第184話 俺は絶対に赦さない

 ……"闇の壁"、か。

 まさにその言葉通りの場所だな、ここは。


「気色わりぃ……」


 思わず本音がもれる。

 体に纏わりつくようなことはねぇみたいだけど、なんかこう、おぞましさを強く感じた。

 そりゃ、こんな場所に長居したくねぇよな。


「……なんなんだ、ここ……」

「ここは壁の中だが、あまり会話ができない。

 呼吸をすればするほど負担になるんだ。

 悪いが喋らずに付いて来てくれ」

「そんなら走ればいいだろ」

「そうすると体中に闇が纏わりついて、しばらく動けなくなると聞いた。

 ……頼むから、ここではあまり喋らずに進んでもらえないか?」

「わかったわかった。

 お前らしくねぇ弱気だな、おい」


 そういや、俺には何も影響がない、みたいなこと言ってたな。

 まるで闇の世界を思わせるこの場所が鳴宮にとっては厄介な場所なのか?

 ……何も感じない俺には分からねぇが。


 瞬間、全身を照らす太陽みたいな強めの光がこちらに迫ってきた。


「――うぉ!?

 …………壁を、抜けた……のか?」


 さっきまでいた森とまったく同じ景色なのに、明らかな変化を感じた。


「……小鳥のさえずり。

 優しく体をなでる風。

 暖かい光が溢れる森」

「魔物の気配を感じません……。

 こんなにも、穏やかな場所に……なっていたなんて……」


 背中越しにレイラとアイナが驚いてる声を聞きながら、俺は鳴宮に訊ねた。


「おい、鳴宮。

 ここならいいんだろ?

 ハナシ聞かせろよ。

 ……って、おい!?

 お前、大丈夫かよ!?」


 地面に膝をつきながら苦しそうにする鳴宮なんて、想像もしてなかったぞ……。


 そんだけヤバイ場所だってのか?

 お前ほどの男を辛そうにさせるほどの……。


 ……いや、それ以前の話か……。


「……問題ない。

 少し、闇を吸い過ぎた、だけだ」

「俺の……せいだな……。

 悪い、鳴宮……」

「大丈夫だ。

 壁を越える前に説明をしたかったが、俺から話すよりも実際にその目で見てもらったほうがいいと判断したんだ。

 自然と質問が出たのも当然だよ」


 ……そうは言ってもよ、汗だくじゃねぇか……。

 肩から息をしてたし、どんだけ危ない場所だったんだよ、さっきのは……。


「ふたりは平気……なの……か……」


 ……光の壁?

 さっきまで確かに闇の……。

 い、いや、そんなこと、今はどうだっていい。


 ……なん……だよ……それ……。

 ふたりに何が……起こったんだよ……。


「……なんで……アイナとレイラが……半透明・・・に、見えてるんだよ……」

「聞きたい気持ちも分かる。

 だが、彼女たちに時間をあげてほしい。

 いちばん混乱してるのはふたりだからな」

「……いえ、大丈夫ですよ」

「……あたしたちは始めから知った上で・・・・・・・・・、覚悟もしてたから」

「……どう、いう……ことなんだよ……」


 始めから?

 なにを?


 ふたりは、いったい何を隠してんだよ……。


「……カナタ。

 あたしたちはね、200年前・・・・・魔王に滅ぼされたの・・・・・・・・・

「………………は?」


 ……え?

 なに……言って……。


「…………あぁ、そうか。

 かつて魔王と戦ったっていう"英雄"が精霊的な何かに生まれ変わったとか、そういうこと……なん……だよ、な?」

「……カナタが言葉にした"精霊"が、この世界でも絵本に登場するような存在を意味するのであれば、違います。

 言葉通りの意味で私たち、いえ、この世界に住まうすべての人が・・・・・・魔王の手にかかりました」


 ……すべての……人……?

 魔王の手にって……つまり……し、死んだって……こと、なのか?


「い、いやいやいや!?

 冗談キツいぞ、そりゃ!?

 だってふたりは今ここにいんだろが!?

 一緒に旅して、一緒にメシ食って一緒に寝た仲だろうが!!」

「…………一緒には寝てない……」

「……記憶の改ざんは良くないですよ、カナタ……」


 ……それでもよ。

 ……これまで、ずっと……。


「……ずっと一緒に旅……してきた、じゃねぇか……」


 なんでそんな冗談……言うんだよ……。

 ……ぜんぜん面白くねぇよ……。


「一条、俺たちは仕組まれたんだ。

 本来ならこの先にある場所で俺たちは召喚される予定だった。

 なのに、そうさせず強引に割り込んできたやつがいる。

 俺たちがラウヴォラ王国の王城に召喚されたのも、勇者のお前に"闇の壁"を壊させようとしたのも、すべては仕組まれたことだったんだよ」

「……なんでそんなに冷静でいられるんだよ鳴宮!!

 ふたりの話が本当ならサウルやヴェルナだって同じなんだろ!?」

「――そうだ。

 だからこそ、俺は絶対に赦さない。

 命を弄んだクズには、相応の制裁を加える――」

「――ッ」


 ……なんて……おっかねぇ顔してんだ……。


 ……いや、当然か。

 その話が本当じゃなければ、そんなに怒るはずもないよな。

 今まで涼しい顔をしてきたお前でも、赦せるはず、ねぇよな……。


「……俺は……。

 俺は、どうすればいい?

 どうしたらいいんだよ、鳴宮……」

「この先に行こう。

 落ち着いた場所で話をしたいし、ふたりとも合流する予定だからな」


 ふたり?

 サウルとヴェルナか?

 アイナとレイラがさっきの場所を越えられたってことは、ふたりも無事なのか?


「……すべて、この先に行けば、分かるのか?」

「あぁ、すべてを伝えるよ」

「……そうか。

 さっき、壁を越えるには腕輪がいるって話をしたよな?

 ふたりはこっから先に進んでも大丈夫なのか?」

「あくまでも闇の壁を越えるために必要な道具だから問題ない。

 俺たちは3週間以上お前を待ちながら、この先で暮らしてたんだ」


 暮らしてた?

 拠点があるのか。

 なら、そこで話を聞けばいいな。


「ふたりが、いや、4人が無事ならそれでいいさ。

 話せる場所に連れてってくれよ」

「あぁ、わかった」

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