第十章 俺たちの望んだ未来に
第278話 目的を見失うな
石壁を軽く蹴飛ばすと同時に、俺たちは訓練場を駆け抜けて上階へと向かう。
休憩室のような造りの部屋にいた騎士5人を目視すると、サウルさん、アーロンさん、ヴァルトさん、アイナさん、レイラが一撃で無力化させた。
相当重い攻撃を放ったことが分かるほどの強烈な打撃音が耳に届いたが、それ以前に騎士とはとても思えない装いをしていたことに意識が向く。
……黒を基調とした革鎧。
動きやすさを重視した軽装か。
やはり、諜報活動や暗殺を専門に扱うような組織なんだろうな。
ヴェルナさんは先行し、入口に思える扉を強烈に蹴破る。
王城の位置と周囲を確認したレフティさんは、的確に指示を出した。
「このまま真っすぐ!
およそ400メートルです!」
止まることなく一気に駆け抜ける。
俺たちはレフティさんに続き、後方からアイナさんたちも合流した。
しかし、第三騎士団の数が少なすぎるのは気になる。
確かに無力化したのは最小限だし、宿舎にはまだ多数の騎士はいた。
それでも、その数は多く見積もっても20人ほどだった。
東口の扉が視界に映ると、疑問の答えが眼前にあった。
扉を防ぐように配備された黒ずくめの連中。
その数、およそ300。
これは明らかに作為的な配置だ。
「本隊はこっちかよ!」
「別ルートを使います!」
連中と接触する手前でレフティさんは2階に付けられた窓へ向かって跳躍し、突き破りながら城内へ強引に入った。
アイナさんたちは後方から俺たちを追い抜き、躊躇いなく彼女に続いた。
「ぅお!?
マジかよ!?」
「止まるな一条!」
「わかってんよ!!」
身体能力強化魔法を使って一条は跳躍する。
無事に辿り着いたことを見届けると、俺はバルブロさんへ言葉にした。
「俺が連れて行く。
掴まってくれ」
手を差し出すと、彼は口角を上げながら答えた。
「行け。
俺はここでこいつらを押さえる。
このまま放置すれば、必ず面倒なことになるからな」
「それなら、俺らもそうするか」
「だな。
バルブロひとりにゃ任せられねぇからな」
「アーロンさん……サウルさん……」
「悪いな、ハルト。
ほんとはもうちょっと先まで力を貸してやりたかったんだけどな」
「そんなことないよ。
ありがとう、3人とも」
「バルブロは俺とサウルが護りきる。
……カナタを頼むぞ、ハルト」
「あぁ!」
強く答えた俺は、"明鏡止水"を使って瞬時に2階へ移動した。
周囲を確認すると、敵がこちらへと向かっているのが見えた。
いくら城内だからといっても動きが早すぎる。
たまたま居合わせたとは思えないが……。
「なにやってんだ!
お前らも早く来いよ!」
一条の言葉に意識を外へ向けると、3人はすでに臨戦態勢を整えていた。
真下を見ると、敵が城内へ入ってくる様子もないようだ。
これにも違和感を強く覚える。
……連中の目的は一条じゃないのか?
「俺たちはこいつらを押さえる!
片付けて追いかけるから先に行ってろ!」
「け、けどよ!」
「お前の目的を見失うな!!
かまわずに行け!!!」
「――ッ!!
死ぬんじゃねぇぞ!!」
「当たり前だ!!」
既に戦い始めた3人を一瞥し、俺たちはレフティさんの後を追うように続いた。
……追跡する城内の騎士が多すぎる。
これは明らかにおかしい配備としか思えない。
やはり、俺たちと騎士団をぶつけて楽しんでやがるのか。
城内に入ってすぐにある階段から3階へと駆け上がり、そのまま4階へと向かおうと扉を横切った瞬間のことだった。
3階フロアへ繋がる扉をぶち破りながら、一条へ刃が振り下ろされる。
当たる直前、春月で受け止める。
しかしその刹那、違和感を覚えた。
重い。
一般の騎士が持つ腕力じゃない。
魔力による身体能力強化とも違う感覚が腕に伝わる。
……それどころか、おぞましい気配を感じた。
剣を弾き上げるように相手のバランスを崩させ、春月から手を放す。
覇の型"
徒花の効果で後方の連中を巻き込み、10メートルほど纏めて吹き飛ばした。
「そいつらは一般の騎士だぞ!!
本気で"徒花"を打ち込むなんて、なに考えてんだ鳴宮!!」
怒りを見せる一条の言葉を背後から感じながら、眼前に転がる敵を見据える。
「警戒しろ。
こいつら、
これだけ近づかれても気づけないなんて、さすがに想定外だ」
「……ハルトさんには魔力がないのですから、分からなくて当然です。
わたくしも間近に迫るまで気づけないほど巧妙に気配を隠蔽しています」
……隠蔽。
どうりで気配を感じないわけだ。
人としての生命力すら感じさせない連中か。
厄介なことこの上ないのと遭遇したな。
冷静な声色で話すクリスティーネさんの言葉に、俺は内心鳥肌が立っていた。
こんな連中が王城内を闊歩してたなんて想定外だし、何よりもおぞましかった。
警戒する俺の前にレイラが立ち、クリスティーネさんは階段の下から迫る騎士たちへと視線を向けながら言葉にした。
「……行ってください。
わたくしたちは、ここで敵を押さえます」
「……落ち着いたら必ず向かうから、先に行ってて」
「ばあちゃん!?
レイラ!?」
扉側から雪崩れ込むように人型のモノが現れ、レイラは杖術で弾き飛ばした。
困惑の色を隠し切れない一条。
そんなこいつに言うのも酷な話だが、それでも俺たちは立ち止まれない。
お前も内心じゃ分かってるからこそ、そうして戸惑っているんだよな。
……分かるよ。
分かるからこそ、俺は言葉にしなければならない。
「行こう、一条」
「……あぁ」
一瞬見えた一条の表情は、とても悲痛なものだった。
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