それはどうしようもないほどに呆気なく
「たか君、気持ちいい?」
「……はい。とっても気持ちいいです」
場所は風呂、汗を流すためにシャワーを浴びようと思った俺だったが、何故か真白さんと一緒に入ることに。今更一緒に風呂に入ることは珍しくもない……というのも変な話だけど、本当にその通りだ。
「ふんふんふ~ん♪」
鼻歌を歌いながらかなり機嫌が良さそうに俺の背中を流してくれている。今後ろを振り向けば素っ裸の真白さんが居るわけだが……それにしても、やっぱり雰囲気がいつもと違う気がする。
何というか……エロいのだ。いや真白さんがいつもエロいのは当然なんだがもっとエロいのだ……ごめん、俺自身どう表現すればいいのか分からないんだ。
「真白さん何かありました?」
「どうして?」
「……えっと」
雰囲気がいつもよりエロいので……なんて言えるわけがない。そう思っているとピタッと真白さんが背中に引っ付いた。見えていないはずなのに背中に押し当てられている胸がどんな風に歪んでいるのかが分かってしまう。というか、見えないからこそ余計に興奮してしまう。
「ねえ……どうしてそう思ったの?」
耳元でそう囁かれると、脳にまでゾクゾクするような感覚が走り抜ける。絶対に真白さんは分かってやっているし、けれども俺の口から直接答えを待っている。こうなってくると絶対に真白さんは俺が答えを言うまで離れてはくれないだろう。
「……はぁ……あぁ」
俺の答えを待ちながら、真白さんは体を擦りつけてくる。悩まし気な声と背中に感じる感触を受け、俺はとうとう我慢できずに答えを口にするのだった。
「いつもより……エロいといいますか」
そう言った瞬間、俺の視界の両側から真っ白な腕が伸びた。そしてそのまま俺の胸の前で交差するように抱きしめられた。ただ体を押し当てるだけではない、そうすることでもっと真白さんの存在を感じてしまう。
「ふふ、ちょっとたか君が居ない間に……ね?」
「……ね、とは?」
「そこは流石に恥ずかしいから言わないわ。まあ、こんなことしてて今更だけど」
後ろでクスッと笑った真白さんはようやく離れてくれて、そのまま背中を流してくれた。ドクンドクンとうるさいくらいに鼓動する心臓の音を誤魔化すように、俺は何度も咳ばらいをしては真白さんにクスクスと笑われてしまった。
そして、今日はこれだけではなかった。
「ねえたか君、お姉さんの体も洗ってくれるかしら?」
「……っ」
俺の前に座った真白さんはタオルすら巻いてはいない。さっきまで俺の背中に押し付けられていた大きな胸を守るモノは何もなく、綺麗すぎるほどの白い肌が目の前に広がる。
「はい、どうぞ」
優しくそう言いながら俺の手に泡立ったタオルを握らせる。俺は意を決するように真白さんの肌にタオルを当てた。……ただ、確かに興奮はあったが実際にこうやって体を洗っていると物凄く気を遣うのだ。この綺麗な肌を傷つけずに優しく洗おう、そう必死になると不思議と興奮が止んでいった。
「……あら?」
そして、そんな俺の雰囲気を感じ取ったのか真白さんが首を傾げた。
「たか君? お姉さんの体に興奮してるわよね?」
「……真白さんの綺麗な肌を傷つけないように気を付けてると冷静になりました」
正直に伝えると真白さんは何とも言えない顔になってガクッと肩を落とす。
「何かしら。言われていることの半分は嬉しくてもう半分が悔しいわ……」
出来るだけ意識しないようにしている俺を褒めてほしい……って言うけど、それは正直無理な話なのだ。
「冷静になった……とは言いますけど、正直ギリギリですよ。だから真白さん、本当に間違いが起きる前に――」
「起こしましょうよ間違い」
……いやでも、腰にタオルを巻いていて本当に助かったと思う。それからも真白さんの体を洗っていくのだが、当然こんな要求もしてくるわけだ。
「ほら、胸もお願いね」
「……了解です」
ここまで来たらもう自棄である。
俺は真白さんのその大きく、そして柔らかな胸にタオルを押し当てた。するとビックリするくらいに形を歪める。それだけ柔らかいことの証なのだが、柔らかさだけではなくしっかりと弾力もあってこちらの指を押し返してくる。
「谷間と下の方もお願い♪」
「……了解です!」
しっかりと谷間に指を入れて洗い、下から持ち上げるようにしてその間も入念に洗っていく。暑い時期になると時々汗疹が出来るとも言ってたっけか。確かにこれだけ隙間がなかったら擦れるだろうし痛そうだ。
「よし、終わり!」
天国でもあり地獄のような時間は終わった。大きく息を吐いた俺を、やっぱり真白さんは若干不満に思いながらもお礼を言ってくれた。さて、そんな風に安心したのがいけなかったのかもしれない。
「変な汗掻いたしもう一度シャワーを――」
そう言って立ち上がった俺だったが、腰に巻くタオルの緩みに気づかなかった。少し腰を動かした瞬間、ひらりと外れてしまうのだった。
俺と真白さんが向き合っているということはつまり、俺の下半身も真白さんには丸見えということである。
「あ……」
「あら~♪」
血の気が引く俺とものすご~く嬉しそうに顔を真っ赤にしてガン見してくる真白さん……とりあえず、何事もなかったかのように俺はシャワーを浴びてそそくさと浴室から出るのだった。
着替えてリビングで待っていると、真白さんもすぐに戻ってきた。そしてソファの横に座る俺の隣に腰を下ろしてぴったりと寄り添ってくる。
「なによもう! しっかりお姉さんを意識してるじゃない!」
「……っ~」
誰か、俺を殺してくれえええええええええええ!!
「……気持ち悪くありませんでした?」
消え入りそうな声で発した俺に、真白さんは目をぱちぱちとさせた。
「どうして? むしろ嬉しかったけど……実を言うと、あのままたか君が出て行かなかったら完全に手を出してたわお姉さん」
……それは良かったのか残念だったのか、でもこんな人を目の前にしてああならない男は男じゃないと俺は思うぞ。別に誇れることでもないし自慢できることでもないんだが、少なくとも俺はそう思っている。
「……よし」
とはいえ……こうして真白さんが更に積極的になったのなら本当にそのうち食われかねない。というか俺が我慢できないんだこれ以上は。
「……真白さん」
けれど、いつまでも逃げ続けるわけにはいかないか。俺は自分の気持ちを伝えることにした。今抱えている気持ちを、いつか伝えようと思っている気持ちを。
「俺は真白さんが好きです」
そう伝えると、真白さんは一瞬驚いたような顔をしたがすぐに笑みを浮かべた。俺の腕を胸に抱く力が強くなり、真白さんはもっと体を密着させてきた。これは……更に続く俺の言葉を待っているということだろうか。それならと俺は続ける。
「俺にとって真白さんはとても大きな存在です。出会ってからまだそこまで経ってないとは思いますけど、凄く大切な存在になりました。……その、有名なあなたを独占出来ていることに小さな優越感を感じるのも確かです」
「……ふふ、そう」
本当に嬉しそうに真白さんは俺の顔に自身の顔を近づけてきた。少しでも顔を動かせば触れることのできる近さ、真白さんの息遣いが頬に届くそんな距離で、俺は更に言葉を続けるのだった。
「真白さんが俺を想ってくれていることは分かっています。ここまでアプローチされて気づけないはずがない……ですが俺はまだ子供で、真白さんみたいに大人ではありません。将来のこともハッキリしてなくてそれで……えっと」
ヤバい、途中から何を言えばいいのか分からなくなって言葉が纏まっていない。必死に次の言葉を探す俺を見て真白さんは笑う……なんてことはなく、少しだけ申し訳なさそうな顔になって俺を抱きしめた。
「……そこまで悩ませるとは思わなかったわ。ごめんなさいたか君」
「……いえ」
謝る必要なんてない、むしろ謝らなければいけないのは俺では……。
「急ぎ過ぎたのはお姉さんの方かもね……実はね、お姉さんたか君が居ない間一人でシてたの。それでちょっと気持ちが昂っていたのかもしれないわ」
いやぶっちゃけましたね真白さん……思わず鼻水が出そうになったけどどうにか引っ込めた。少しだけ落ち着いたような雰囲気になった真白さんはそのまま俺の腕を抱くように目を閉じた。
そこにある温もりを感じるように、存在を抱きしめるように強く、強く俺の腕を抱きしめてくる。
「……………」
そんな真白さんを見ていると、どうしようもなく自分が情けなく思えてくる。こんなに真っ直ぐに気持ちを伝えてくれるのに俺はずっと足踏みしている。俺は……俺は真白さんが好きだ。
色々と翻弄されることが多いけれど、それでも俺は真白さんと一緒に居られることを望んでいる。それなら……もう答えは出ているじゃないか。子供とか大人とか、そんなことは些細なことでしかない。
俺は……、
「真白さん、好きです」
「ええ、私も大好きよ」
「……付き合ってくれませんか?」
俺の言葉に、真白さんは本当に呆気に取られるように口を開けるのだった。その表情がとても印象的で、可愛くも見えたし言い方を悪くすればちょっと間抜けにも見えてしまった。
唐突な俺の言葉に、真白さんはコクっと小さく頷いた。
「……え? え? たか君!? お姉さんは夢を見ているの!?」
「すみませんこんな情けない告白で……」
「夢じゃない? ……あぁ、目の前が真っ暗に――」
「真白さん!?」
この後、滅茶苦茶介抱した。
【あとがき】
一章終わりみたいなものです。
次回から少しえっちになります(たぶん
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