第163話 想像してた冒険者像に

 翌朝、俺たちは冒険者ギルドに向かった。

 商業ギルドのサブマスターを務めるカルロッテさんから情報をある程度得て、これ以上セーデルホルムでは手に入らないだろうと思っていたこともあって、ダメもとに近い行動ではあるが。


 予想していた通り"西の果て"についての情報は、商業ギルドで聞いた内容とほぼ同等の噂話程度の曖昧なものばかりだったが、"迷いの森"の方は少し知ることができた。


 ギルドの受付業務に就く女性から聞いた話をまとめると、やはりあの森には何かあると思えてならない現象が起きるようだ。


 どうやら人を惑わす何らかの影響を受けると言われてるらしい。

 当然、噂程度の曖昧なものに過ぎない情報ではあるが、最寄り町のギルドが調査すら難しいと判断したと話が伝わっているのだとか。


 それが磁場に似た何かが発生し、人の感覚器官を狂わせているのかは判断が付かなかったが、日本にもそういった場所はいくつかあると聞いたことがある。


 問題は、そのほとんどが危険な場所や、人の踏み入ってはいけない領域と言われていることから判断すると、"迷いの森"に入るのなら相当の覚悟と下準備が必要になるのは間違いなさそうだ。



 そのまま依頼を受けずに冒険者ギルドを出た俺たちは、カルロッテさんの行きつけにしてる本屋へ向かい、勇者にまつわる書物を買い漁った。

 分厚い本を7冊もまとめ買いするなんて、日本にいた頃にはとても考えられないような購入をしたことに内心では苦笑いが出たが、どうしても情報は得るべきだと思えるからな。


 そうはいっても随分と脚色された本も多いと聞く。

 すべてを読んだ上で、総合的に情報をまとめなければならないだろう。


 これまで以上に何かを知りたい欲求が強くなっている気がした。

 こういうのも"知識欲"って言うんだろうか?


 帰還に繋がるようなことはさすがに書かれていないかもしれないが、それでも登場する勇者がどんな結末を迎えたのかは興味深い。

 そこからわずかでも手掛かりが掴めないとも限らないし、一読する価値はある。


 頑丈な紐で括られ、手にぶら下げるように持った7冊の本が今後の俺たちに何かを導くとも思えないし、結局何も知れない結果となることも十分に考えられるが。


 本屋の店主いわく、創作物として書かれたものが4冊、実話として伝えられる内容の本が2冊、そして"この世界の英雄たち"について書かれた書物が1冊らしい。


 正直に言えば4冊の創作物には期待していない。

 実話として伝えられる書物で十分だとは思う。

 だが、最後の1冊にも興味が尽きなかった。


 この世界に実在した英雄について書かれた本。

 もしかしたら、魔王に挑んだ英雄たちが載っているかもしれない。

 それについて詳しく記載された本もあるか聞いたが、そのほとんどが勇者にまつわるものにしか書かれてないと話したから、恐らくは載っていないんだろう。

 なぜ出版されてないのかは気になるが、あらゆる本を売ってるわけじゃない。


 そもそもこの世界では、日本と比べれば何倍もする高価なものだ。

 売っている店が町にひとつあればいいほうだよと、店主も笑いながら答えてた。



 本を持ったまま、俺たちは乗合馬車へと向かう。

 町に到着した時間が遅かったことや、すぐに町を出る依頼を受けたこともあって、まだ馬車の予約すら取ってなかったんだよなと思い出すように話した。


「ま、いい経験になったと思えば、アタシらにも悪くないよな!」

「そういった前向きの思考は俺も見習わないといけねぇな」

「ヴェルナさんを見ていると、冒険者ってのはこうあるべきだと思えてくるよ」

「まさに自由奔放って感じだからな、こいつは」

「アタシは好き勝手に生きてるだけだぞ。

 珍しいことも、すげぇこともしてねぇよ」


 そういうところなんだよな。

 冒険者としての生き方に共感できるのは。


 数多くいれば変なやつと出会うのも不思議じゃないけど、ヴェルナさんだけじゃなくサウルさんも俺の想像してた冒険者像にぴったりとはまったんだ。


 豪快で知識も深くて、けれども冷静さを保ちながら戦うことのできる熟練者たちと出逢えたのも幸運だったと確信するよ。


「なんか、むず痒いこと考えてるな?」

「……また顔に出てたのか……」


 どうしようもないな、俺の表情は……。

 頬が緩みやすいんだろうかと本気で心配になってきた。

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