抱きしめたいし抱きしめられたいのだ。しばらくお互いに抱きしめ合い、どちらからともなく笑みを浮かべて歩き出す。学校に向かうまでの道中、私はいつものようにたか君の腕を抱いた。
「さっきの言葉をそのまま返すけど、たか君もこうされるの好きでしょ?」
「……まあな」
照れくさそうに頷いたたか君がとても可愛い。
さっきブラがキツくなったと言ったように、私の胸は同年代の中ではかなり大きい方だ。だからこうやってたか君の腕を抱きしめると私の胸は形を歪める。たか君からしたらその感触は腕からダイレクトに伝わることだろう。
「ねえたか君、また胸が大きくなっちゃった」
「……………」
あはは、顔を真っ赤にするたか君が可愛くて愛おしくてヤバいんだけど! また大きくなったの、そんな気持ちが瞳を通して伝わってくるかのようだ。たか君と付き合いだしてから……まあそういうことをしないわけではない。その影響もあって更に成長しているのではないかって思うんだよね。
つまり、この胸の成長はたか君に愛されている証なんだよ!
「……えへへ」
こうやってたか君を揶揄うのは好きだ……好きだけど、やっぱり一番はこうやってたか君に身を寄せて甘えるのが好きだ。周りから大人びているってよく言われるけど私はみんなと何も変わらない、まだまだ子供で……いっぱい甘えたいのである。
甘える対象はお母さんやお父さんになるんだろうけど、私はやっぱりたか君に一番甘えたい。
「なあ真白、今日学校終わったら家に来ないか?」
「いくぅ!!」
放課後のお誘い、もちろん断るわけがない。
基本的に放課後はたか君と一緒に過ごしているから特別なことではないけれど、こうやって家に呼ばれるのはやっぱりいいよなぁって思う。学校ではせいぜい抱きしめ合ったり頬にキス程度しか出来ない、でも家なら誰の目もないから無制限にイチャイチャできるからだ。
「あ~あ、私ってどれだけたか君に甘えたいんだろう」
「俺だってよく甘えているけどさ」
「ベッドの上で私のおっぱいに顔を埋めたり?」
「いやそれは……まあはい、落ち着きます凄く」
うんうん、全然いいんだよたか君。むしろもっと私に甘えてほしい。その分私も甘えちゃうから!
「俺さ、本当に真白のことが好きで仕方ないんだ。ずっと一緒だったけど、こうして付き合うようになってからその気持ちはもっと強くなったんだ」
「……うん」
「だから……ああいや、結婚は早いな流石に」
「……たか君!!」
思わずギュッと全身で抱き着いてしまった。
確かに結婚はまだ出来ないけどそこまで考えてくれているのはとても嬉しい。嬉しすぎて私の心はズッキューンと撃ち抜かれてしまった。周りには他に登校する生徒や仕事に向かう大人が居るけど知ったものか、私はたか君とイチャイチャするんだ!
「真白!? ここは流石に……っ!?」
たか君の唇をロックオンして私は自身の唇を押し付けた。
柔らかい感触と共に心が温かさに包まれる。目が覚めた時から感じるこのふわふわとした感覚は相変わらずだけど……やっぱり幸せだなぁ。
彼の傍に居るこの瞬間、彼を感じられる今……それがどうしようもないほどに愛おしく、そして掛け替えのない時間なのだ。
「……たか君……すきぃ」
「あらあら~、幸せそうにしちゃって」
俺に寄りかかるように眠っている真白さん、さっきから良い夢でも見ているのか本当に幸せそうな表情を浮かべている。
「良い夢を見ているんでしょうねきっと」
果たしてどんな夢を見ているのか、気にはなるけどそれを覗く術はない。それもそうねと俺たちと向かい合うようにソファに座っているフィリアさんが笑った。
さて、今日はいつもと変わらない休日である。真白さんと朝からイチャイチャして過ごしていたのだが、こうして二人並んでテレビを見ていたら真白さんが眠ってしまったのだ。
起こすのも悪いからとそのままにしていたらいきなりフィリアさんから電話が掛かってきたのである。今近くに居るから会いに行ってもいいか、その言葉に俺が頷いたのでフィリアさんが今ここに居るというわけだ。
「真白に電話したら出なかったから、これは寝てるかたか君と愛の営みをしているのかなと思ったのよ~」
なるほど、最初に真白さんに電話していたのか当然だけど。でも愛の営みってストレートに言わないでほしい、非常に恥ずかしいですはい。まあ俺が電話に出たからそうじゃなかったわけだが。
「……ふふ」
眠っている真白さん、次いで俺を見つめてフィリアさんはこう言った。
「改めておめでとうたか君。それとありがとう……娘の気持ちに応えてくれて」
フィリアさんは頭を下げた。
俺は頭を下げないでくださいと慌てるように口にした。気持ちに応えるも何も、俺も真白さんのことが好きだった。ただそれだけのことなのだから。
「真白とはあれからも電話しているけどね、本当に嬉しそうなのよ~。たか君と何をしたか、どんな風に過ごしているのか、それを幸せそうに教えてくれるのよこの子」
「……そうなんですね」
電話をしていることは知ってるけど、そんなことを話していたのか。改めてフィリアさんに聞かされるのは恥ずかしいが、真白さんが俺の知らないところでそう話してくれたことは素直に嬉しかった。
「俺も幸せですよ。真白さんが傍に居て、どんな時も俺を見てくれる彼女の存在、それが本当にありがたくて……何というか、言葉に出来ないくらい今がとても幸せなんです」
「ふふ、そうなのね……あぁでも!」
そこでフィリアさんは我慢できないと言わんばかりに立ち上がり真白さんと逆の位置、つまり空いている俺の腕を取るように座った。
「これでたか君も私の息子になったようなものなのね。最高よ本当に……ねえたか君私に何かして欲しいことはないかしら~?」
「……いやしてほしいことなんて」
「……ないの~?」
「うっ……」
お願いだからそんな悲しそうな顔をしないでほしい。
さてどうしようか、そんな風に困っていると真白さんが目を覚ました。
「……あれ? 私学校に居たはずじゃ?」
真白さん、寝ぼけてないで助けてください。
そんな俺の気持ちが通じたのか、真白さんは傍に居る俺を嬉しそうに見つめ……そしてフィリアさんに目を向けて少し固まり……そして、大きな声を上げるのだった。
「不審者!?」
「……ちょっと酷くないかしら~?」
たぶん、自分の母親に遠慮なしにそこまで言えるのは真白さんくらいだよ。
【あとがき】
夢オチですけど、当初の構想ではこんな感じの幼馴染的な話でした。
まあでも、大人な真白の設定の方が魅力があるかなと思って今の形になったんですよね。
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