今日を切っ掛けにリミッターが外れたお姉さん
「……あ~」
ボーっと、俺はそれこそ昼からずっとそんな風に過ごしていた。少しでも何かを考えようとすると真白さんとのキスを思い出す。俺はこんな風なのに、真白さんと来たらあれから全然変わらなかった。むしろ、俺の様子に確かな手応えを感じたかのようにガッツポーズをするほどだった。
「……………」
あれから時間は経ってついさっき夕飯は済ませた。別にこんな状態になったからといって真白さんと話が出来なくなったとかそんなことはなく、しっかりといつものように受け答えは出来た。
そして今、今日の配信のために着替えをしている真白さん……今日はチャイナ服って言ってたかな。しばらく待っていると真白さんが再び姿を見せた。
「お待たせ」
「……おぉ」
チャイナ服だ……語彙力がアレで済まない、素直に見惚れてしまった。
水色を基調としたチャイナ服だが……ロングではなくミニの方だ。胸に関しては当然のように開いた部分から上乳が見えるタイプのもので、足に関しては短いのもあるがスリットからかなり際どい部分が見えている。
「……エロいですね」
「ふふ、そう思ってもらえると嬉しいわ」
素直にエロかった。
真白さんは俺の反応を見て満足そうに頷き、いつものように配信前の儀式のようなもので俺に抱き着いて来た。
「……はぁ」
隣で大事そうに腕を抱え、その感触を楽しむように深い息を吐く真白さん。そのまましばらく真白さんの好きにさせていると、ついに配信時間がやってきた。
「真白さん、今日は俺も傍で見ていていいですか?」
「! え、ええもちろんよ!」
こうやって実際に配信を傍で見てもいいか、そんな問いかけはあまりしたことがなかったからな。真白さんは一瞬目を大きく開いたが、すぐに力強く頷いてそのまま俺の手を引いて配信部屋まで引っ張って行く。
「俺はここに居ますね」
「うん! ……ありがとねたか君」
最後に小さく、照れながら真白さんは俺にお礼を口にした。俺もここから真白さんを見守りながらスマホでコメント欄を見ることにしよう。出来れば変な人が現れないことを祈りたい。
パソコンを操作し、カメラの具合も確かめ、真白さんは簡単に発声練習をした後に配信開始のボタンを押した。
もうすぐ始まるよ、そう丸っこい可愛い字で書かれた文面が画面に広がり、次から次へと視聴者が集まってくる。何時から始めると告知していたおかげもあるだろうけど一万人くらいは行きそうだ。
俺の視線の先で真白さんは頷き、パソコンを操作して画面が変わった。
「みなさんこんばんは~お待たせしました」
画面いっぱいに広がるのは真白さんチャイナ服姿だ。いつものように首から下を映しており、俺が目を向けたように大きな胸と眩しく覗く足が綺麗に見えている。
:こんばんは!
:チャイナ服だ!
:エッッッッッッ!
:相変わらずデカい
:……ふぅ
:賢者ニキ自重して
:デカすぎんだろ……
相変わらずのコメント欄に安心した。
最初のうちは目に留まるコメントに返事をしながら時間が流れ、真白さんは衣装の披露の為に立ち上がった。その場でゆっくり回転するようにして視聴者の人に全体を見せていた。
「今日はちょっと攻めすぎ? っていつも私のおっぱいを見に来てる人たちばかりだし今更だよね♪」
:それな
:足綺麗だなぁ
:真っ白や
:触りたい
:舐めたい
:おっぱい
:やっぱりおっぱいだよな
「いつも通りで安心したよ。さてと、それじゃあ今日は雑談配信……の前にちょっと告知しとこうかな。明日はASMR動画を上げます。たぶん昼過ぎかな? それくらいにアップロードするので是非聴いてみてね?」
:助かる
:絶対聞くわ
:10000¥
:無言は草
:草
「一万円ありがとうございます♪ いつもみたいな感じだから、ちゃんとヘッドホンとかして聞いてね? 学生の子たちは親に聞かれないように気を付けてね?」
学生の人は……まあ俺や宗二みたいなのが居る時点で今更だよなぁ。大人だけでなく絶対に学生もそれなりの数が居るはずだ。コメントとか見てても何となく分かるくらいだしな。
:焼肉誰と行ったの?
:彼氏?
:裏切ったの?
……っと、いい雰囲気でこのまま進んでいくかと思ったけど、やっぱり昨日のことを追求する人が現れた。やけに長い長文を送ってくる人も居て、一瞬だが真白さんは眉を顰めた。しかし真白さんは俺を見て、クスッと綺麗な笑みを浮かべて画面に向き直った。もちろん今視線の動きは視聴者には見えていない。
「焼肉はね……大切な人と行ったんだよ。本当に楽しかったし、お肉も凄く美味しかった♪」
……全然隠すことなく口にしたな真白さん。大切な人……か、その言葉に凄く心が温かくなったけど、そんな俺に反比例するかようにコメント欄の動きは早くなった。中にはあまり見たくもない酷いことを書いてる人も居るけれど、それは全部名前は同じで一部の人みたいだ。
:やっぱり彼氏なの?
:というかマシロみたいな子に彼氏いない方がおかしいのでは?
:それな
:いやおかしいだろ。俺らから金巻きあげてんだぞ?
:投げ銭は俺らが勝手にしてるもんだろ
:弄んだのかよ訴えるわ
:馬鹿が多いですねぇ……
「彼氏じゃないんだなぁこれが……。ここまで言ってあれだけど、私には彼氏は居ません。残念なことにまだ結婚できそうにないんだよねー」
信じられん、そんなコメントがちょくちょく見られるものの、後半のまだ結婚出来そうにないって言葉があまりに真剣だったせいかほとんどの人が笑っている印象だ。
:これは彼氏居ないな……
:彼氏は居ないけど好きな人くらいは居そう?
:まあプライベートにあまり踏み込むべきじゃねえよ
:俺たちはマシロの胸と動画に癒されている。それでいいじゃん
:クソ女だったかファンやめるわさいなら
:勝手にやめろwwwwww
:ガチ恋怖い……怖いし気持ち悪い
「はいはい喧嘩しないでね。ほら、私ももういい年齢だから結婚に憧れるの。素敵な人と結婚して、素敵な家庭を築いて……そんな夢のような生活に憧れるのよ」
それは本当にそう思ってるんだと感じさせる声音だった。しかも真白さんは俺を見つめてそう言っていた。一応真白さんのモデレーターとしての権限もあるので暴言を吐いていく人はブロックしているが……やっぱりそこまで真白さんに酷いことを言っている人は居ない印象を受ける。
:マシロさんって何歳なの?
「二十一歳だよ? 結婚に憧れる年ですねぇ」
:いや若いなぁ
:俺の職場、その倍の歳までなって結婚してない人そこそこ
:誰か紹介してやれよ
:合コンとか行ってるけど全然ダメらしい
:あ……
:辛い
「あはは、私はそこまでには結婚するよ絶対に! むしろしてみせるから!」
そこで真白さんはあっと何かを思い出したように言葉を続けた。それは冗談気味に口にしたことだろうけど、少なくとも真白さんに向く悪い空気を払拭するほどの話題ではあった。
「胸の写真とか投稿してるから仕方ないとは思うけど、DMで局部の写真を送ってきたり、しつこくオフパコ行こうとかやめてほしいかなぁ。後は君の名前だけだよって婚姻届けの写真まで送ってくる人もいるからね」
:マジで?
:それはやばい
:というか局部の写真のやつ普通に警察に言えば捕まるのでは
:オフパコとか結構送る人居るらしいよね
:女の子なら誰彼構わず送る人間が居る時代やからな
:はえ~すっご
:その行動力を別のことに使えよな
それから真白さんは雑談を続けたけど、思ったよりも空気は良かったと思う。ちょくちょく長文は居たし、投げた金返せって言ってる人居たけどその都度他の人に言い返されている感じだ。
:別に恋愛禁止のアイドルじゃないからなマシロは
:でも……そのおっぱいを独り占めできる男が居るのは嫉妬する
:それな
:羨ましい
:どんな徳を積めばマシロに出会えるんや……
「あはは、むしろ私が前世で徳を積んだ可能性もあるけどね」
その後もしばらく視聴者の人たちと雑談をしてその日の配信は終わった。終了のボタンを押した真白さんは大きくの伸びをして、そのままこちらに歩いてきてしな垂れかかってきた。
「う~あ~疲れたぁ」
「お疲れ様です真白さん」
胸元に顔を埋めて動かなくなった真白さんを子供っぽいなと思いつつ、さっきの配信のことを思い出して心臓をドキドキさせているのは俺だ。きっとこの心臓の鼓動も真白さんには筒抜けかもしれない……でも俺は、この温もりをしばらく手放したいとは思わなかった。
「よし! 充電完了っと。ねえたか君、寝る前にショート撮りたいけどいい?」
「え? あぁはい分かりました」
目の前に立った真白さんに向け、俺は受け取ったスマホを向ける……というかこの辺の行動も板に付いて来たなとしみじみ思うよ本当に。
スマホを構え、撮影を始めた俺の前で真白さんはその大きな胸を両方から抑えたりしてその柔らかさを表現する。十秒ほどの短い動画を撮り終え、真白さんはそれを投稿した。
「チャイナ服からのたゆん……ふふ、ほら全然勢い変わらないね」
「確かに……」
あの放送をした後だというのに、相変わらずえぐい速さで真白さんの投稿にリプやハートが付いていく……うん、やっぱり単純というか何というか……これは本当にあまり心配はしないでいいのかもしれないな。
良かった良かった、そう微笑んでいた俺の両頬をガシっと真白さんが掴んだ。
「真白さん?」
「ねえたか君、一回キスしたわけだし……もう何回したって同じよね?」
真白さん、一周回って何かリミッター外れてませんかね……?
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