配信中なのに勢いが凄いお姉さん
まさか部屋に入って早々真白さんから問い掛けられるとは思わなかった。愛おしい彼なんて言われたものだからつい大好きと言葉にしてしまったけど、たぶんだけど俺の声はそこまで拾ってないはずだ。
「きゃあああああああああ!!」
そんな俺の言葉を聞いて歓喜の声を上げる真白さん、たぶん音量とか下げてないから今の大きな声はダイレクトに視聴者の耳に届いただろう。イヤホンとかしていた人はかなり悲惨なことになっていそうだ。
「あ~ごめんなさいみんな。つい嬉しさを抑えられずに大声を出してしまったわ。うふふ~あはははははっ♪」
「……………」
体を揺らして全身で嬉しさを表現している真白さんは凄く可愛いし、こんな真白さんを見せたのが俺の一言だと思うと凄く嬉しい。起きてからすぐにここに来たのでスマホを置いてきてしまいコメントを確認出来ないが、果たして今の真白さんを視聴者はどんな気持ちで見ているのか……ちょっと怖いな。
「一万円ありがと♪ 三万円ありがと♪ 五万円もありがと♪」
あ~……どうやら心配はなさそうだ。
体を揺らしたリアクション、頬に両手を当てていた際に肘で胸が圧迫されるような感じになっていた。結構離れているここから見ても目に毒だったのだが、そんな俺よりも近い距離で見ている視聴者が何思ったのかその答えがこの投げ銭なのかな。
「よっこらせっと」
スマホが手元にないので手持ち無沙汰になってしまったが、今日は終わるまで真白さんを眺めていることにしよう。
ソファに深く腰を下ろし、配信を続ける真白さんを見つめ続ける。すると、当然こうやって見つめていると真白さんも俺に気づくのは当然だ。目が合うと嬉しそうに笑みを浮かべ、更に声に明るさがプラスされた感じがする。
「え~となになに……マシロさんはコスプレ衣装を数多く持っていますが、その衣装で彼氏さんと色々楽しむことはあるのですか……ふむ」
どうやら一つの質問を拾ったみたいだ。
というかなんてことを聞いているんだこの人は……質問をされたのが俺ではないのに頬が熱くなってきてしまう。真白さんはクスッと笑い、あの時のことを話し始めるのだった。
「楽しむがどんなことかは置いておくとして、一度彼が帰って来た時にメイドさんに成り切ったことはあるかな。以前に着た胸元が開いたタイプのメイド服でね? 恥ずかしそうにしていたけど幸せな時間だったなぁ」
死ぬほど恥ずかしいんだが……。
まあでも、確かにあの時の真白さんはエッチだったし可愛かったし綺麗だったし最高だった。基本的にどんな衣装でも似合う真白さん、今度はどんな衣装でエッチなことをしようか、なんて提案をされた時の胸の高鳴りは……って、これじゃ俺が変態みたいじゃないか。
ブンブンと頭を振って何とかその時のことを頭の外へ追いやる。
「やっちまったのか俺以外のやつと? なんか最近のそのCM多いよね。でも敢えて答えると私がそういうことをするのは彼だけですぅ! なので諦めてね♪」
ウインクと共に放たれた言葉は質問者の心を抉るモノだろうけど、本当に綺麗に笑顔を浮かべる人だ真白さんは。配信だからこそある程度は作り笑いであったり笑顔を作ることはあると聞いたことはある。でも、どんな笑顔でも俺は真白さんが浮かべる表情が好きだ。
「さてと、取り敢えず今日は気分が良いので……じゃん! みんな乾杯しようか!」
真白さんが手に取ったのはビールである。
プシュッと良い音を立てて泡が零れそうになる。画面の向こうの視聴者と音頭を取り合うように乾杯と大きく声を上げた。
「乾杯!」
ゴクゴクと凄い勢いで飲んでいく真白さんだけど、こうして母さんたちと一緒じゃないのに酒を飲んでいるのはある意味珍しい光景だ。今日が記念日ということもあるんだろうし、一本程度ならあの時みたいに酔っぱらったりすることはなさそうなので俺も安心できる。
「お風呂はねぇ基本的に一人だけど彼と一緒に入ることもあるわ。あぁでも寝るのはずっと一緒ねそれは譲れないわ。寝る前と起きた時に愛する人の顔が目の前にあるのは幸せなの。だからみんなも彼女さんが居たり奥さんが居る人はそういう時間も大切にしてみてね?」
時々お風呂に一緒に入ること、最近はずっと一緒に寝ていることが知られてしまった……これはきっと、このことも含めて宗二に色々と聞かれそうだ。
「ビールもなくなったし、そろそろ終わりでいいかな。みなさん、本日は七十万人の突破記念配信ありがとうございました! 次は八十万人だけど案外すぐ届きそうね」
確かに真白さんが言うように既に七十五万は越えていたはずだ。このペースで行くと夢の百万人もすぐそこまで見えてきた。これは俺の方も、真白さんを支えていく人間として忙しくなるんだろうな。
「うん? 最後に彼氏さんとイチャイチャしているところを見せてください……あらあら、そんなに見たいの?」
「……え?」
思わず声が漏れた。
拾ったコメントを読んだ真白さんは俺を見て手招きしてきた。その間に少しカメラの位置を弄るようにして傾ける。
「彼の顔は映せないから前と同じ感じで。おいで、愛おしいあなた♪」
「……………」
流石にたか君とは呼ばないんだな……まあでも、真白さんに呼ばれたのなら行かない選択肢はない。ニコニコと笑顔を浮かべる真白さんの隣に座ると、目の前に広がる三つのモニターに目が向く。コメント確認用のモニターはいいとして、ちゃんと俺の首から上は映っていなかった。
:彼氏さん来たあああああああ!!
:あぁ……
:また一人死んだぞ
:だから死体蹴りはやめてもろて
:マシロさんあなた虐殺が好きなのかい?
:草
:死体がたくさんあるぞここ
「イチャイチャって言われたけど何しようか?」
「……えっと」
:かなり若い声だね
:思った
:マシロが付き合う以上相手は若いと思うけどそれにしては……
:高校生とかだったりな!
:だとしたら羨ましすぎるやろ
:俺と変われクソガキ
「クソガキ言ったアンタ、次はないわよ?」
ドスの利いた声で真白さんはそう言うのだった。
さて、ここに出た以上何かをしないと終わらなそうかな……。俺は真白さんの肩に手を置き、そっと抱き寄せた。そして、こっちを真白さんが向いたタイミングで唇にキスをした。
「……あ」
この時、俺はコメント欄が怖くて見れなかった。
ただ顔が映っていなくても、首が見えていれば顔を寄せたのもきっと気付かれているはず、だから俺が真白さんにキスをしたのも分かるはずだ。
触れるだけのキスに止め、顔を離すと真白さんも顔を寄せてチュっと音がした。そして画面の方に顔を向け、マウスを動かして配信停止の部分にカーソルを合わせる。
「それじゃあ今のキスでいいかな? 私たち、ちょっと続きをしないといけないから今日はこれで本当に終わり! それじゃあみなさん、また明日の配信で!」
カチッと音がした瞬間、真白さんは俺を押し倒した。真白さんがいつも使っている椅子の隣にこの柔らかいソファが置かれている理由、それに何となく最近気づいたけど間違ってはないよねたぶん。
胸元に頬をスリスリと擦りつけ、ついで首に舌を這わせるように舐めてくる感覚がくすぐったい。それとなく何度もされていることだが、いつまで経っても慣れることはなさそうだ。
「……この味……すきぃ」
甘い声を出しながら、顔の位置を俺の顔に重なる部分まで持ってくる。そして情欲に染まった瞳で俺を見つめながら再びキスを……その時だった。ふと視界の隅で大量の蟻が歩くかのようなモノを見た。それはもちろん蟻ではなく、凄い勢いで流れるコメント欄だったのだ。
「……むっ!? むぅ!!」
顔を近づけてくる真白さんの口に手を当ててキスを遮ると、大層不満そうな顔をされたが……俺は空いた手で人差し指をモニターに向けた。真白さんがまさかと思ってモニターに顔を向けると、ハッとするように体勢を元に戻した。
「あ……あはは……まあこういうミスもあるってことで……お疲れさまでしたぁ」
カチッと、今度はちゃんと配信停止をするのだった。
俺が傍に居て酒も少し入ると真白さん……やっぱり少しポンコツになるのかもしれない。とはいえカメラに俺たちは映ってなかったし問題はない、そう思わないと色々と精神が持たなそうだ。
「真白さん、今度はちゃんとチェックしましょうね」
「……はい」
「そんなに落ち込まないでくださいってば」
「うん! ということでたか君、お姉さんは続きを要求します!」
「……はぁ」
注意はしても、結局それに応える俺も甘いってことだ。
宗二に真白さんのサインが書かれた色紙を渡すと飛び跳ねる勢いで喜んでいたのが記憶に新しい。当然のようにどんな風に過ごしているのか聞かれたが、あまり追及するなという真白さんの言葉が効いているのかそこまでだった。
あぁそれと、宗二も本格的に配信作業を開始するらしい。安いパソコンと機材を親父さんが用意してくれたようだ。
「宗二の親父さん、あれで甘いからな」
宗二はあまり家族に我儘を言うことがなかったのもあり、それもあって親父さんは頷いたんだろう。
さて、そんなこんなで宗二にそんな変化があってから数日のこと……今日も学校を終えて真白さんが待つ部屋に戻る時、俺が使っていた部屋の前に女の人が居た。
「……今日からここが私の住む家かぁ」
……なるほど、この人がここに引っ越して来た人か。
あまりジロジロ見るのもダメだろうが、一つかなり目を惹く部分があった。それは真白さんには負けるもののかなり大きな胸だ。前まではドキドキしていたのかもしれないけど、真白さんと一緒に過ごしているとそんな気持ちにもならなくなる。
「……?」
「……どうも」
っと、そこで女の人と目が合った。
頭を下げると彼女も同じように頭を下げ、こう口を開くのだった。
「初めまして、今日からこちらに引っ越してきたの。あなたはこの階層に?」
「はい。隣に住んでます」
「あ、そうなの。ならえっと……高宮さん?」
「あ~……工藤です。ちょっと訳アリでして」
「そうなんだ……あ、私も自己紹介しないと!」
女性は俺に向き直り言葉を続けた。
「
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