お母さん相手に本気になるお姉さん
「いきなりどうして来たの?」
「あら、最愛の娘に会いに来るのに理由がいるの?」
リビングで待つ俺に二人の会話が聞こえてくる。昨日の電話からも分かるように俺と真白さんの母親であるフィリアさんは知り合いだ。こうして真白さんと過ごすようになってから何度も顔を合わせている相手でもある。
足音を立ててリビングに現れた女性、真白さんと同じ金色の髪だが、長い真白さんと違いショートカットである。顔立ちもやっぱり真白さんにそっくりで綺麗で、特徴としては優しさを感じさせる丸い目だろうか。後更に言うと……とにかく真白さんを凌駕するほどの大きなお胸様をお持ちである。
「ふふ、休日に寂しく一人で――」
何かを言おうとした矢先、フィリアさんを俺を見て言葉を止めた。
「おはようございますフィリアさん」
立ち上がって頭を下げようとしたその瞬間、フィリアさんが俺に向かって駆け出すのだった。
「た~か~く~ん!!」
「むごっ!?」
ちなみに、フィリアさんは真白さんと違ってかなりの長身だ。だから普通に立っていると俺の頭の位置が丁度フィリアさんの胸の辺りになる。つまり、俺は圧倒的ボリュームの餌食になるというわけだ。
「こうして会うのはひと月振りくらいよねぇ。ふふ、やっぱり電話だけじゃ満足できないわよ~」
間延びするような声、電話で聞いていた通りのものだ。おっとりとした喋り方は真白さん曰くワザとはでなく素であり、このおっとりした雰囲気に真白さんのお父さんは惚れたとのことだ。
「こら年増ババア! たか君を誘惑するんじゃない!」
かなりどぎつい事を言いながら真白さんは俺をフィリアさんから引き離した。年増ババア……かなりキツイ言葉だがフィリアさんは気にした様子はない。ただただ嫉妬した娘の反応を微笑ましく見ているようだ。
「たか君は私の旦那様なんだから!」
「大丈夫よぉ。私も夫一筋だもの、浮気なんて絶対にしないものね~」
「……それは分かってるけど」
フィリアさんはかなりの旦那さん一筋の人だ。決して浮気はせず、そして浮気をするのも許さずをスタンスにしている。旦那さんはかなりのイケメンだが、こちらもフィリアさん一筋の人である。お互いに仲が良くて本当に理想の夫婦って感じだ。
「それにしても、どうしたんですかフィリアさん。さっき真白さんに会いに来たとは言ってましたけど」
俺は真白さんに腕を抱かれた状態でソファに座りそう質問した。するとフィリアさんも真白さんと反対の位置に座って俺の腕を抱いた……あれ~?
「本当に会いに来ただけなの。もう成人しているとはいえ大切な娘に変わりはないからいつも心配してるのよ」
確かに……それが親ってやつだ。うちも父さんが電話してきたように、母さんも同じくらい心配してくれているからなぁ。結局あれから母さんに電話してないし、今日の夜にでも電話することにしよう。
「ねえママ」
「なあに?」
ちなみに、普段真白さんはお母さんであったりお父さん呼びだが……実際に本人を前にするとママやパパに呼び方が変わるのは本人も気づいていない癖である。
「どうしてたか君の腕を抱いているの?」
「どうしてって……たか君が可愛いからよ?」
「そうよねたか君は可愛いわよね! ってちっがーう!」
やっぱりフィリアさんを前にすると真白さんも結構いい意味で子供っぽくなるよね。口に出すのは恥ずかしいけど、そういうところも普段と違うギャップがあって魅力的だと俺は思っている。
「私のたか君を誘惑しないで! その下品な二つの塊を押し当てるのをやめい!!」
「……真白、自分のおっぱいを見てからモノを言いなさいよぉ」
そう言われ真白さんはぐぬぬと唸る。そして俺の頭を胸に抱くようにしてこんなことを口にするのだった。
「たか君は大きいおっぱいが好きだもん! だから私はいいの!」
「あら、それなら私だっていいじゃない。ねえたか君、私の方が真白よりも大きいわよ? ほらほら」
「揺らすなあああああああああああ!!」
……あぁ、もうカオスだこれ。ていうかお世話になっている女性のお母さんに巨乳が好きだとバラされるのはちょっと……いや、別に巨乳が好きというよりは真白さんだから良いのであって……すまない、俺もちょっとパニックになっている。
「ふふ、あぁ本当に楽しいわね。娘とたか君の二人と話をするのは幸せな時間だわ」
「……むぅ」
っと、心からそういう言葉を言われると真白さんとしても強く言えない。フィリアさんは結構人を揶揄うのが好きな人だが、こうやって優しく相手の心を溶かすことも得意なのだ。もちろん、甘い言葉や仕草を向けられる相手は限定されているけれど。
「……飲み物持ってくるわ」
顔を赤くした真白さんは俺から離れて台所に向かった。その様子をフィリアさんは笑いながら眺め、けれどもその瞳には真白さんに対する親子の愛のようなものを感じさせるのだった。
しかし、こうやってフィリアさんと会えるのは俺も嬉しいことだ。姿形は違っていても、その雰囲気はお母さんと思わせるものだ。だからこそ、母さんと同じような安心感をフィリアさんに感じるのも確かである。
「真白さん、嬉しそうですね」
「そうかしらぁ?」
「はい。それに俺も嬉しいですよ。フィリアさんに会うと……なんかこう、母さんみたいに安心するっていうか」
「……………」
ほら、変なこと言うからポカンとさせてしまったじゃないか。いくら知らない仲とはいえこんなことを言われても困るかそりゃそうか。俺はやってしまったと思って頭を下げようとしたが、その心配は杞憂だったらしい。
「たか君……おいで」
「え?」
「おいで、私の胸に飛び込んできなさい」
「……あの?」
「ほら、おいで」
有無を言わせない雰囲気だった。腕を広げて待ち構えるフィリアさん、ここで逃げたらそれこそ逆に怒られそうな雰囲気である。俺はおずおずと近づくと、フィリアさんがクスッと笑って俺の顔を胸元に誘った。
「良い子良い子、
ちなみに咲奈は母さんの名前だ。
しかし……何だろうこれは。真白さんと同じで凄く安心する……ちょっと気を抜いたらすぐに眠ってしまいそうなくらいだ。
「娘も良いけど、やっぱり息子も欲しかったわよねぇ♪」
「……そうなんですか?」
「えぇ、でもその内義理ではあるけど息子が出来そうで楽しみにしてるわ」
っと、フィリアさんがそう言った瞬間真白さんの声が聞こえた。
「た、たか君が……取られた……うぅ……っ!」
「あ、あらあら……」
結局、戻ってきた真白さんに再び俺は拘束されることになった。ママより私のおっぱいにしなさい、そう言われてからずっと真白さんの胸に頬を当てている状態が続いている。天国と地獄……いや、これはどう考えても天国なのだろう。フィリアさんに微笑ましく見つめられていることを除けば……。
「本当に油断も隙も無いわ……たか君を寝取られないように気を付けないと」
「だから私は夫一筋だって言ってるでしょう~!」
どうだか、そう言ってフンと真白さんはフィリアさんから顔を背けた。まあ別に俺と真白さんは付き合っているわけではないので寝取られるって表現は違うんだけど、今は黙っておくことにしよう。
「さてと、今日はこれでお暇させてもらいましょうか」
「帰れ帰れ!」
真白さん……でも、やっぱりフィリアさんは笑っていた。真白さんも本心から言っているわけではなく、寂しい気持ちはもちろんあるんだと思う。
真白さんと一緒にフィリアさんを見送るために玄関へ向かった。
「それじゃあね真白、お仕事頑張って。それからたか君、これからも真白を支えてくれると嬉しいわ」
「はい、俺に出来ることなら喜んでさせていただきます」
頼むわね、そう言ってフィリアさんは出て行くのだった。突然のことで嵐のような時間だったけど、やっぱり楽しかったな。
「……静かになったわね。でも、少し寂しいかも」
それをフィリアさんに直接伝えればいいのだが……きっと嬉しくなってフィリアさんこれでもかってくらい真白さんを可愛がるんだろうなぁ。一度そんな光景を見たことあるけど本当に仲の良さが伝わってくるくらいだから。何故か真白さんのお父さんが鼻血を出していたのは良く分からなかったけれど。
「さてと、それじゃあ昼の配信開始までのんびりしましょうたか君」
「そうですね。何かやりますか?」
「たか君と夫婦ごっこしたい!」
「……具体的に何をするんですかそれ」
「何って……ナニでしょ?」
俺が却下したのは言うまでもない。
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