やっぱりときめいてしまうお姉さん

 隆久の友人である宗二はマシロの大ファンだ。高校生向けにして大胆過ぎる衣装と配信内容の時も多く、言ってしまえば大人向けと言えるマシロなのだが……宗二は初めて見た時からドハマりしていた。


 初めて見た時はSNSで流れてきた画像である。大きな胸を写しただけの写真だったが、その写真にはその投稿者は誰なんだと思わせる魔力のようなものが込められていた。単純に宗二がおっぱい星人なだけなのだが、その時に出会いが今の宗二を形作っていた。


「……くっそ~、俺もクレジットカードが作れれば投げ銭出来るのに!!」


 ……後戻りできないくらいにドップリだった。

 投げ銭出来るか出来ないかの話については一先ず置いておくとして、宗二にとってマシロとの出会いは正に天啓のようなものだった。

 SNSに投稿される胸の写真、時々動画として揉んだりしているものが投稿されるがその度に癒され、偶にはある場所が元気になったり……そしてマシロが動画サイトに投稿している動画にもハマってしまった。


 雑談配信からゲーム配信、料理配信、そして衣装の披露配信等様々なモノがあり基本的にその動画はマシロの胸を見るための動画でもある。そのために胸元を映すワイプに全ての動画に設定してあるのでマシロもそれを狙っているのだろう。

 マシロの配信はエロい、それは誰もが思うことだ。単純にゲームをしていてもリアクションの拍子に揺れる谷間、投げ銭のコメントにもっと胸を見せてほしいと書いてあればカメラに急接近させるサービスもしてくれる。


「……マシロさん本当にいいよなぁ」


 健全な男子高校生には麻薬のような存在だが、それだけ憧れでありアイドルのような存在なのだ。他にもマシロのように活動している配信者も居るが、そのどれも宗二は興味を示さなかった。


 今やっている配信は雑談の生配信だ。何でも今日は夜から予定があるらしく、昼から配信をしたかったとのことだ。やけにいつもより胸元にカメラが寄っているが、それはそれでご褒美である。

 そうやって胸に注目してもいいのだが、やっぱりマシロはトークが上手だ。だから話を面白いので楽しんで聴いていられる。


『谷間を見せてください……もうエッチだなぁ君たちは』


 誰がコメントしたのか知らないがナイスだと宗二はガッツポーズをする。画面の向こうでマシロが少し体を傾け、グレーのパーカーの胸元を指で伸ばすようにその豊満な胸の谷間を見せてくれた。別に普段の衣装でも谷間はバッチリ見えているが、こうやって普通にしていると見えない服装から逆に見せてくれるのもそれはそれでいつもと違う感じがしてご褒美だった。


「隆久のやつ見てるかな」


 同じマシロのファンである同士の名前を呟く。

 最近は金髪巨乳美女と良い仲ではないのか、そんな噂で友情にヒビが入りかけたが宗二はすぐに立ち直った。羨ましい、非常に殺したいくらいに羨ましいが、友人が素敵な女性に巡り合えたのだとしたらそれは喜ぶべきことなのだから。


「巨乳美女かぁ……くそ、羨ましい!!」


 マシロも巨乳であるため、やっぱり宗二の好みもそれなんだろう。

 さて、こうして楽しく幸せな気分でマシロの配信を見ているのだが、一つだけ最近宗二は気になっていることがある。それはクラスメイトで以前ちょっかいを掛けてきた大井と新垣の二人だ。


 隆久の金髪巨乳美女目撃事件の日、そこから何故かあの二人が隆久のことを避けるようになったのだ。そうなると基本的に学校では傍に居る宗二にもちょっかいを掛けてくることはなくなったので嬉しいことだが……少し気になった。


 新垣は……どこかちょっかいを出すことが恥ずかしいかのような素振りで、大井はそもそも相手をしたくないと言う風に視線すら合わせることがなくなった。それが本当に宗二にとって謎である。


 だがしかし、そんなものを今考えても仕方ない。


『さてと、それじゃあ次は何を話そうかなぁ』


 宗二は目の前のおっぱいに集中することにしたのだった。







「それじゃあたか君」

「はい、真白さん」


 俺と真白さんはそれぞれジュースの入ったコップを手に持ち、そして合わせるようにして声を上げた。


「かんぱ~い!!」

「かんぱい!」


 そうしてグッと一気飲みするように俺はジュースを喉に通した。


「……ぷはぁ、美味しい!」

「あはは、飲み物で満足しないでしっかり食べてよね? 結構頼んじゃったから」

「分かりました!」


 予定通り、俺と真白さんは焼き肉を食べに来ていた。凄く美味しいと評判のお店でそこそこ値段も高いところなのだが、好きなように食べてと真白さんは言った。メニューを見てこれとこれ、これとこれ、そんな風に真白さんが頼んだ結果かなりの種類の肉が目の前に並んでいる。


 正直、どれも最高に美味しそうだ。ロース、カルビ、タン、……うんやっぱりこういう店に来るとどれもこれも食べたくなる見た目をしていらっしゃる。ただ、レバーだけは食べられない……あの味に慣れる日は果たして来るのだろうか。


「私もたか君もレバーはダメだもんねぇ」

「ですね……たぶん慣れる日は来ないと思います」

「そうね……私もたぶん無理だと思うわ」


 ま、人それぞれってやつだ。

 それから肉を焼いていくのだが、匂いもそうだけどこのジュージューって焼ける音がたまらない。


「あっとそうだ」


 真白さんはスマホを取り出し、焼けていく肉を写真に撮る。


「本日出掛ける予定は焼肉でしたっと。ちなみに二人です、誰かは教えません♪」

「……え、本当にそれで投稿するんですか?」

「もうしちゃったわ♪」


 えっと、大丈夫なのかそれは……。焦る俺と違い、笑顔で愛おしそうに俺を見つめる真白さんだった。気になってしまうけど、真白さんがこうやって笑顔を浮かべてくれているんだ。それなら、対面に座っている俺が渋そうな顔をしているのはダメだ。


「ふふ、それでいいの。さあたか君、お肉が焼けてきたから食べるわよ!」

「……はい、分かりました!」


 よし、今は真白さんとの焼肉を楽しむとしよう。

 俺はカルビ、真白さんはホルモンを記念すべき一口目に選んだ。そして、お互いに口に運びもぐもぐと美味しくいただく。


「美味しいですね」

「えぇ、最高ね♪」


 肉も美味しいし……あぁ白飯も上手くて幸せだ。

 自分でもびっくりするくらいにパクパクと箸が進む。最初の段階でかなりの量の肉が来ていたが、真白さんと話をしながら食べているとまるで消えていくかのようにその量は減って行った。


 飲み物がなくなる度に店員さんを呼んで頼むんだけど、その都度来てくれる男の店員さんは真白さんの胸に必ずと言っていいほど視線を向けてくる。

 店員さんが居なくなると、真白さんはクスクスと笑いながら口を開いた。


「あんな風にジロジロ見るのはやめた方がいいと思うけどね」

「まあ仕方ない気もしますけど」


 テーブルにがっつり胸が乗っかっているからなぁ……そりゃ誰でも見てしまうってものだと思う。意識していなくても、ふと目にしたら数秒は釘付けになる確信が俺にはあった。


「まあでも、こうしてると本当に楽なのよね。ねえたか君、今日も帰ったらまたマッサージをお願いしてもいいかしら」

「あはは……了解です」


 なるほど、また俺は帰ってから理性と戦わないといけないわけですね。天国と地獄の両方を味わうことが決定してしまった瞬間だった。


「ほらたか君、まだお肉はあるから食べてしまいましょう」

「結構膨れて来てますけど……頑張ります!」


 それから数分後、すっかりお腹を押さえてダウンしかけている俺が居た。それでもほぼ食べきったので残すようなことにはならなかったので安心した。真白さんもかなり食べたみたいだけど、その表情はまだ余裕そうだった。とはいえ、これ以上食べようとは流石にならないみたいだけど。


「真白さん、もう帰りますか?」

「そうねぇ……もう少しゆっくりしてもいいけど、家で私はたか君と二人で過ごしたいわ」

「そう言うと思ったので提案してみました」


 っと、少し恥ずかしかったので下を向きながら俺は呟いた。すると、一瞬目を丸くした真白さんは俺の隣に瞬時に移動し、ピトッと腕を抱くように抱き着いた。


「もう、たか君はお姉さんの心をガッツリ掴んでしまったわね♪ 大変、お姉さんもうたか君に捕まってしまったから逃げられないわ」


 スリスリと頬を擦りつけてくるその姿は酒に酔った時の真白さんを彷彿とさせるが当然酒は入っていない。俺はやっぱり、そんな真白さんのことが可愛いなと思ってそのサラサラな髪に触れながら頭を撫でる。すると、真白さんはやっぱり嬉しそうに笑顔を浮かべてくれた。


「お客様、お水は……」


 俺と真白さんを見て、あの真白さんの胸に視線を向けていた店員さんが固まってしまった。こうやって真白さんと二人で出掛けることはよくあるのだが、基本的にこういう視線を向けてくる人は真白さんを狙っている人が居ることもある。会計と一緒に電話番号の掛かれた紙を渡してくることもあるけど、その度に真白さんは店から出た瞬間にびりびりに破り捨てている。


「さてと、帰りましょうか」


 真白さんに頷き、俺たちはレジへと向かう。その最中、やけに顔を真っ赤にした酔っぱらいのおっさんが近づいてきた。


「お、いい姉ちゃんじゃねえかぁ」


 そう言って財布を手に持っていた真白さんに手を伸ばすのだが、その伸びた手を俺は掴んだ。


「あ? なんだてめえは」


 っ……酒臭い。

 まあ、こんなめんどくさそうな輩は相手するだけ無駄だ。真白さんもそれが分かっているのか出来るだけ早く会計を済ませてくれた。おっさんは俺に向かって何かを言おうとしてきたが、真白さんの肩を抱くようにしてすぐに店を出た。


「……めんどくさい客がいるもんだな本当に」

「……………」


 そう呟いた俺だったが、ふと隣を歩く真白さんがボーっとした様子で俺を見ていることに気づいた。よくよく考えれば、こうして肩を抱いて真白さんを引っ張るように歩くのは初めてかもしれない。

 ハッとするように手を離そうとすると、真白さんが離さないでと口にした。


「車のところまでこのまま連れてって……ふふ、今私凄いドキドキしてるわ♪」

「っ!」


 ……ドキドキしているのは、今真白さんの笑顔をかなり近い距離で見た俺もですけどね。


「たか君、また一緒に来ましょうね」

「……はい」


 その時もまた、今日みたいに幸せな時間になるといいな……そう願うのだった。





「たか君たか君」

「なんですか?」

「やっぱり暑いから外に出ると汗を掻くわねお互いに」

「そうですね……背中がちょっと凄いことになってます」

「そうよねそうよね。ということで一緒にお風呂に入りましょうか♪」

「!?」

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