これが私よその目に焼き付けなさい!
「……あら」
夕飯を終え、これから七十万人を記念しての生配信を急遽行うことになっていたのだが、たか君がソファで横になって眠っていた。
それを見て私は怒ったりすることはもちろんなく、昨日からずっとたか君に甘えてしまったからその疲れが出たのかなと思った。私としてももう少し落ち着きたいところではあるのだけど、傍にたか君が居ると心から甘えてしまう……たか君は嫌そうにしてないし大丈夫よね?
「寝かせてあげましょうか。いつもありがとねたか君♪」
きっと起きたら謝られるだろうけれど、何度も言うけど私は怒るつもりはないし文句を言うこともない。既にたか君にはモデレーターの権限が与えられているため今日から頑張るぞと意気込んでいたけれど……ふふ、やっぱりたか君の寝顔は可愛くてつい舐め回したく……コホンコホン、これじゃあ私が変態みたいじゃないしっかりしなさい真白!!
「……真白……さん……」
「あら……あらあら♪」
時々たか君は寝言で私のことを呼んでくれるけど、夢にまで私が現れるなんて素敵だと思う。夢の中の私はたか君に何をしているのか、何を望んでいるのか、何となく分かるけれど……気になるわね。
時計を見ると配信の時間まで後十五分もある……よし、少したか君を観察してみましょうか!
「……真白さん……柔らかい……ですよ……凄く」
「そう……これがいいのねたか君」
起こさないようにたか君の腕を取り、手の平が胸に触れるように持ってくる。すると僅かな力ではあるが、ムニムニと心地よく揉んでくれた。
「……はぁ♪」
たか君に触れられるだけで胸に溢れるこの愛おしさ、本当にたまらない。かつてはこの大きな胸を嫌に思っていたけど、たか君が大好きと言ってくれた時から私はこの胸が嫌いではなくなった。だからたか君、あなたのためだけに存在している真白のおっぱいを思う存分――
「柔らかいですよ……ほっぺ……」
「……………」
なるほど……頬かい。
一人で突っ走っていたことが恥ずかしくなってしまい、ゆっくりとたか君の手を離した。ただ……ちょっと悔しいので優しくビンタだけしておこう。
「えい」
たか君の顔の前で上体を倒し、胸でビンタするようにたか君の頬に触れた。くすぐったそうに触れた部分に手を当て、むにゃむにゃと口元を動かすたか君が可愛すぎてもう後数時間は見ていられるわ……でも、でもでもお姉さんはこれから配信をしないとだからまた後でねたか君!!
途中で起きてくるかもしれないけれど、その時はその時で……ふふ、ちょっと一言くらいは喋ってもらってもいいかもしれないわね。
「さてと、それじゃあ配信部屋に行こうっと」
最後にたか君の額にキスをして私は配信部屋へと移動した。
七十万人の記念日……ではあるけれど、別に特別な衣装を用意したわけではなく普通のパジャマだ。相変わらず胸が苦しいのでボタンは開けているけれど……あぁそうそう、今度またブラを買いに行かないといけない。どうもたか君と付き合いだしてからまた大きくなったみたいだから。
「ふふふ~ん♪」
鼻歌を歌いながらパソコンを起動し配信ソフトを立ち上げた。カメラの位置も調節してしっかりと顔が映るように合わせる。
少し予定外のことがあっての顔出し、でもそれもいいかと思える。どれだけ画面の向こうの人が私に焦がれたとしても、私が想うのはたか君だけだ。それは何があっても変わらないし、変わるつもりは毛頭ないのだから。
「昨今は家凸とか色々とあるけれど、お父さんが結構過保護なのもあってこのマンションだし……それに、コスプレ以外でいつも付けているこの黒髪のカツラとかかなりいい仕事してるのよね」
地毛の金髪を隠すために使っている黒のカツラ、正直髪の色が違うだけでもかなり印象が変わってくる。たか君のお友達のようにじっくり見られるならまだしも、外に出た時は色々と考えているからあまり心配する必要はないだろう。
何かあったら……まあその時はその時だ。でも、たか君との生活は絶対に壊させない。何があろうとも守ってみせる、たとえ相手を……落ち着きなさい真白それ以上はダメよ絶対。
「すぅ……はぁ……」
大きく深呼吸をして、私はさっきの眠っていたたか君のことを思い浮かべる。それだけで温かいなものが胸に溢れ、一気に機嫌が良くなってきた。
さて、それじゃあ始めるとしようか!
配信開始のボタンを押し、今日の生配信が始まった。
「こんばんは~。みなさん結構早い段階から待機しててくれたけど大丈夫? でも嬉しいですよありがとうございます」
始まる前から一万人近い人が待機しており、始まったこの瞬間からも更に人が増えて行った。いつもの配信と違って今回は所謂お祝い会でもある。だから人がかなり多いのだろう。
:こんばんは!
:待ってた
:70万人おめ!!
:50000¥ 70万人おめでとうございます!
:やっぱり天使だ可愛い
:美人だなやっぱり
:初見です
:初見です結婚してください
:草
「みなさんどうもです。五万円ありがとう♪ そうだね、七十万人まで長かったような短かったような……でも細かい数字を言うともう七十五万人なんだよね。すぐ八十万人行きそう。顔出しの影響とかあるのかな」
:そりゃあるでしょ
:こんな美人なら誰でも見ようと思う
:しかもおっぱい大きいし
:目の抱擁だわ
:彼氏が憎い
:え? 彼氏が居るんですか!?
「彼氏居ますよ。とっても素敵な彼がね♪」
そう言うと低評価が少し増えて視聴者が若干減った……分かりやすい人たちだ。
それでも減った傍から増えていき、どんどん視聴者は増えていく。どうも急上昇に乗っているらしくそこから見に来てくれる人も居るらしい。
さてと、今日は特に何をするかは決めていない。ゲームはするつもりがなく雑談メインでいいかなと思っていたが……よし、せっかくの七十万人突破記念日だし質問コーナーでもしようかな。
「それじゃ質問コーナーでもしようか。せっかくだしある程度のことなら答えるよ」
:マジか
:何聞こうかな
:スリーサイズは?
:それはダメやろ
「スリーサイズはダメですねぇ。まあでも、カップ数はJとだけ教えておきます」
まあこれくらいは別にどうでもいい情報だ。
正確な数字はたか君だけが知っていてくれればいい。何カップか口にすると流れが速くなったコメント欄に苦笑しつつ、それからも色んな質問に答えていった。際どい質問もそこそこ、答えたくないものはスルーしたり少しだけ触れて次に進む。
:250¥ 年収はいくらですか?
「年収かぁ……結構多いとだけ言っておきます」
:そらそうやろ
:登録者70万人で大体の再生数は50万を超え、100万や200万再生も数多くあるし案件も受けている。そこから察するにかなりの額、たぶんもう俺らの一生分は稼いでいるのでは
:やばすぎぃ!
:うらやま
:配信者って楽だよなぁ
:楽ってのが間違ってんだよなぁ
:それな
一人探偵さんみたいな人が居るが、基本的に普通の人が一生に稼げる額は大体二億くらいと言われている。流石にそこまでまだ稼いではいないが、その内届く額なのも確かだ。まあもう少し稼いで、たか君とのスローライフを送れるくらいになればいいかなって感じだ。
:彼氏さんのことはどれだけ好きなんですか?
「え? もう離れられないくらい好きなんだけど。私も彼が大好きだけど彼も私が大好きで……ああもう毎日が幸せ過ぎてヤバいわ!」
いくら配信と言えどたか君のことになると止まらなくなるのが私の悪いクセかもしれない。羨ましい、妬ましい、彼氏とかふざけるな、相変わらず後半の言葉とそれに似たモノが見られるが……いい加減諦めてほしいなとも思ってしまう。
:もうエッチしましたか?
「当たり前じゃないナメてんの?」
:ぐあああああああああああああ!!
:男前すぎる
:今のカメラ目線かなり効いた
:羨ましすぎるだろおおおおおお!!
:マシロ……やっちまったのか、俺以外のやつと
:カオスすぎる
:世の中にはマシロを好き勝手出来る男が居るってことだ
:……死のう
:一人死にました
:最近エッチしましたか?
「今日はまだだけど昨日はしたね♪」
:死体蹴りはやめていただいて
:さっきのやつ息してるのか?
:30000¥
:無言ニキ怖いっす
それからもある程度のことは答えていった。
そして、小さく音を立ててたか君が入ってきた。私を見るなり申し訳なさそうにしていたが、気にしなくていいよとウインクで応えておく。
今の対応も当然カメラに映っているので彼氏のことかと騒がしくなる。
「私の愛おしい彼氏さん、一言そこからどうぞ!」
「!?!?」
別に答えなくてもいいよ、そんな軽い気持ちだった。でも、たか君は顔を真っ赤にしながらも答えてくれたのだ。
「……大好きですよ真白さん」
思わず、マイクの音量を下げるのも忘れて私は大きな声で叫ぶのだった。
「きゃあああああああああああ♪」
みんな聞いた? これが私の彼氏よ!
鼓膜が死んだかもしれない視聴者のみんなに向け、配信が終わるまでの間ずっと私は惚気るのだった。
うん、最高の記念配信になったわね!
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