運動するお姉さん
「今日の配信はこれで行こうかしら」
「……おぉ」
スポーツウェアの真白さんが目の前に居た。
前から言っていたように今日の配信はテレビゲームを使った運動の配信である。スポーツウェアということで衣装としては普通と言えば普通なのだが……やっぱり真白さん着るとエッチに見えてしまう。
下はいいとして、上は今にでもはち切れそうな胸がシャツに押し込められていた。
「でも真白さん……運動するのは昼とかの方がいいのでは?」
「お姉さん、今正にそれを実感しているわ……」
運動するということはそれなりに体を動かすことになる。夕飯の後、結構時間を置いたとはいえ胃の中の物が逆流するような事態にならないと良いけど……。
「ま、今日初めてだしゆっくりやるから大丈夫よ」
「そうですね……」
まあそれなら……いいのかな。
配信の準備をするということで配信部屋に向かった真白さん、今日は俺も傍に見守ることにしているがどうなることやら……。
あっとそうそう、もうお互いの親には付き合うことを報告していた。
俺の両親も真白さんの両親も喜んでくれたし、ずっと祝福の言葉を届けてくれていた。フィリアさんに関しては大泣きしていたけれど……あれはまたこっちに来た時にたくさん構い倒されそうだ。
『部屋のことは分かった。こちらで話はしておくから、動かせる物は動かしておきなさい』
それともちろん、真白さんと一緒に住むことも伝えた。これに関してはある程度難色を示されると思ったのだがそんなことはなく、二つ返事で了承された。ただ、母さんとフィリアさんからは口酸っぱく今はまだ避妊は絶対にしなさいと言われた。
それに対し俺が当たり前だろと返す一方、真白さんは子供はいつ出来てもいいですよなんて言う始末……流石に俺が二十歳過ぎて色々と準備が整うまでは勘弁してほしいですはい。
配信部屋に向かうと、ちゃんと体を動かしても大丈夫なように余計なモノは移動してあった。
「こんなものでいいかしらね」
そう言った真白さんはアニメキャラクターのお面を付けていた。確かに体全体を映すようにするので万が一体の動かし方によっては顔が映り込む場合もある。それによる顔バレを防ぐためのアイテムと言ったところか。
「息とか大丈夫ですか?」
「意外と大丈夫そうね」
今日この配信をするのは分かっていたので一応スポーツドリンクを冷やしておいたのだ。それをいつでも飲めるように、テーブルに置いておく。
「ありがとうたか君」
「いえいえ、パートナーですからね」
「むはぁ!! たかく~ん!!」
ギュッと、お約束のハグである。
いつものように胸に抱かれる至高のハグ、だが顔を上げるとアニメキャラクターが変わらない表情で俺を見ているのは軽いホラーだった。
「そろそろ時間ですね」
「そうね。でも少しこのままで」
更に強くギュッと抱きしめ、まるでエネルギーを補給するかのような真白さん。俺の方も逆に真白さんから力をもらえるような錯覚がするけど、それは決して間違いではないだろう。好きな人に抱きしめられる、それだけで頑張れる俺は単純な男なのかもしれないが。
「よし、それじゃあ始めようかしら」
「頑張ってください」
「ええ!」
ゲームを起動させ、パソコンの画面を通して配信のプレビュー画面に問題なく映っていることを確認した。テレビの画面をパソコンに出力するキャプチャーボードも高い奴を買ったらしく、高画質且つ動きもとても滑らかだ。
以上を確認し、真白さんは配信開始ボタンを押すのだった。
「みなさんこんばんは、運動の時間がやってきましたよ~」
:きたああああああああああ
:こんばんは!
:ばんは~!
:開幕おっぱい!
:そのトレーニングウェアえっちすぎん?
:服がエッチなんじゃないマシロがエッチなんだ
:そうだそうだ間違えるんじゃない
:草
その意見には概ね同意である。
中には顔が見えるのではと心配する者、或いは期待する人と様々だがしっかりお面が付けられていることに安堵と落胆のコメントが増えた。
「顔が見えると思った方は残念でした。バッチリ見えません!」
:残念
:てかそのお面怖くね?
:こっち見んな
:無表情怖い
:運動するって言っても太ってなくない?
:おっぱいは太ってるが
:おっぱいは痩せちゃダメだ
いい感じにコメント欄も盛り上がってきたみたいだ。
ある程度人が集まったところで真白さんはようやくゲームを始めた。このゲームは画面に映っているお手本を真似るように体を動かしていく。それぞれの手に握ったコントローラーが動きに反応するというわけだ。
今からやるのはボクシングのパンチをする感じのもので、お手本を真似るように真白さんはパンチを繰り出す。
「ハイ! ハイ! ハイ!」
右、左、右としっかり腰も使うようにパンチをする。その度に服に守られている胸が揺れるのだが……まあ当然コメント欄がかなりの盛り上がりを見せた。いつの間にか視聴者数ももうすぐ一万に届きそうだだ。
「ふぅ……あぁ! ハイ! ……ハイぃ! はぁ!」
っと、あまり運動を普段からしないツケが来たのか少し息が上がっている。たぶん意識はしてないだろうけどマイクを通してその吐息はちゃんと配信に乗っていた。
:エロい
:目も耳も幸せなんだが
:みんな聞いてくれ、手をどれだけ伸ばしても阻まれるんだが
:俺もだどうなってんだ
:草
:変態しかおらん
:ここに来てる時点で同じだろw
:違いない
「待って……キツイ……本当にちょっとキツイんだけど……ちょっと休憩!」
たまらずスタートボタンを押してゲームを中断した真白さんはスポーツドリンクに手を伸ばした。ゴクゴクと飲んで喉の渇きを潤し、大きく息を吸って吐いた。
「すぅ……はぁ!」
ちなみに、今の吐いた息の音はかなり耳に響いたらしくコメント欄が一瞬停止していた。真白さんは俺を見てニヤリと笑い、カメラから抜けるようにこちらに歩いて来た。
真白さんはマイクを付けているので俺が喋ると声が拾われてしまうため、こっちに歩いて来ることに驚きはしても決して声は出さなかった。
「う~ん三十秒休憩!」
「っ!」
パソコンが置かれている机のすぐ横の椅子に俺は座っていたのだが、そんな俺の膝の上に座るように真白さんは腰を下ろした。そのまま大好きホールドをするかのように足も回し、腕も回して抱き着いて来るのだった。
:了解~
:なんかゴソゴソって言ったな
:絶対寝ただろw
:このままやめたりして
:いやでも始まってこれは体力なさすぎでは?
:マシロが配信に生きていることは知ってるから今更
:暑い時期だし体力はあった方がええ
:しっかり休んでおっぱい見せて
:俺もちょっと運動してくるわ
:何の運動か詳しく
:聞いてやるな
:ひでえ
チラッと見たコメントはこんな感じである。
「思いの外疲れるねこれ……でも、いい感じに絞れるかも。ねえ?」
その問いかけは視聴者へか、それとも俺にか……。
少しでも声を出すとマズいこの状況、真白さんは本当に楽しそうに俺へと顔を寄せた。
「ちゅっ」
触れるだけのキスをし、元気が出たわと小さく呟いて画面内に戻った。
「さてと、休憩終わり。頑張ってこう!」
それから真白さんは休憩を入れながらもしっかり配信時間をいっぱい使って体を動かすのだった。カメラの位置を調節し、顔が映らない角度を確認した後お面を外すのだった。俺からはもちろん見えているのだが、普通に髪の毛が額に引っ付いてしまうくらいには汗を掻いていた。
「あっつい……暑いよぉ!」
そう言ってシャツの胸元をパタパタと仰ぐのだが、その度にぷるんぷるんと音を立てるように谷間の柔らかい肉が波を打っている。
:眼福
:眼福
:ふぅ……
:暑そうだね
:水分補給しっかりしてね
:おっぱい
:コメントの流れを台無しにするおっぱい
:おっぱい
:おっぱいばかりじゃねえか!
「あぁでも時にはこんな配信もありかな。結構汗掻くしさ。ていうか冗談抜きでこれ運動になるから興味ある人は買ってもいいかも」
確かに、ゲームと侮ることなかれって具合に運動になりそうだ。機会があったら俺もやってみようかな。
そんなこんなで今日の配信は終わり、タオルで汗を掻きながら真白さんは俺の元へ歩いて来る。もちろん汗を掻いているので抱き着くことはしてこなかった。
「ふぅ、これはまたお風呂入らないとだわ」
「そうですね。でも本当に結構汗掻きましたね」
「うん。予想よりも疲れたし夢中になったわ。プライベートでもやってみようと思うけどたか君も一緒にやらない?」
「是非お付き合いします」
約束よ、そう笑みを浮かべた真白さんは汗を掻いているのもあって本当に色っぽかった。タオルを持ってお風呂に向かった真白さんを見送り、俺は真白さんが上がってくるまで簡単に掃除をするため雑巾を手に持つ。
やっぱりというべきか、床に汗が落ちた跡があった。
「ここも……こっちもか……あぁあっちも」
目を凝らして探すのは大変だけど、これはこれで真白さんを支える一つの仕事と思えば楽しくもある。
「……一緒に過ごす……か」
これから先一緒に過ごしていく、俺は真白さんのパートナーとして彼女を助けていくために何が出来るのか……ゆっくり、それを考えていこう。
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