第281話 強烈な殺意
ハルトたちと別れてどれくらいが経ったのか。
5分か、10分か、それともまだ始まったばかりなのか。
騎士団の所属とも思えない黒ずくめの連中を次々と倒しながら、バルブロを軸にサウルとアーロンは戦い続けていた。
数にして、およそ300。
王直属の部隊とも噂されると聞いた第三騎士団は、一般の騎士とは比べられないほどの卓越した技術を持ち合わせ、攻撃の端々からそれを強く意識させられるたびに3人は肝を冷やす。
しかし、ここにきて幸運だと言えるのは、ハルトたちが城内で遭遇した"ヒトモドキ"と思える連中が見当たらないことか。
当然、彼らは知る由もない存在だ。
まさか人の形をした"人ではない何か"と戦うことになるとは露ほども思わず、彼らは第三騎士団を結果的には圧倒していた。
これは、アーロンとサウルの助力があってこその優勢と言えた。
そして200年もの歳月を騎士たちが鍛錬していれば危うかったかもしれない。
戦力として劣ると言わざるを得ないバルブロも、十分に健闘している。
冷静に攻撃を見極め、確実に一撃を当てるその姿は美しさすら感じさせた。
一線を退いた者とはとても思えないほどの巧みな剣捌きは、現役のランクA冒険者の中でも相当の高みに到達した達人だと言えるだろう。
倒してきた騎士は彼よりも若く、戦闘の駆け引きもまだ拙いと思える技術力の相手だったことは、強者を積極的に倒し続けてるふたりのお陰ではあるが、冒険者を引退したバルブロはそこに救われていた。
時間経過すら気にする余裕などない戦闘を繰り広げることしばらくの後、3割ほどの騎士を地面に転がした彼らの視界に映ったのは、3つの闇だった。
「……おいおい……なんだよ、ありゃあ……。
第三騎士団ってのは、あんなもんを抱えてんのか?」
表情を強張らせながら、バルブロは気圧されるように身構えた。
彼は同時に、ハルトたちから聞いた魔王の情報を思い起こしていた。
精神生命体の一種で、闇の権化そのもの。
まさにその言葉を象徴するかのような、眼前に突如現れた3つの闇。
全身こそ曖昧で、辛うじて人の姿を保っているように見えなくもないそれは、その身におぞましい闇の衣を纏った印象を強く受けた。
「……魔王の刺客と見て、間違いないだろうな」
「あぁ、そうだな。
まだ動けるか、バルブロ」
「当たり前だ。
こんなとこで止まれるかよ」
覇気のある声色を耳にしたふたりは、頼もしく思った。
眼前にいるのは3体。
ゆらゆらと揺れながら強い敵意を飛ばす相手に、3人は冷汗が止まらない。
それでも、ここで戦わなければ確実に命が尽きると認識した以上、逃げる選択などできるはずもなかった。
「……そんで、お前らはどうすんだよ?
あいつとお仲間なら一緒にボコるだけだが、そうじゃないならすっこんでてもらえねぇか?」
なるべく穏やかな声色で言葉にするサウル。
第三騎士団は人間以外の何ものでもないし、魔王の駒として命令されただけだとすれば、話し合う余地もまだ残されているかもしれないと判断したようだ。
正直に言えば、両方と同時に相手取って無事で済むとは思えなかった。
それほど強烈な殺意を、どこからともなく眼前に現れた闇どもから感じた。
サウルの言葉は確かに届いてるはず。
だが、多くの団員を倒された彼らからすれば、王国に攻め込んできた悪党と認識されていてもおかしくはない。
ましてや国王からの勅命を忠実に守ってる騎士団なのだとすれば、それがたとえ知らぬ間に魔王の傀儡となっていたとしても"任務を遂行するだけだ"と判断するのが一般的な思考だとも思える。
それでも彼らは、ひどく困惑していた。
明らかに人ではない、そして魔物でもない歪な闇を前に。
禍々しい殺意を振りまく闇の存在は、国の暗部として王国を支える彼らから見ても異常事態としか言いようがなかった。
「……なんだ、あれは……」
ひとりの騎士が心情を吐露するように言葉にした。
それも致し方のない事態だとサウルたちは思いながらも、冷静に騎士たちへ話しかけ始める。
「……あいつは魔王の放った刺客だろうな。
俺たちは王国の中枢に蔓延る闇を討伐しに来たんだよ」
「……そんなこと、信じられると思うのか?」
この中でも士官と思える騎士は、警戒を緩めることなく訊ねた。
これだけのことをしていれば確かにそうだなと思いながらも、アーロンさんは言葉を返した。
「……なら、城内を調べてみればいい。
こんなやつらが仲間たちの前にも現れてる可能性が高いからな」
言葉に詰まる騎士たち。
しかし、確実に言えることがあった。
「あの闇は俺たちに強烈な殺意を向けている。
あんなものがこの世界に存在していいとはとても思えないが、お前らがあいつらを使役してるってんなら全員纏めて相手になってやるが?」
「……」
深く考え込む士官と思われる騎士は、団員に指示を出した。
「……東口に部隊を再編制。
負傷者を回収し、下がらせろ」
男性の命令に小さく頷いた団員たちは、流れるように動き出した。
その姿に騎士の中でも異質な統率力を持っているんだなと3人は感じ、これ以上の敵対行為はしなくて済むかもしれないと考えながらも、眼前からゆっくりと迫る悪意に意識を集中させた。
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