第183話 届かないのかよ
意味わかんねぇ……。
意味わかんねぇぞ!!
「どういうことなんだよ!?
お前がなに言ってるか、分かんねぇよ!
なんでお前が"そっち側"から来んだよ!?
こいつはどう見たって"魔王城の壁"だろうが!!」
「落ち着け、一条。
お前の疑問はもっともだし、その説明もしっかりする。
……でもな――」
――空気が……変わった……。
これまで感じたこともない、冷たく重い感覚……。
呼吸すら……一瞬止められた……。
……これが鳴宮の……本気、なのか?
「お前が"光の魔力"を放とうとするなら、俺は全力で阻止しなければならない。
だから、"勇者の力"をここでは絶対に使おうとするな」
「…………理由は?」
……そう訊ねるだけで、精いっぱいだった。
正直、動くことすらできねぇほど、俺はビビっちまってるのか?
鳴宮がつえぇことは分かってたが、心じゃ絶対負けねぇつもりだった。
俺は"勇者"だから、気持ちで負けたら終わりだと思ってた。
……けど、今の一瞬で
鳴宮との圧倒的な力の差を、思い知らされた……。
完全な格上。
それも、まったく届かないほどの。
姿すら見えないほど遠くに、お前はいるんだな……。
……俺がしてきた努力も、これからしようとする努力も無駄になっちまうのか?
死ぬほど頑張ったところで、こいつには……届かないのかよ……。
「そんなことはない。
俺とお前の差は、経験した時間の差に過ぎない。
正当な流派継承者から14年も武術を真剣に学んだ俺に"勝てない"と感じるのは当たり前だ」
……14年も……。
……お前、そんなガキの頃から武術を習ってたのかよ……。
けど、けどよ!
どっちにしたって……意味ねぇだろうが……。
「……どうやったって……追いつけねぇじゃねぇか……」
「そうじゃない、一条。
お前は今、俺に勝てないと理解したろ?
逆に言えば、"相手との力量差を把握した"ってことになる。
どれだけ離れていても、明確な差が分からずとも、お前は確かに感じ取った。
それは、この世界に飛ばされた頃のお前からすればありえないほどの成長で、言い換えれば一条が確実に強くなってる証拠でもあるんだ」
……確実に、強く?
俺が?
「そのままへこたれていいのか?
俺の涼しい顔を変えるくらい強くなるんだろ?」
「…………だな……。
そうだな!
こんなことでへこんでたまるかよ!!」
「少しは話を聞く気になったか?」
「おうよ!!
今ならお前に勝てそうだぜ!!」
「……それは完全に勘違い。
せっかくいい話をハルト君がしてくれてたのに……」
……おい……。
そいつを何度も潰してきたレイラが言うのかよ……。
……まぁ、いい。
落ち着け……落ち着け……。
「……そんで、どういうことだよ。
勇者の力をここで使えば、どうなるんだ?」
「世界が滅ぶ」
「…………は?」
……なんだって?
いまこいつ、なんて言ったんだ?
世界が、滅ぶ?
なに言ってんだ、お前……。
「そんな顔になるのも当然だ。
ともかく、目の前に見えている"闇の壁"の正体は間違っても魔王城の外壁でもなければ、この手前にあった薄い膜みたいなものも"人を惑わすため"に用意されたわけじゃない。
それを証明するにはこの先に進まなければならないんだが、さっきも言ったようにお前がこの闇に勇者の力、正確に言えば"光の魔力"をわずかでも使えば最悪の効果が発動する仕掛けになってる」
「いやいやいや、待てよ鳴宮!?
俺ぁこの世界を救う勇者だぞ?
その力が世界を滅ぼすとか、意味わかんねぇ!」
「お前が納得するまでその説明もする。
だが、ここに居続けるのはダメなんだよ。
この場所は、例えるなら"死者の世界"に近いと聞いた。
お前は"光の魔力"で護られるが、俺には魔力自体がないんだ。
正直、この場所に長時間滞在すれば良くない影響が出るらしいから、まずはここを離れる必要があるんだよ」
そういえば、鳴宮に魔力がないのは前に聞いたな。
だが、それとこの壁にどういう関係があるんだ?
それにお前……その話を
「聞きたいことも多いだろうが、まずはこの壁を突破したい。
お前は魔力に護られて問題ないが、この中での俺はここ以上に影響が出る。
……あの鳴宮が、俺に頼みごとをした?
そんなにヤバイ場所なのか、ここ……。
「わかった。
ここを越えればいいんだな」
「あぁ、そうだ」
「……あたしたちはここで待ってる。
カナタはハルト君と一緒に先へ進んで」
「は?」
……なに言ってんだ?
今の鳴宮の話、聞いてたのか?
「ここにいれば悪影響が出るって鳴宮から聞いたろ?
こんなとこで待ってるとか、正気なのかよ……」
「……レイラの言うように、私もここで待っています。
私たちにこの壁は越えられないと、本能的に理解しました。
このまま進めば、私たちは体すら維持できなくなるでしょう」
「……マジかよ……。
それこそこんな危ねぇ壁、放置しちゃダメだろ!?」
「落ち着け。
悪影響が出るのは俺も同じだが、彼女たちと比べれば遥かにマシなんだ。
ともあれ、ふたりもここを突破するためのアイテムを持ってる。
この腕輪を身に付けることで、闇の影響を受けずに先へ進めるようになる。
サウルさんとヴェルナさんもこの先にいるから、ふたりも無事に抜けられるよ。
……あとはふたりの気持ちと、"覚悟"次第だ」
……覚悟?
なんのだよ?
意味わかんねぇぞ?
「…………わかった。
あたし、先に進む。
アイナは……どうする?」
「私も進みます。
離れるのは嫌ですし……。
それに、お話もしたいですからね……」
「……そだね。
もう、いい頃合い、だよね?」
「……はい」
さっきから、なに言ってんだよ……。
ぜんっぜんわからねぇぞ……。
「一条」
「……なんだよ」
「お前が納得できるまで説明するが、まずはここを越えたい。
聞きたいことも多いのは分かってるが、今は突破することを優先してほしい」
「…………はぁ、わかったよ。
ちゃんと説明しろよな?」
「あぁ」
「俺にも分かるように話せよな!?」
「当然だ」
いやそこはそのまま返すなよ!?
お前ら俺の扱い、なんかヒドくね!?
……なんて突っ込んだところで疲れるだけか。
まぁ、いいさ。
お前が話すってんならそれでいい。
「そんじゃ、さっさと行こうぜ!」
この先に待ってるのが何か、俺には分からねぇ。
けどよ、俺はお前の生き方に共感はできなくても、その強さには憧れてんだ。
なんか覚悟みたいなもんをお前が背負ってるのも分かるつもりだし、あとで説明するってんなら俺はそれを信じて進むだけだ。
……ものすげぇ悲しい顔をした嫁ふたりにも聞きたいところだが、いま訊ねたとしても答えてはくれねぇだろうな。
なに抱えてるのか分かんねぇけどよ。
俺に話せないんじゃなくて、"話したくなかった"んだろ?
それくらいは俺にだって理解できるつもりだよ。
なら、そいつも含めて、話せる時が来るのを俺は待つだけだ。
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