たか君、覚悟はいい?

 隆久が学校に行ってから時間は経って昼が過ぎた。真白は家でのんびりとしながら動画の編集であったり撮影、企画を考えたりなどしていた。

 何をしようか、どんなことをしようか、新たに視聴者を増やすにはどうすれば、なんてことを考えている。とはいえ配信者にありがちなのだが、世に出す動画全てが万人に受けるわけではない。なので動画を投稿するたびに登録者が減ってり増えたりを繰り返していた。


 とはいえ今のまだ頭打ちの見えない段階では減るよりも増える方が多く、徐々にではあるが確かな事実として増え続けていた。


「……たか君」


 なんて、確かにこれからのことを簡単に考えていたが頭に浮かぶのは隆久のことばかりである。今ちょうど昼なのでお弁当は美味しく食べてくれただろうか、勉強は頑張っているだろうか……女の子と仲良くしていないだろうか。


「ま、心配はいらないか」


 隆久が真白を意識しているのは真白自身が理解している。だからこそ大丈夫なのは分かっているし、万が一隆久にちょっかいを出す女が居たとしても、真白は自分のこともそうだが隆久へ向ける想いに絶対の自信を持っている。だからこそ、何があっても大丈夫だと確信していた。


「夫を信じるのも妻の役目……あぁでも、こうやって会えないのは寂しいわね」


 どんなに朝にイチャイチャしても、キスで心を埋めたとしても隆久が傍に居ないのなら寂しさは募ってしまう。これは本気で隆久の両親と相談し、こちらに住んでもらおうかと本気で考え始めた。

 隆久が一人暮らしに慣れるためにこうして親元から離れているわけだが、既に真白が傍に居る時点であまり意味がないようにも感じる。というかそもそもこのマンションを紹介したのも真白であり、それは隆久は知る由もないことだが……まあ最初から色々と仕組まれていたというわけである。


「どうせ二人の愛の巣になるんだもの、それが遅いか早いかの違いだけよ♪」


 キャッと可愛らしく頬に手を当てた真白だったが、そこでスマホが震えた。誰かと思って手に取ると、映っていた名前は真白にとって馴染みのある名前だった。


「もしもし、どうしたの林檎ちゃん」

『もしもし~。どうもマシロさん』


 相手は林檎、以前に隆久との話で出てきた人物である。真白と似たような感じで人気な彼女だが、真白と違って配信者ではない。リアルの方でちゃんと定職に付いているものの、自身の体が男好きするものであると分かった段階から写真を投稿し始めたのだ。SNSとは別にとあるパパ活サイトのようなものにも登録しており、主な収入源はそちらになるようだ。


『久しぶりにマシロさんの声が聞きたくなったものでして……ご迷惑でした?』

「ううんそんなことないわよ。ちょっとビックリしただけだから」


 お互いに似たようなことをしているのでSNSは相互の関係であり、DMでのやり取りをしたこともあったのでこの連絡先を知っているのはその繋がりだ。


『それなら良かったです。それにしても真白さん、なんか声が元気ですね?』

「あら、分かっちゃうかしら」


 先ほど隆久が居なくて寂しいとは言ったものの、隆久との気持ちの距離が明らかに縮まっていることも分かるので機嫌がすこぶる良かった。


「実は彼との関係が進んだのよ。今朝もキスしちゃったわ♪」

『わ~お、やったじゃないですか!』


 ちなみに、林檎は誰とは知らないが真白に好きな人が居るのを知っている。お互いに顔は知らないのだが、林檎からしても真白の体は自分以上に優れたものだと理解していた。だからこそ、そんな真白に真っ直ぐに求められる男がどんな奴なのか興味がないと言えば嘘になる。


「はぁ……早く帰ってこないかしら」

『マシロさん完全に乙女じゃないですか……』


 いつだって恋する乙女なのよ! とは言わなかった。それから久しぶりの林檎との会話ということでかなり盛り上がった。お互いの近況であったり、しつこい連中に対する愚痴であったりとそれはもう凄かった。

 そんな中、林檎がこんなことを口にするのだった。


『マシロさんゲンカクの配信見た? 結構荒れてましたよ』

「そうなの? 全く興味ないから見てないわ」

『ですよね~、分かってましたけど』


 詳しく聞くと、昨日の配信をゲンカクも見ていたらしい。割と本気で真白を狙っていたと思われるゲンカクからしたら見過ごせない内容だったらしい。FPSゲームの大会が開かれる際いつもいつも出てくれないかなと言っているのも、ワンチャン真白が出場して同じチームで組めればいいなとか考えていたとか。


「私のことを気に入ってるみたいな話は知ってるけど、本当に興味がないのよ。というか顔を知らないのにそれって、体が目当てですって言ってるようなものじゃない」

『まあでしょうね。あまり言えないですけど、私のDMにも結構有名な配信者の人から来たりするんですよね』

「あらそうなの?」


 え、あの人が? そんな名前を何人か真白は聞くのだった。


『それじゃあ真白さん、また連絡しますね』

「えぇ、いつでもどうぞ」


 そうして林檎との通話が終わり、まず真白がしたことはパソコンの起動だった。調べるのは林檎が言っていたゲンカクの切り抜き動画である。


「これかしら」


 好みの巨乳配信者に男の気配があると知りキレるゲンカク、そんな題名だ。真白は特にその動画を見ることなく閉じた。少しだけ気になっただけでその内容には一切の興味がなく、勝手に知らないところでキレていろと真白はそう思ったくらいだ。

 パソコンをシャットダウンさせた真白は傍に置いてあるソファに寝転がり、置いてあったぬいぐるみをギュッと胸に抱いてこの場に居ない隆久を想う。


「すぐ帰って来てくれるって言ったし、たか君が帰ってくるまで後三時間くらいね」


 三時間……長いなと真白は思う。

 少し昼寝でもすれば一瞬だろうけれど、それにしても長い。隆久に会えない時間は本当に地獄のようで、自分が如何に隆久の存在に依存しているかが良く分かる。


「帰ってきたらしばらく抱きしめてもらわなくちゃ」


 隆久のあの腕に抱きしめてもらい、その硬い胸元に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。そして頭を撫でてもらったりすればそれだけで真白は幸せになれる。


「……ふふ、たか君好きよ」


 朝もそうだったが、隆久の手で胸に触れてもらうのは幸せだ。当然ムラムラした気持ちにはなるのだが、同時に途轍もないほどの幸せが溢れてくる。隆久が自分の体に夢中になってくれている、そう思うと隆久への愛おしさが止まらなくなるのだ。


「……はぁ……ぅん」


 今何の授業をしているか分からないが、きっと昼ということで眠さの中隆久は戦っているんだろう。そんな隆久のことを思いながら、真白は大きく実った胸へと手を伸ばす。自分でも実感するほどの大きさと柔らかさ、少し力を入れれば軽く電気が走るような感覚があった。


「……たか君……たか君……っ!」


 隆久の名前を口にしながら、真白は己を慰めるのだった。






「……マズったな、ちょっと遅くなっちまった」


 まさか帰り際に先生に仕事を手伝わされるとは思わず、学校を出るのがちょっと遅くなってしまった。何も用がない時に比べて三十分程度ではあるものの、一応真白さんには遅くなると連絡はしておいた。


 駆け足で休みながらの帰宅、かなりの汗を掻いたのでシャワーを浴びようと思った俺だったが、ちょうど自分の部屋に入ろうとした時に真白さんが部屋からのドアから顔を覗かせた。


「あ、ただいまです真白さん」

「おかえりたか君、おいで?」

「……えっと、汗掻いてるのでシャワー浴びてから向かおうかと」

「良いわよ別に。私は気にしないしこっちでお風呂に入るといいわ」

「……分かりました」


 そこまで言われたなら……俺は取り合えず鞄を玄関に置いてスマホだけ持って真白さんの部屋に向かった。


「お邪魔します」


 中に入るとガチャッと鍵の閉まる音が聞こえ、そして振り向いた俺に真白さんはそのまま抱き着いて来た。さっきも言ったようにカッターシャツの上から分かるくらい汗を掻いている。ここまで冷房の涼しい風が届くとはいえ、そんな一瞬のうちに汗がなくなるわけでもない。というかそもそも匂いが大変なことになる。


「……ぺろ」

「ま、真白さん!?」


 汗の雫が滴る首を真白さんは舌を出して舐めてくる。それも一心不乱に、周りが見えていないかのようにだ。


「ちょっとしょっぱいわね」

「汚いですってば!」

「汚くなんかないわ。たか君のだもの」


 何ですかその理屈は……。

 俺は取り合えず、真白さんに抱き着かれたまま何とか風呂まで向かう。というか何だろう、ちょっと真白さんから妙な雰囲気を感じた。なんだかこう脳を痺れさせる匂いというか雰囲気というか、そんな良く分からない何かに首を傾げていた。

 さて、こうして仕方なく真白さんも風呂に付いて来たわけだが……真白さんも俺と同じように服を脱ぎ出した。


「背中、流してあげる♪」


 そう言った真白さんはいつも以上に、エッチな表情をしていた。

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