とにかくイチャイチャしたいお姉さん

「……ふぅ」


 真白さんと一緒にベッドに入ってからまだそんなに時間は経っていない。真白さんが眠ったのを確認して俺は起き上がってトイレに向かったのだ。寝る前にスッキリしたかったってのもある……風呂からあんなに誘惑されたら仕方ない、誰も俺を攻められる人は居ないはずだたぶん。


「よし、そろそろ戻るか」


 驚くくらいに平常心だ。

 真白さん結構深く寝入っていたし起きているはずはない。そう思って寝室に戻るとやっぱり真白さんは眠っていた。俺の方を向くようにして寝ていたので体が横を向いているわけだが、本当に目の毒と言える姿をしている。


 以前そういうのもあって別々に寝ようと思ってリビングのソファの上で寝たことがあるのだが、その時に思いっきり真白さんを泣かせてしまったのだ。一緒に寝るのが嫌なのって言われて……慰めるのが大変だった。それからどっちかの部屋に泊まった場合は一緒に寝るのが当たり前になったような気がする。


「……ただいま戻りましたよっと」


 なるべく音を立てずにベッドに入ると、待ってましたと言わんばかりに真白さんが腕を掴んできた。抱き着かれるよりはマシではあるのだが……試しに少し離れようと思って腕を動かすと。


「……だ~め♪」

「おう……」


 ギュッと腕を取られてしまいその豊かな胸へと誘われた。簡単に言うと、俺の腕を胸と胸の間に挟むようにして抱かれてしまった。これは完全に逃げられないなと、俺は小さく苦笑するのだった。


「……ふぁ」


 おっと、そうこうしてると丁度良く眠気が襲ってきた。俺は特にその眠気を我慢することはせず、そのまま眠りに就くのだった。


 ふわふわとした感覚の中、俺は一つの光景を垣間見た。

 今よりももっと昔、それこそ小学生の高学年くらいか。今はマンションに住んでいるけど昔はもちろん親の元に居た。休日はともかくとして、平日は学校に行って放課後は遊びに出かけるの繰り返しだった。


『……あれ?』


 そんな時、ふと近くの公園のブランコに腰かける女の人を見かけたんだ。俺より僅かに年上だから中学生くらいの女の人……ただ、その胸部はとても中学生……ましてや高校生でさえも居ないのではというくらいに大きい人だった。


『あら、どうしたの?』


 ジッと見つめてしまったことに恥ずかしさを覚えつつ、声を掛けられたので俺はそのまま近づいていった……けれど、その時の会話を詳しく思い出すことは出来なかった。その女の人は何かに悩んでいて……それで、俺は何て言ったのだろう。


『君は……不思議な子ね。まさか、小学生の子に励まされるなんて思わなかった』


 その女の人は笑って立ち上がり、俺の頭を撫でてくれた。


『ふふ、といっても私もまだ中学生だけどね。そっか、うんそうよね。私のファン第一号になるって言ってくれた君のために頑張ってみようかしら』


 何か楽しみを見出したように笑顔になったその人は本当に綺麗だった。それから何度か会うようになった気がするけど……いつからか会わなくなった。何となく、俺はそれを思い出すことはないと思う。けれど、この断片的であっても覚えている僅かな記憶が何かの道標になるのではないか……俺はそう思っていた。





 チュンチュンと、外から鳥の鳴き声が聞こえて目を覚ます。いつもなら起きてしばらくは頭がボーっとしているものだが、今日に関してはそんなことはなくしっかりと目が覚めた。これ以上ないくらい素晴らしい目覚めである。


「おはよう、たか君」


 目を開けた俺に届く声、隣を見れば真白さんが俺を見つめていた。相変わらず昨日と同じように俺の腕を抱いたままだけど、よくこの体勢でずっと寝れていたなと自身の寝相の良さに感心してしまう。


「おはようございます真白さん」

「うん♪」


 朝から美しい笑顔をありがとうございます。

 時計を見てみると六時半、平日ならもう起き上がる時間だが今日は休日だ。真白さんも起き上がる気配はなく、ずっと俺の腕を抱きしめたままである。


「……真白さん」

「なあに?」


 目が覚めた、とは言ったけどどうやら俺はまだ寝ぼけていたのかもしれない。普段では絶対に言わない言葉がポンポンと口から出てきた。


「なんで真白さんってそんなに綺麗なんですか?」

「……ほへ!?」


 突然のことに驚く真白さんに俺はマシンガンの様に言葉を放ちまくる。

 なんでそんなに可愛いのか、なんでそんなに優しいのか、なんでそんなに俺の日常を幸せで彩ってくれるのか、これからもよろしくお願いしますと伝えた。


「うんうん! よろしくお願いされるけどいきなりどうしたの!? そんなにたか君はお姉さんのことが好きなのかしら好きなのねそうなのね!?」

「それはまあ……はい」

「……すぅ」


 大きく息を吸った真白さん、彼女はバッと起き上がって俺の腰の上に乗った。そして掛け布団を頭の上から被るようにして、そのまま俺を覆い被すようにして倒れ込んできた。


「真白さん!?」

「もうたか君ったらお姉さんをどれだけ嬉しい気持ちにさせるの!? もうこうなったらたっくさんイチャイチャしないと満足できないわ!」


 布団を被っているので当然視界は真っ暗だ。しかも意外と密閉されるので真白さんの匂いが充満している。昨日感じたシャンプーの香り、そして真白さん自体の匂いが合わさって……もう凄まじいコンボ攻撃だった。


「……はぁ♪ これ癖になりそうね」


 布団で閉ざされた狭い世界の中で、真白さんは体全体を俺に擦りつけるようにしてくる。足はガッチリと俺の足を固め、腕は背中に回すようにして思いっきり抱き着いてくる。お腹の辺りが凄まじく幸せな感触があり、首の辺りには真白さんの息遣いがダイレクトに伝わってくる。


「たか君、これ傍から見たら布団の中でモゴモゴする二人……完全にいたしている光景じゃないかしら。現実にしてみるのも大いにありだと思うのよ」

「真白さん!」

「きゃん!?」


 体が覚えだした興奮を何とか抑えつけるように、俺は真白さんの体を両手で思いっきり抱きしめた。可愛い悲鳴を上げた真白さんはそれだけで大人しくなるも、やっぱり腰の辺りはモジモジと動いていた。


「せっかくののんびりできる朝なんですから、こうやってジッとしているのもいいんじゃないでしょうか」


 って俺は一体何を言ってるんだ……。すると真白さんはそれも良いわねと口にして大人しくなった。高校生と成人した女が布団を被って抱きしめ合っているというある意味不思議な光景……ただ、俺と真白さんはある結論に至るのだった。


「真白さん、暑くないですか?」

「暑いわね……出ましょう」


 掛け布団ごと持ち上げるように起き上がった真白さん、そのせいもあってか室内の涼しい風を肌に感じて涼しかった。


「う~ん!」


 相変わらず俺に跨ったまま気持ちよさそうに伸びをする真白さん、当然胸が大きいので隙間から下乳が丸見えである。伸びを終えるとぶるんと音を立てるように大きく胸が揺れた。


「ねえたか君、今日の配信はまた雑談にしようかしら」

「いいんじゃないですか?」

「うるさいのが現れそうだから」


 なるほど、確かに昨日の流れからしてそう言う人は出てきそうだ。ただ、真白さんからは特に変わった雰囲気は感じない。そんな人が現れてもどんとこい、そんな気概を感じさせるほどだ。


「私だけじゃなくて、こういう風に体の写真をSNSにあげている人に共通するんだけど、DMに会おうって言ってくる人が多いのよ」

「……みたいですよね」

「当時中学生の私にも送ってくる人が居たくらいだから。どれだけ女に飢えてんだよ気持ち悪いって送って即ブロックしたこともあったわ」


 それ、恨まれてないといいですけど……まあ相手に対する同情は出来ないな。普通に中学生に手を出したらアウトだろうよその時の大人の人。


「林檎ちゃんとか、凄いオフパコの誘いとか来るらしいのよね。そういうのやめてって書いてるのに送るくらいだから凄い人が居るわけよ」


 林檎ちゃんというのは真白さんと相互をしている人で、同じように胸元の写真などをSNSに投稿していて人気の人だ。俺はそこまで詳しくないが、真白さんはその林檎ちゃんの苦悩を知っているらしい。


「まあ、あの子はあれで楽しんでる節もあるからね。精々私に揶揄われて金を落としていけって高笑いしてたわ」

「……なるほど」


 ネット事情怖いぜマジで……。

 さて、ようやくお互いに起きる気になったのでベッドから降りた。日中は機材の手入れと動画の編集……後撮影出来たらしたいらしい。


「ふふ、今日もよろしくねたか君」

「はい」


 真白さんの頼みに、俺は喜んで頷くのだった。

 

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