第260話 真実を知りたくなった
バルブロさんは驚愕しながら馬車を止めたが、内容が内容だ。
きっとそうなるだろうと思ってたから、それも仕方ない。
実際、この話が真実だと伝えたところで、笑い飛ばす人も多い。
むしろ、聞いた人のほとんどが彼と同じ反応するんじゃないだろうか。
とはいえ、すべてを話すわけにもいかない。
話した内容は、人智を超えた魔王が王国内部にいることと、王都全域を掌握してる可能性が高いこと。
世界中にいる人の魂がほぼすべて魔王の手中に収まっている、なんてことは言えるはずもなく、かなり抑えたもので留めたほうがいいと思えた。
ましてや、掌握された魂が呪いを受けたように記憶を一定期間で失う、などと話しても困惑させるだけだからな。
先にトルサでこの話になっていたら、出発する前に伝えていただろう。
もしも彼が話を聞いて、俺たちから離れるようならそれでいい。
必要以上に迷惑をかけずに済むのなら、こちらとしても心苦しくない。
次第に頭を抱えてしまうバルブロさん。
それも当然だと思える、まるで嘘みたいな本当の話だ。
だが、彼ならばこれが冗談でも作り話でもないことは理解してるはずだ。
そうでもなければ、俺はこの話をするつもりなんてなかったからな。
しばらく時間を挟み、彼は顔をあげながら言葉にした。
「……確か、なんだな?」
「あぁ。
だからこそ俺たちは王城へ向かってる」
「鳴宮、俺たちのことも話していいぞ」
そうしたほうがいいと判断したんだろうが、真っ先に自分から話さないなんて、こいつも随分と成長したもんだな。
ちらりと街門に視線を向けると、兵士たちは近くに集まりながら何かを話しているようだ。
時折こちらへ指を向けてるようだし、あまりここに居続けない方がいいかもしれないな。
「バルブロさん。
俺と一条は、異世界からの召喚者だ。
この場で細かい話をするのは省かせてもらうが、魔王を討伐するために俺たちはここにいる」
「……書籍にもなってる"勇者"サマか……。
まさか子供向けの創作物だと思ってたが……。
ツレは想いを同じくした戦友ってことなんだな」
「言い方はそれぞれあると思うが、最高の仲間たちだよ」
「おい聞いたかサウル!
嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか!」
「気持ちは分かるが、落ち着けヴェルナ」
まさか、そこに反応されるとは思ってなかったが、そういえばこんな話をするのは初めてだったかもしれない。
もっと早くから言っておけば良かったかと思う一方で、言うタイミングなんてかなり限られるから、伝えたくても言葉にはできないだろうな……。
「……まぁ、なんだ……。
言いたいこと聞きたいことは多いけどよ、ひとつだけ聞かせろ」
「なんだ?」
俺は訊ね返すも、聞かれる内容におおよその見当はついてた。
この話には大きな矛盾があるからな。
そこを突っ込まれるだろうとは思ってた。
「なんで魔王が勇者を召喚してんだ?
自分を倒させるために呼んだってのかよ?」
「俺たちを召喚した人物は王都から離れた場所にいる。
魔王は勇者の力を利用して、その人を町ごと消し去るつもりだったんだ。
そのため、本来あるべき場所とは違う王城に俺たちは呼ばれた」
さすがに女神様の話や、リヒテンベルグについての言及は避けるべきか。
今は最低限の情報でも伝えられる程度で留めておくほうが良さそうだ。
「……ハルト君、そろそろ進んだ方がいいかも。
どうなるかは街門に行くまで分からないけど、この場に待機し続けるのはあまり良くないと思う」
「そうだな。
悪いが、決めてもらえるか?」
「……決まってんだろ、そんなの。
王都に行くしかねぇだろうが」
バルブロさんは、馬に軽く鞭を入れて歩かせる。
困惑が頭から離れないようだが、そう簡単に割り切れるものでもない。
時間さえあれば解決する問題だとしても、彼にはそんな余裕すらあげられなさそうで申し訳なく思えた。
しかし、それでも念を押す必要がある。
このまま行けば、最悪の場合は国中を敵に回しかねないからな。
「本当にいいのか?
今ならまだ引き返せるんだぞ?」
「言うな。
王国中が敵に回るかもってんだろ?
ついでにそいつらは魔王に操られてる、もしくは命令に従ってるだけの可能性が高い。
……つまりは、そういうことだろ……」
「あぁ、そうだ。
確かな情報がある。
それは間違いないと断言するよ。
これについての話をするとかなり長くなるし、きっと今度は馬車を止めるだけじゃ済まなくなるかもしれない。
王都で話せる時間があれば、その時に質問してくれ」
「……あぁ、考えとくよ」
状況次第では、まだどうなるかは分からない。
街門にいる王国兵士と一戦を交えれば、街門内部で待機してる者たちを引き寄せるかもしれないからな。
もしもそうなれば、悠長に話をしてる時間なんてないだろう。
トルサの宿屋で王都の地理についても学んだが、俺は初めて歩く。
ここは内部の構造に詳しいアイナさんとレイラに任せた方がいい。
「……ったく。
ようやく分かったぜ、お前らの覚悟を向ける相手を。
どうりで只事じゃない気配を纏ってるわけだ……」
「悪いな、巻き込んで」
本心から思ったんだが、どうやらそうではなかったようだ。
バルブロさんは俺の言葉を強く否定した。
「そうじゃねぇ。
俺が首を突っ込んだだけだ。
今こうしてるのも、俺の選んだ道だ。
そこは間違えんな」
「……ありがとう」
「そいつも不要だ。
俺自身が"真実"を知りたくなった。
時間があれば、すべてを話してもらいたい」
「わかった」
……不思議な人だ。
理解が及ばないような話をしても、それをしっかりと聞いた上で冷静に判断してくれる。
それをはっきりと分かる彼の言動に内心で感謝しつつ、徐々に近づいてきた街門に視線を向けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます