楽しそうに配信ボタンを押すお姉さん

 フィリアさんが帰ってしばらくの間、俺は真白さんにずっと抱き着かれていた。なんでも一時とはいえ真白さんが居るにも関わらずフィリアさんに甘えていたのが悔しかったらしい。


『たか君、お姉さんだけに甘えるのよ。お姉さん、何だってしてあげるから!』

『ん? なんでも?』


 っと、真白さんの言葉に俺は流行っていた返しをしてみたのだが、そこでキランと目を光らせた真白さんは物凄い速さで頷いた。


『そうなんでも、お姉さんはたか君だけの女なの。だから何をされてもお姉さん受け入れちゃうからね? 痛いことは……ちょっと怖いけどたか君のためなら頑張ってみせるわ!』

『しませんから!!』


 真白さんは俺を何だと思っているんだ……本当に俺はそんな趣味はないし、何より嘘であっても真白さんを傷つけるのは嫌だ。だから世の中そういうプレイがあるのは知っているけど、俺は絶対に真白さんにはしない。


『わ、私以外にはするってこと!? ねえたか君聞き捨てならないわよ!?』

『しませんって!! 俺は真白さん一筋です!!』


 ……勢いに任せてではあったが、つい大声で言ってしまった。とはいえ真白さんも声音的には俺を揶揄う意図もあっただろうけど、俺のこの言葉を聞いてしばらく固まっていた。


『……ふへ♪』


 すぐに再起動したけど、こんな風にちょっと気持ちの悪い笑い方がしばらく止まらなくなってしまったのだ。昼食前には治まってくれたけど……ガッチガチに俺を抱きしめて離さなかったからな。片時も……だからトイレも……いや、これは別にわざわざ言うことでもないか。


 これから行われる午後の生配信、そのために真白さんは衣装の準備をしている。今日は特にコスプレをしたりするつもりはないらしく、普段着で生配信を行うとのことだ。

 しばらく待っていると真白さんがリビングに戻ってきた。綺麗な足を存分に見せるズボンはともかくとして、上に着ている薄手の半袖パーカーはこれから夏が始まるからと俺がプレゼントしたものだった。


「それ、早速着てくれたんですね」

「えぇ。せっかくだし視聴者の人たちに自慢してやろうと思ってね♪」


 滅多なことは……言わないと思うけど、そう言ってくれるのはプレゼントした身としては凄く嬉しいことだ。

 恥ずかしい話だが、女性に服のプレゼントはしたことがなかった。なので店員さんに聞きながらではあったけど、これからの夏に合うパーカーを紹介してもらいそれを買ったのだ。


「これを着てると……ふふ、たか君の想いに包まれている気がするわ」


 優しく自分の体を抱くようにしたせいで、大きな胸が歪んで言葉に出来ないエロさを醸し出す。パーカーということで結構体に対して余裕のある大きさだが、やっぱりその胸の膨らみを僅かでさえも隠すことが出来ない。でも布は柔らかいから、どれだけ胸が大きくて締め付けるような苦しさはないはずだ。


「たか君、ちゃんと胸のこととか考えて選んでくれたのよね」

「はい。せっかくプレゼントしたのに苦しいと思われるのは嫌でしたから」


 真白さんはきっとそう言わないとは思うけど、せっかくのプレゼントに気を遣われるのも嫌だった。だからこそ着ていて気持ちがいいもの、尚且つ綺麗な真白さんに似合うモノを選ばせてもらった。


「ありがとねたか君!」

「もがっ!?」


 嬉しそうに両手を広げて抱き着いてきた真白さん、その大きな胸にまた俺の顔は埋まることになった。こうされて改めて気づけたけど、本当に布がすべすべで気持ちがいい。俺の選択は間違ってなかったみたいだ。


「……………」


 それにしても……配信か。本気ではないだろうけどフィリアさんに甘えていたことで真白さんをあんな顔にさせたわけだし、ちょっと今日は俺から提案してみよう。


「真白さん真白さん」

「なあに?」


 俺の問いかけに真白さんは優しく視線を向けてきた。相変わらず俺は真白さんの胸にサンドイッチされている状態だが、俺はこんな提案をしてみた。


「いつぞやみたいに……今日は傍で真白さんを見守りたいです……なんて」


 最後に日和るんじゃないよ隆久!

 俺の言葉に真白さんはポカンとしていたが、すぐに満面の笑みを浮かべて可愛く頷いてくれた。


「うん! 是非そうしましょう! さてと、それじゃあ早速準備しないと!!」


 普段使っている椅子を下げ、以前俺が寝転がったソファを代わりに置いた。一体どういう風にするのか気になったけど、配信が始まるまで秘密らしい。ソファに座った真白さんの胸元を映すように調節し、机の高さも変えていく。そして、ようやく配信の準備が整った。


 後はもう配信ソフトの開始ボタンを押せば、カメラを通じて真白さんの姿がネット上に流れることになる。すると、真白さんが俺を手招きした。俺はそれに応じるように隣に座ると、真白さんが俺の体に手を添えて横に寝かせてくる……え。


「真白さん!?」

「ふふ、それじゃあ開始~♪!」


 一つのクリック音、つまり今真白さんは配信ボタンを押したということだ――俺を膝枕した状態で。


「みなさんこんにちは。今日は少し用事があるから昼からにしたんだけど……かなり人が集まっててビックリしたよ」

「……………」


 これはもし俺が少しでも声を出したりすれば真白さんが使っているマイクはきっと拾ってしまうはずだ……なるほど、この雑談配信の間は常に膝枕をされていなさいということなんだろう。言い出しっぺは俺だけど、真白さんかなり思い切ったことをするなぁと逆に笑ってしまう。


「胸元くらいしか見えないと思うけどこのパーカーどうかな? 誰とは言わないけどプレゼントなんだぁ♪ 今日はそれを着てみました!」


 出た! 真白さんの匂わせ発言! 時々あるけど、やっぱり真白さんが男の影を一切感じさせないのもあって追及する人は居るが特に何も起きることはない。手元にスマホはないし画面を見ることも当然できないので何が書かれているのか俺が見ることは出来ないけど、真白さんの反応を見る限り変なコメントはなさそう……かな?


「うんうん……あ、一万円ありがと♪ 画面いっぱいに広がるおっぱいに色々と元気になります。うふふ♪ もっと元気になってもいいのよ~?」


 そうして胸を少し浮かして落とすようにすると、ぷるんと音を立てるように胸が揺れた。あぁ、こうやってお金を貢ぐ人が増えるんだろうなと思うと俺を含め男って生き物は単純だなと思ってしまう。

 ……画面の向こうの人から見れば決して触れることの出来ない距離だが、俺からすれば文字通り目の前だ。おっぱいがいっぱいである……何言ってんだ俺は。


「え? 今日はいつもよりテンションが高く感じるって? よく気づいたね、今の私は本当にテンション高いよ最高に! なんでかは……教えられないかな♪」


 ちなみに、コメント欄を確かめたりするのに右手が使われているが、残された左手はずっと俺の頭を優しく撫で続けている。もしかしたらバレるかもしれない緊張感と真白さんから与えられる安心感の両方が俺に襲い掛かってくるかのようだ。安心なのに襲い掛かってくるとはこれ如何に。


「谷間を見せてください……もうエッチだなぁ君たちは」


 真白さんは衿の部分を広げるようにして画面いっぱいに谷間を強調した。すると怒涛のように真白さんは読み上げていく。


「二千円ありがと♪ 五千円ありがと♪ 一万円ありがと♪ ってみんなあまり無茶はしないように! 以前生活費削ってますなんて人が居たから絶対にダメよ? マシロとの約束だぞ?」


 それでも真白さんへの投げ銭が途切れることはなかったのだった。


「ゲーム配信に雑談配信……う~ん、お風呂配信とかも良さげ? 流石に映像は出せないけど、音声くらいならいいんじゃないかな?」


 お風呂配信って……別の配信者もやってたなそれ。その人も女性の配信者だったけどただのシャワーの音とかだけなのに、やけに再生回数がどえらいことになっていた気がする。


「あ、みんな絶対に見るって? この場合は聴くになるけど……うんうん、生配信枠で考えておこうかなぁ。楽しみだね凄く」

「……?」


 何だろう、今の最後の部分がまるで語り掛けてくるように聞こえたのは……。

 それからもずっと、俺は配信が終わるまで真白さんに膝枕をされるのだった。途中で眠ってしまったのは真白さんに悪かったけど、全然良かったとニコニコだったのでまあ……良かったのかな?





【あとがき】


フォロー1800と星500ありがとうございます。

みなさんのおかげで毎日、疲れながらも執筆出来ているのだなと感謝しています。


次の目標は星1000を目指して頑張りたいと思います。

半年くらい掛かりそうですけど……(笑)


それではまた次回のお話をお楽しみに!

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る