本気のASMR?を披露してくれたお姉さん
「……あ~」
「あはは……ごめんねたか君。お姉さんちょっと張り切りすぎちゃったわ」
あれから真白さんとお風呂を済ませ、リビングで冷房の風に当たりながら俺は気の抜けた声を漏らす。そんな俺を見て真白さんが申し訳なさそうにしながらも、先ほどのこと思い出してニヤニヤが抑えられないようだ。
「やっぱりあんな可愛いたか君もいいわねぇ……でも、初夜の荒々しいたか君も素敵だし……きゃっ♪」
「……………」
隣で真白さんが頬に両手を当てていやんいやんと悶えているのだが、さっきのお風呂での出来事が頭に残ってしまいそれどころではなかった。いや、なんというか……本当に俺はもうそう言う意味では大人になってしまったんだなと思ったんだ。
「たか君~? お姉さん、たか君とイチャイチャしたい権利を主張します」
「さっきしたと思いますが」
「足りないもん!」
もんって……まあでも、この場合の足りないは単純に触れ合うだけのイチャイチャをご所望のサインだと分かる。普段はお姉さんって感じなのに、今の言い方に幼さのような可愛らしさを感じてしまった……俺も相当だよな。
隣で期待の眼差しを向けてくる真白さんに向かって腕を伸ばし、肩に回すようにして抱き寄せた。
「……ふふ♪」
揶揄うこともせず、何か言葉を言う事もせず、ただ嬉しそうに俺に身を委ねる真白さんの姿を見ていると……純粋にこうしたかったんだなと思うのだ。自分よりも年上ではあるが体格的には俺の方が大きい。そう考えると、やっぱり俺の腕の中に居る人は尊敬できる人でもあり、守りたいと思う一人の女性なんだと身に染みるよう。
「真白さん」
「……っ!」
さっき散々キスした……それでも、この人と二人っきりだとこうしていたい。もちろんこのキスはこれ以上を望むサインではなく、こうやって真白さんの要望に応える形であると同時に、俺もあなたとイチャイチャしたいですという言葉の代わりだ。
「どうしてこんなにキスって幸せになれるのかしらね」
「きっと好きな人としてるからじゃないですか?」
「そうね……うん、きっとそう。愛してるわたか君」
最後にチュっと、触れ合うだけのキスをして俺たちはゆったりとした時間を過ごすことにした。まだ夕方でもない時間帯、このままゆっくりしているのも暇だと思って俺はとある提案をしてしまった。
「真白さん、ちょっと贅沢な提案をいいですか?」
「贅沢な提案? 何かしら?」
首を傾げる真白さんに、俺がした提案はこれだ。
「……その、非常に恥ずかしいんですけど」
「うんうん。なあに?」
何でも言って、何でもしてあげるから、そんな雰囲気を感じさせる真白さん。
「真白さんはASMR配信が得意……というとおかしいかもしれないですがよくするじゃないですか」
「そうね」
「その……配信とかではなくて、俺だけにしかしない囁きをしてほしいです」
つまり、配信などといった公に出るモノではなく、本当に俺だけにしかしない囁きをしてほしいと提案した。以前に録ったモノは配信に出すようではあったが、俺にしかしない囁きはどんな風になるのか単純に興味があった。
俺の提案を聞いた真白さんは全く考える素振りをすることはなく、すぐに頷いて俺に横になるように促した。
クッションを挟むことで良い位置に俺の頭が置かれ、真白さんが少し体を倒す程度で耳元に顔が来る。後頭部にぷにぷにした感触を感じるが、それもまた幸せな感触ということで。
「今までやっていたことをたか君のために……か、不思議な感覚ね」
「提案する側の俺は恥ずかしいですけどね。でも一度どんな感じになるか気にはなっていたんです。これもまた、真白さんの彼氏故の特権みたいな感じで」
「お姉さんの彼氏だからの特権ね……うん、いい響きだわ♪」
そして、少しばかり後悔してしまう囁きが始まるのだった。
「う~ん……はぁ」
「……っ」
最初はお約束と言わんばかりに吐息からのスタートだ。マイクやソフトの力を借りていなくても、やっぱり真白さんの声は脳に直接入り込んでくる。もちろんそうなるように意識はしてるんだろうけど、やっぱり背中がゾクゾクと震えるようだ。
「耳かきでもないし耳舐めでもないし……ふふ、そうねぇ。何をしようかしら」
台詞でも何でもないのに、どうしていつも以上にゾクゾクするのか分からない。やっぱり耳元で囁かれるとこうなってしまうのかな、まあこんなことをする相手が真白さん以外に居ないので確かめようはないけど。
「たか君、とりあえずお姉さんの欲望をそのまま言わせてもらうわ」
「へ?」
一度息を吸い、はぁっと吐き出して真白さんは話し出した。
「お姉さん、たか君のことが好きよ。愛しているわ……自分の全てを犠牲にしてでもあなたに傍に居てほしい。あなただけが、あなただけがお姉さんの全てなの。あなたが居てくれるだけでお姉さんは幸せなの……あなただけが――」
……真白さん、自分ギブアップよろしいか?
言葉もそうなんだが、感情をこれでもかと乗せられているのでやけに脳内に響くのだ。これは演技でも何でもなく、真白さんが俺に伝えたい言葉をありのままに口にしているのだ。ASMRのように、そこに上乗せするように真白さんの真っ直ぐな気持ちが乗ればそれは凄まじい威力となるのは当然だった。
「たか君、お姉さんの傍にこれからもずっと居てね? たか君が居なくなるなんて耐えられないの……だからお願い。お姉さんをずっと見てて、お姉さんをずっとあなたに縛り付けて。お姉さんをずっと愛して……愛してたか君……っ!」
これだとヤンデレボイスだな……とはツッコミが出来なかった。それくらいに真白さんの雰囲気に吞まれていたからだ。
「お姉さんはたか君だけの女なの。もっとあなたに愛されたい、愛したい、もっともっと、もっともっともっともっと! お互いに片時も離れないくらい、離れられないくらいに……フフ、たか君好きよ、愛してるわ――お互いに死ぬまでずっと」
一瞬だけ見えた真白さんの表情、それは本当に迫真のモノだった。前髪が垂れ下がって片目しか見えなかったが、本当に一瞬見えただけで俺の見間違いかもしれない。真白さん……瞳孔開いてませんでしたか?
もちろん、そんな質問は出来なかった。真白さんの雰囲気がいつも通りに戻ったからである。
「って、これじゃあヤンデレボイスじゃない」
「あはは……確かに」
なんだ、真白さんも自覚があったのか。
「でも……凄い破壊力というか、やっぱりゾクゾク感が半端ないですね」
「あら、そう言ってもらえると嬉しいわね。今のやつ、また録り直して改めてマイクを通して聴いてみる?」
「死んでしまいます」
主に羞恥と更なる脳へのダメージで。
まあでも、あまり世間一般的にはASMRというのは浸透してないのが現状だ。真白さんみたいな配信者であったり、VTuberでもやっている人は居るし……後は声優とかも出してるっけか。
聴いたことがない人は一度聴いてみても良いと思う。ただ耳元で囁くだけだろと甘く見てたら痛い目を見るからな……この脳にゾクゾク来る感覚ってのは実際に体験してみないと分からないから。
「けれど……いいわね。配信向けに視聴者のみんなに聞かせていたASMR、それを好きな人の為だけにするってのは新鮮だわ。ねえたか君、お姉さんからも是非またやらせてほしいの。たか君の反応も可愛いし、何より私自身がクセになりそう♪」
「!?」
っと、俺はどうやら大変な企画を生み出してしまったようだ。
さっきの短時間でもこんなに色んな意味で消耗してるのに、これ以上やられたら本当に頭おかしくなりそうだ。
「色んなシチュエーション……ううん、キャラクターでするのもいいわねぇ」
ちなみに、俺はまだ横になっている状態だ。
真白さんは物は試しだと思ったのか、また俺に耳元に顔を近づけるのだった。
「隆久先輩……こんなにやらしくてエッチな後輩の真白をお仕置きして? 先輩が好きなように、真白の体を無茶苦茶にしてほしいの……ってあれ? たか君? たか君しっかりして!?」
「……………」
無茶苦茶にされたのは俺の頭らしいです真白さん。
真白さんに囁いてもらうこの個人的な提案がこんなことになるとは……これは危険だなと心に刻み込むのだった。
【あとがき】
最近思う事、内容的に朝の八時ではなく夜の八時に投稿した方がいいのでは。
ここまで読んでくださった方にはコンセプトのようなものは分かると思いますが、単純にこういう人が居たらどうなのか、それもネットで有名な配信者が自分だけにその本当の姿を見せてくれるなら……みたいな感じですね。
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