攻めに攻めまくるお姉さん
真白さんと食べに行った焼肉は美味しかったし、何より楽しかった。真白さんに言われたように遠慮なくバクバク食べてしまったけど……喜んでいたみたいだしそれは良かったなと思うべきかな。
さて、外から帰ってきたので当然汗を掻いていた。後はもう風呂に入ってゆっくりするだけなのだが……俺はあの時の真白さんの言葉を甘く受け止めていたのかもしれない。
「……………」
「うふふ♪」
浴室の中、腰にタオルを巻いただけの俺の前には同じく前を隠しているだけの真白さんが居た。
『帰ったら一緒にお風呂入ろうね♪』
まさかそのままヌルっと入ってくるとは思わなかった。あまりの自然体に俺が何かを言う前に侵入を許してしまった。しかも前に俺が逆上せて倒れたことを教訓にしたのか少し涼しい風まで流す徹底ぶり……完全に俺の逃げ道を封じてやがる!
「たか君はもうお姉さんから逃げられないわよぉ♪」
「ひえっ……」
まるで今から捕食しようとしている豹のような、或いはサキュバスのような妖艶な雰囲気を漂わせながら真白さんは俺の目の前に腰を下ろした。ただ、どうやら普通に体を洗うようで俺は少し安心した。
「ほらたか君、頭を洗ってあげるわね」
「……はい」
こういう時は大人しくしておくことにしよう。いつぞやと同じくあまり考えないようにするんだ。シャワーで頭を優しく洗われたのはまだ良かったのだが、問題は次の体を洗う時だった。
「……?」
体を洗う時に使う肌に優しいタオルがあるのだが、真白さんは何故かそれを使わなかった。石鹸で泡を立て、それを自分の体……正確には胸元に塗りたくった。あぁなるほど先に自分の体を洗うということですね。
俺は納得し、それなら真白さんにいいようにされる前に自分で体を洗おうと思ったのだが……。
「たか君? お姉さんが洗ってあげるから動かないで」
「え? だって真白さんは今……」
「こうする……のよ!」
正面から抱き着いてきた真白さん、ぼよんと音を立てるように胸元にその巨大な二つの山がぶつかった。そして真白さんは俺の耳元に息を吹きかけるようにしながら体を上下に動かし始めた。
「こ、これは……っ!」
「ふふ♪ よいしょっと……綺麗になあれ、綺麗になあれ♪」
確かに肌と肌が擦れているので実質洗われているのかもしれん、しかしこれは俺の理性まで洗い流されてしまいそうになるのでは……耐えろ、耐えろと必死に頭の中で念じているのにこの人は……!
「ふぅ……はぁ……ほら、我慢しないで。お姉さんに全部任せていいのよ」
まさかの耳攻めコンボだと!?
以前にASMR動画の作成で身近で真白さんの声を聞いたが、風呂ということもあって音が反響するせいかやけに鼓膜を震わせてくる。
「……手強いわねたか君」
「なんでそんな悔しそうなんですか……」
ジトッとした目で見つめてくる真白さんの視線から、どうして私を襲わないのよなんて言葉が聞こえてきそうだ。結局、途中から普通にタオルを使って体を洗うことになった。
「たか君お湯に浸かる?」
「少し浸かろうかなとは思っていますけど」
「そう? それじゃあ私も少し浸かろうかしら」
「おや?」
同時に足を入れて同時に腰を下ろした。お互いに向き合うような体勢になり、俺の視線の先では気持ちよさそうに真白さんが伸びをしていた。ぷかぷかと浮かぶ胸に視線が行きそうになるのを何とか真白さんの顔に固定する……いや、これもこれで恥ずかしいんだけどさ。
「ねえたか君、ちょっと勝負しない?」
「勝負……ですか?」
そう聞き返すと真白さんは頷いて言葉を続けた。
「今から上がるまで、どっちかを照れさせた方が勝ちよ。負けた方は……無難に勝った方の言うことを聞くでどうかしら?」
「……それ、俺に勝ち目あります?」
「うふふ~♪ そこはたか君の頑張り次第よ」
目の前でニコニコとしている真白さん……完全に勝利を確信している顔だ。というかこの状態でその勝負をするんだろう? 俺は既に照れているようなものだし、勝負にならないと思うんだけど。まあでもここまで来てしまったなら別に受けてもいいかもしれない。
「分かりました。やりましょう」
「負けても大丈夫よ。そこまで変なお願いはしないから」
「……そうですか?」
ちょっと信用ならないけど行くぞ俺。真白さんが手を上げて、そして下げたことで勝負が始まった。
「たか君」
「はい……」
「大好きよ!!」
そう言って体を俺に密着させ、足も後ろに回すように抱き着いてきた。形としては俗に言う大好きホールドというやつである。バチャバチャとお湯の跳ねる音を響かせながら、真白さんは俺に抱き着きながら頬をスリスリと擦りつけてくる。
「……真白さん、俺の負けで良いです」
「やったわ♪」
そりゃこうなるよ。
喜ぶ真白さんを後目に俺は小さく溜息を吐いた。満足そうにニコニコと笑みを浮かべる真白さんより先に浴室に向かい、体を拭いてパジャマを着た俺はリビングに向かった。
「……はぁ」
物凄く疲れた気がするのは気のせいじゃないはずだ。
それからボーっとして過ごしていると髪を乾かし終えた真白さんが戻ってきた。相変わらず前のボタンが外されており、開放的な谷間が丸見えだ。
「ふぅ、良いお風呂だったわね」
「……そうですね」
本当に良い笑顔をしていらっしゃる。
そのままソファに座っていた俺の隣に真白さんは座り、その拍子にむわっとシャンプーの良い香りが漂ってきた。そのままスマホを見て何かを確認し、クスッと笑って俺にそれを見せてきた。
画面に映っていたのは真白さんのSNSだ。焼肉を食べに行った時の投稿で誰と食べのかは秘密と書いたものだ。
「リプ凄くない?」
「うわぁ……」
相手は男なのか、彼氏なのかと聞いてくる返事が大量だ。ガチ恋している人なのか物凄い長文を書いてる人も居るし……それに関してはちょっと怖かった。真白さんはそれらのリプを一切を気にすることなく、焼肉美味しかったのでまた行きたいと投稿した。
その瞬間次から次へと来るリプ、これまた中に長文を送ってくる人が大量に現れるのだがやっぱり真白さんは気にしない。というか、真白さんのこういう行動も実は珍しくはない。色々と察して楽しんだんですねと素直に言ってくれる人も中には居るくらいだ。
「さてと、ねえたか君。さっきのお願いの件だけど今度にするわね」
「あ、そうですか」
「でも、絶対に忘れないから安心してね♪」
「……はい」
出来れば疲れないものでお願いします。
「……っとそうだ。母さんに電話するんだった」
「お母さまに?」
「はい。この前父さんと話しましたし、母さんとも話をしようと思って。結構寂しがっているみたいなので」
「ふふ、きっと喜ぶと思うわ」
スマホの画面を操作して母さんに電話を掛けると一瞬で出た。
『もしもし?』
「は、早いね母さん」
『息子からの電話だもの当然じゃない!』
……うん、うちの母さんはこんな人です。まあ息子としてはしっかり愛されていることが実感できるので幸せなことではある。
『近くに真白ちゃんも居るの?』
「うん。というかすぐ傍に居るよ」
『あらあら、本当に仲良しなんだから。って、フィリアにも聞いたんだけどね』
どうやらあれから電話で話したみたいだ。
俺は真白さんの声も届くようにとスピーカーにした。すると真白さんが顔を近づけて口を開いた。
「こんばんはお母さま。元気にしていますか?」
『こんばんは真白ちゃん。元気だけれど……偶には息子もそうだし真白ちゃんの顔が見たいわね』
「あはは、それは私もですよ。たか君が夏休みになったら帰ると思いますし、その時に付いていってもいいですか?」
『もちろんよぜひ来てちょうだい』
「はい!」
どうやら実家に付いてくることが今決まったようだ。
それから俺と真白さん、母さんで話題が尽きることなく話し続けた。そんな中、真白さんが話をするのはさっきのことだ。
「お母さま聞いてくださいよ! さっき一緒にたか君とお風呂に入ったんですけど全然誘惑に乗らないんですから!」
『あら、真白ちゃんを前にして凄いじゃない隆久』
「それじゃダメなんですよお母さま! お母さまがもし男だとして、目の前に私が居たらどうしますか!?」
『……きっと飛び掛かるでしょうね』
「ですよね!? それが普通ですよね!?」
一体何の話をしてるんだこの人たちは……。
いつの間にか俺そっちのけで女子だけの世界に入った真白さんから視線を逸らしながら俺は明日のことを考える。明日は通常通り真白さんは夜から配信するみたいだが朝に少し機材の手入れをするとのこと。その後に投稿用のASMR動画の編集と……何か手伝わせてもらうとするか俺も。
「ふわぁ」
大きな欠伸を一つ、少し眠くなってきたな。
『真白ちゃん、これからも隆久をお願いね』
「任せてください! 学生の間もそうですが、卒業してからもバッチリ面倒を見させてもらいますので!」
『本当に真白ちゃんは隆久を好きで居てくれるのね、嬉しいわ凄く』
「はい! ずっと大好きですから!」
そして、すぐに眠気が吹き飛んでしまうのも仕方がない事なのだ。傍でこんな会話をされてしまったら誰だってそうなるはずだ。
それからしばらく話し込んだ真白さんだったが、そろそろ夜も遅いということで通話を終えた。俺も最後に軽くおやすみと伝えて切るのだった。
「ふぅ、眠くなってきたねぇ。たか君大欠伸してたし」
「あはは……流石に疲れたかもしれませんね」
「気持ちは分かるよ凄く。それじゃあ寝よっか」
「はい」
次の日が休みの日だとしても夜更かしはしない、それが真白さんなのである。真白さんに連れられて寝室に向かい、一緒にベッドに入ると真白さんはすぐに寝息を立て始めた。
「……はっ!?」
っと、そこで俺は気づく。
こうして自然と一緒に寝ることに疑問を抱かなくなってしまったのもある意味、真白さんに染まってきた証なのかもしれないと。
「……この」
ツンツンと頬を突くと、真白さんはふへへと笑いながら俺の方へ体を動かし抱き着いてくる。少し暑いなと思ったものの冷房が効いているので涼しかった。ちゃんとタイマーが予約されているのを確認し、俺も眠りに就くのだった。
「……おやすみ、たか君」
チュっと、何かが頬に触れたのは……夢なのか、それとも――
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