やっぱりスイッチが入るお姉さん

「こんばんは~。今日も頑張ってやっていきますよ~」


 自分から提案したこととはいえ、真白さんの囁き攻撃を何とか耐えたその日の夜のことだ。今日もいつものように生配信をする真白さんを見守っているのだが、今日の配信はASMRである。


:今日も脳が犯されるのか……

:楽しみ過ぎる

:早く聴かせてくれ~

:10000¥

:5000¥

:無言ニキ流石っす

:彼氏さんの声が聞きたい


「投げ銭ありがと♪ 何だかんだ生配信でASMRは久しぶりじゃないかなぁ。後彼氏の声はまだダメです。今日も見守ってくれてるけど時期じゃないからねぇ」


 真白さんは俺を見てウインクをした。相変わらず俺もコメント欄をスマホで見ながらだけれど、今の一言でコメント欄がやっぱり加速した。彼氏を出せ、彼氏の声を聴かせろ……中にはやっぱりアンチのようなコメントも見られた。

 真白さんは一瞬眉を吊り上げたが、すぐに表情を戻す。カメラで真白さんの顔は映ってないが、それでも雰囲気は大切ということだろう。


「ちなみに、今日の朝の写真は彼と手を重ねた写真ですねぇ。気づいた人は居た?」


:やっぱりな

:俺は分かってたよ

:見せつけられた気分……でも興奮する

:大丈夫か戻ってこい

:性癖開拓してて草

:ぱっと見若い人の手だよね

:そりゃそうだろ


 まさか今朝の写真のことを視聴者から聞かれる前に話題として出すとは思わず、ついガタンと大きな音を出してしまった。幸いにマイクに拾われるほどのものではなかったが真白さんにはクスクスと笑われた。コメントでどうしたのかというものに対し真白さんは正直に答えるのだった。


「今朝の写真のことを私から話題にするのは予想外だったらしくて、それで彼がビックリして大きな音を立てたの。マイクには拾わなかったけどね、それでちょっと可愛くて笑ってしまったんです」


 だから真白さんあまりその辺のことを実況しないでくださいってば!

 声に出さない俺の言葉が通じたのか、真白さんは顔の前で手を合わせてごめんなさいと俺に伝えてきた。


:なんだそのやり取りは!

:配信中なのにイチャイチャすんな!

:まだそこに彼氏が居ると決まったわけじゃないだろ

:これで居なかったらマシロは一人で何を……

:その方が俺は嬉しい

:つうかマシロに彼氏なんかいらねえよ

:彼氏の存在全否定じゃねえかww


「一言言っておくけどね。今日の彼との出来事とか話すとたぶん大変なことになるからね。それくらい私たちはラブラブしてるんだから♪ ま、このチャンネルでは彼が出てくることはそうそうないと思う。あるとしたらサブチャンネルですね~」


 確かに今日の出来事を話されると俺としても恥ずかしくて死ねる。というかお風呂での出来事かは流石に……いやいや真白さんのことだ。ASMRでも際どい言葉とか吐息をバンバン口に出すので、若干濁しはしても話してしまいそうだ……。

 それからも真白さんはしばらく雑談を続け、ようやく今日のメインであるASMRへと進んだ。視聴者の人たちは本当に心待ちにしていたらしく、コメント欄が大層賑わっていた。


「それじゃあそろそろ始めようかな。今日は少しエッチなメイドさんの耳かき耳舐めで行こうと思います」


 そう言って真白さんはマイクに顔を近づけ、お得意の吐息から入って行った。


「ぅん……はぁ」


 ただの吐息ではなく、若干の悩ましそうな声も入れたことでコメント欄が……盛り上がるのではなくし~んとしていた。たぶんだけど、あまりの威力にコメントする暇がないくらいに圧倒されているんだと思われる。基本的に生配信でASMRをするとコメントが止まるわけではないが、一気に減るのは今まで通りである。


「……はは」


 さっきまで物凄いスピードで動いていたコメント欄がここまでゆっくりになるのはある意味不思議な光景でもあり、俺は少し笑ってしまった。……しかし、せっかくの真白さんのASMR配信なのだが、マイクを通して声が届けられるのは視聴者たちであって俺は違う。イヤホンを持って来ればよかったなとちょっとだけ後悔した。


「ご主人様ぁ……あ、もう少し……もう少しで綺麗になりますから……後少しだけ私に身を委ねてくださいね……ふふ、そうしたら……いっぱいご奉仕してあげます♪」


 まあそれでも、真白さんと同じ部屋で彼女のそのままの声が聴けるのは俺だけなのである。それは他の誰も体験することのできないものであり、真白さんの傍に居る俺だけの特権なのは言うまでもなかった。

 さて、そんな風にして改めて真白さんの傍に居られる喜びを嚙みしめながら俺は配信が終わるのを待っていた。途中で少し音声が乱れてしまうようなトラブルが起きたものの、視聴者の満足できる配信を今日も届けられたようだ。


「……はい。今日はこんな感じですかね。いかがでしたか?」


:天国だった

:最高!

:マシロしか勝たん

:50000¥ ありがとう、彼氏と美味いモノでも食べて

:30000¥ 最高の時間をありがとう

:50000¥

:赤色がやべえ

:ないすぅ!

:こうやって金を稼げるあたり楽な仕事だな

:嫉妬乙

:何か嫌なことでもあったか? 話聞こうか?


 少し口論が始まりそうな気配だったが、今日の配信の感想ですぐに埋め尽くされてしまい流れていく。真白さんも気づいていたみたいだが、やっぱり特に何も気にした様子はなかった。

 何はともあれ今日も無事に終了……?


「それでは今日の配信はこれで終わります。また明日、何もなければ生配信するので見てってください。明日はゲームですよ~では」


 ……あの様子だと真白さん気づいてなかったみたいだな。

 配信が終わり、小さく息を吐きだした真白さんは立ち上がった。そしていつものように俺の元へ歩いてきてダイブしてくる。


「今日もお姉さん頑張ったわたか君」

「そうですね。お疲れさまでした」

「頑張ったわたか君」

「……あぁそういうことですか。よしよし」

「えへへ♪」


 全く、こういう仕草は本当に年下のように見えてしまう。けれどそれもこの人が持つ魅力のようなものだ。どんな顔も、どんな仕草も、その一つ一つにこれでもかと魅力が詰め込まれている。色んな顔を見るたびに夢中にさせられるのだ。


「ねえたか君、今回みたいなタイプのメイド服はどう?」


 そう言って真白さんは俺の前で立ち上がった。

 今回ASMRでメイドの演技をしたことから分かるように、今日の衣装はメイド服である。ただいつもと違うのは胸元を晒すタイプではなく、キッチリとその大きな膨らみが布に包まれている。谷間を見せないことでいつも感じさせるセクシーさを隠している……なんてことにはならなかった。


「……エッチですね」

「うふふ♪」


 しっかりと胸を包んでいるということはつまり、その大きな膨らみを包む丸みがこれでもかとその存在を主張しているということだ。服の上からでも分かる大きな膨らみという表現がよく使われるが、俺の目の前の光景は正にそれだった。

 ……まあ、苦しそうに今にも飛び出してきてしまいそうだが。

 エッチですね、そう言った俺の言葉を聞いた真白さんは優しく俺の手を取り、そのまま自身の胸元へ誘った。肌に優しい素材を使ったと思われる布、それを確かめるように少し力を入れれば指が胸に沈むように隠れていく。


「たか君も最近は遠慮がなくなってきたわね。良い傾向だわ」


 この感触を感じてしまうと誰だってそうなると思います。

 それからしばらく真白さんが満足……この場合は俺が満足するはずなんだが、真白さんが満足するまで揉ませてもらった。少しだけ興奮したように顔を赤くした真白さんに先にベッドに行っててと言われ、俺は寝間着に着替える真白さんを一足早く寝室に向かって待つことに。


「……あぁそうか。明日学校だからいつもより配信早めに終わったのかな」


 いつもより早く配信が終わったことを疑問に思っていたが、どうやらそういうことらしい。


「お待たせたか君」


 メイド服からピンクの可愛らしいパジャマに着替えた真白さん、彼女は待ちきれないと言わんばかりにベッドに腰かけていた俺に抱き着き押し倒す。そのまま唇を塞がれ、すぐに深いキスへと移行した。


「ちゅ……ぅん……はあ……たか君」


 体の位置を変えるように、今度は俺が真白さんを押し倒す形になった。お互いに色々と限界で、俺たちはすぐにもっと激しくお互いを求めるのだった。


 そして、諸々の行為が終わった後の余韻に浸っていた時だった。


「真白さん」

「なあに?」


 いつもよりも更に甘さを感じさせる声、大きく胸を上下させて息をする彼女に俺は……いや、別に今じゃなくてもいいか。俺が真白さんに話そうとしたのは近い内に両親の元に少しばかり帰省しようと思ったことだ。


「どうしたの?」

「……いえ、今はいいです。今は真白さんを――」


 もう少しだけ感じさせてほしい、その言葉に真白さんは嬉しそうに頷いてくれるのだった。

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