完全に狩りに来ているお姉さん

 真白さんが配信で色々とはっちゃけた日の翌日の朝、月曜ということで俺はいつも通り学校に向かうことになる。真白さんにキスをされたことに相変わらずドキドキはするも、一度寝たら落ち着いてきた。


「……ふぅ」


 目を開ければ真白さんの寝室の天井だ。カーテンから微妙に差し込む光に眩しさを感じていると、隣から声が掛けられた。


「おはよう、たか君」


 甘い声音、鼓膜を震わせ脳に直接響くかのような声が届いた。

 起きたばっかりだが不思議としっかり頭は覚醒しており、ハッキリした目線で横になっている真白さんを目に留めた。

 体をこちらに向けているからか、とても窮屈そうな胸元に目が行ってしまう。もしも意思があるのならきっと苦しいと言っているに違いない。


「朝から胸を見るなんてたか君はエッチね」

「いやそれは……コホン、おはようございます真白さん」


 見てしまうほどの破壊力だから仕方ないんだ。スッと視線を逸らした俺を真白さんはクスクスと笑い、俺の手を取ってその豊満な胸に押し当てた。


「朝一番のたゆん♪ って感じねこれは」

「……そうですね」


 マズい、この柔らかさに興奮している自分が居るのも確かなのに、こうして真白さんの胸に触れることが当たり前のように感じている自分も居た。もちろん俺から触れることはないけど、こうして真白さんの手によって導かれることはよくあるからだ。


「たか君感想をどうぞ?」

「……柔らかいです」

「うんうん」

「温かいです」

「うんうん」

「……………」

「それで?」


 なんでそんなに嬉しそうに笑ってるんですか真白さん! 揶揄う笑みではなく、心から俺の反応に嬉しそうに笑っているのだ。柔らかい、温かい、そう伝える度に真白さんの顔が笑顔に染まっていった。そして今もまだ、他にはと答えを求めてくる。


「……その……幸せな感触です」

「うんうん」

「……出来ることなら、ずっと触っていたいです」

「いいわよ。たか君が満足するまでこうしててあげる」


 俺の手を掴む力が若干強くなり、更に真白さんの胸に指が沈んでいく。三桁オーバーともなると、やっぱり片手だけではとても収まりきらない大きさだ。指と指の間から柔肉が零れそうになるほどの柔らかさ……これ、天国と地獄だ。


「真白さん、そろそろ起きないと――」

「まだ六時、もう少しゆっくり出来るわよ?」

「……………」

「ふふ、ごめんなさいね。たか君が可愛かったのもあるし、何より私がもっとたか君とイチャイチャしたかったの」


 そう言って真白さんは頬を赤く染めた。そんな姿にドクンと脈打つ心臓、昨日から本当にいつも以上にドキドキしっぱなしだ。真白さんがようやく手を離してくれたのでようやく起き上がれる、そう思ったのだが……えいっと、可愛く声を出した真白さんが俺に抱き着いて来た。


「もう少し、ゆっくりしよ?」


 少し近づけば唇が触れ合ってしまうような近さで、真白さんは俺にそう告げた。俺はその言葉を拒否することは出来ず、俺は真白さんの言葉に頷くのだった。ゆっくりしようとは言っても、そこまでの時間寝ていたわけではない。時間にしては大凡十五分程度といったところだ。けど、その十五分が本当に長く感じたし濃厚だった気がする。


「よし! 今日も一日頑張れるわ!」


 ぎゅっと握り拳を作る真白さんに癒されつつ、今度こそ起き上がることが出来た俺だった。それから朝食を二人で用意し、雑談を交えて楽しく済ませて俺は学校の準備にために自分の部屋に戻った。

 着替えを済ませ、他にも準備を終わらせて戸締りをしていると真白さんがSNSを更新していた。今日も頑張るあなたに癒しを、そんな感じの題名でいつも通りの胸の写真が投稿された。


 さっきまで来ていたパジャマだが、苦しそうに胸を閉じ込めていたボタンが外されていた。というか肩を全部出すように半分抜いでるような形で、胸の部分に手を当てて支えているような状態だ。これは健全な青少年には刺激が強い……なんてこと考えたが、それ以上の目に遭っているなと俺は苦笑した。


「行ってきますっと」


 メッセージで真白さんに行ってくると伝え玄関を出た俺だったが、同時に真白さんも部屋から出てきた。部屋着に着替えた真白さんはそのまま俺の元へ歩いてきて、背中に腕を回すようにして抱き着いてくるのだった。


 何も言わずに抱きしめてくる時、それは基本的に真白さんの寂しい気持ちを表しているのは長い付き合いから分かっている。少しの間離れるだけ……って、これだとまた今日も真白さんの家に泊まることになるのかな。


「……真白さん?」

「……………」


 それから数分、ずっと抱きしめられ続けていた。俺の胸元に顔を埋めているのでその表情は見えず、呼びかけても反応してくれない。どうしようかと困っていると、真白さんは顔を上げた。そして……そのまま背伸びをするように、昨日と同じように俺の唇に真白さんはキスをするのだった。


「いってらっしゃいあなた……なんてね♪」

「……っ」


 おかしい……キスをしたことに一番驚かないといけないのに、やっぱり真白さんが昨日からいつも以上に積極的になっているのは確かみたいだ。

 顔を赤くする俺を見て真白さんは楽しそうに笑いながらも、俺を見つめる視線にはやっぱり優しさが込められていた。


「早く帰ってきてね? って言われると困るかもしれないけど……言わせて。たか君が帰ってくるのを待ってるから。出来たら寄り道とかせずに帰って来てくれると嬉しいわ」

「終わったらすぐに帰ります!!」


 よし、寄り道なんてしてる場合じゃねえ終わったらすぐに帰ってこよう。そう伝えると真白さんは嬉しそうに頬を緩めるのだった。そして、少し屈んでほしいと言われたのでそうすると、顔全体に柔らかい感触が広がった。


「今日一日頑張れるおまじない、頑張れ頑張れ♪」






 一日頑張れるおまじない……凄かったな。なんてことを考えながら登校すると、今日は俺よりも早く宗二が学校に来ていた。


「あ、隆久……」

「どうしたよ」


 俺を見た宗二だが、少し魂が抜けたような感じがするのは何故だろう。隣に座って話を聞いてみるとある意味納得するものだった。


「マシロさん……彼氏居んのかなぁ」


 っと、やっぱりこのことだった。ということはつまり、昨日の配信を宗二は見ていたということだ。スマホの画面に映るのは真白さんがさっき投稿した写真、それを見つめながら宗二は言葉を続けた。


「……いやまあ、こんなにスタイル良くて話も上手で、ゲームも上手くて料理も出来る……そんな人を放っておくわけないよなぁ。分かってはいたけど……あ~ちょっと悲しいわ」


 そう呟いたが、すぐにこんなことも口にした。


「まあでもファンはやめないかなぁ。やらしい話だけど、こういう写真は本当に楽しみだし元気が出るんだ色々と。彼氏が居るって明言したわけでもないし……なら俺はずっとマシロさんを応援するだけだ!」

「……そっか」


 昨日の長文を書くような人も居れば、宗二のように純粋に真白さんを応援するファンも居るわけだ。こういう風に真白さんが応援されているのを見るのは俺も一人のファンとして凄く嬉しくなる。


「……うわ、また写真見てるし」


 そんな風にスマホの画面にデカデカと映る胸の写真、チラッと通りかかった女子ががそう呟いた。宗二は真白さんのことでいっぱいなのか気づいてなさそうだが、その女子は変態を見るような顔をしている。

 そういうのはやめた方がいい、だから彼女が出来ないんだよと馬鹿にするような視線だったが、珍しいことにその女子を咎めるように声を掛けたのは新垣だった。


「ほら、さっさと行くよ」

「なによいきなり……って痛いってば」

「私みたいに自分を惨めに感じる前にそういうことはやめな」

「どういうことよ」

「……………」


 そこで新垣さんは俺をチラッと見た。


「……世の中にはね、すっごい美人と付き合いのある男が居るわけよ。んでね、その美人を見て自分はこんなにも子供なのかって気づくの」

「ねえ、さっきから何を言ってるの……?」


 そのまま何かを悟ったような顔で新垣さんはその女子を連れて行くのだった。

 思えば新垣さんもそうだが大井もこんな感じで、あの時俺たちに向けていた視線を一切向けなくなった。どういう心境の変化か気にはなるけど……もしかしたらあの時の出会いが影響していたりするのだろうか。


「……はぁおっぱい」


 取り合えず、呟くのは良いけど小さい声で頼むぞ宗二。近くの席に座る女子がギョッとするようにお前を見ていたからな。

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