第151話 俺たちの道を

 ……俺が、何か・・を持っている?


 ふとした拍子に考えたことはあるが、すぐに意識は別に移った。

 それを確かめる術もなければ、考えたところで無意味に思えたからな。


 だが、俺も"何か"を持っているんだとしたら、一条の力になれる可能性が現実に手が届きそうなほど近くに見えてくると思えた。


「つまり、俺に魔王は倒せなくとも、何かしらの力になれるってことか」

「ま、あくまでも俺の考えだ。

 的中率も低いから、あんま気にすんな!」


 占いの成功率みたいな言い方をされたが、半分笑えない俺がいた。

 これは仮説だし、正しいかも分からない上に、答えも出ないだろう。

 それこそ"何らかの変調"を俺の中から感じなければ難しいとも思える。


 ……でも、もし本当にそうだとしたら?

 魔王への一撃は当てられなくとも、一条のサポートはできるかもしれない。


 "何か"、なんて曖昧なものを信じきるのは難しいし、覚醒するように力が目覚めでもしなければ魔王討伐に付いて行くわけにはいかない。

 力にもなれずに同行するのは邪魔になるだけだからな。


 だけど今、俺の中で何かがはまりかけたような気がした。

 内心では俺自身が力になれると思っていた、もしくは"そうなりたい"と心の奥底では感じていたのかもしれない。


「良く分かんねぇけどよ、それもアタシらの旅で分かるんじゃねぇか?

 カナタたちとも別行動するなら何か情報が入るかもしれねぇし、この件は今度会った時にも話そうぜ」

「そりゃいいけどよ、俺たちもどこに行くか知らねぇんだぞ?

 もしかしたらまた王城へ、なんてオチもあるかもしれねぇし」

「可能性の話を続けても平行線だぞ。

 でもよ、なんかカナタたちとはまた逢えるような気がするな」

「サウルも"妙な縁"を3人に感じてんだろ?

 アタシも正直戸惑ってるんだが、因縁めいたものがあるんだよな」

「曖昧なもんだけど、否定はできないな。

 そもそも世界は広いってのに、ハルトとカナタが会ったのは2度目だろ?

 この次があれば、ふたりの邂逅は"必然"だと思っていいだろうな」

「"偶然が3度重なると、それは必然だ"ってやつか」


 言葉にしながら、俺は不思議と妙な説得力を感じていた。


 そんなはずはない。

 そう断言できずにいる自分に違和感を覚える。

 俺は内心ではそれが正しいと思っているんだろうか。

 それとも、この先も一条と確実に再会すると感じてるのか。


 これも答えは出ない疑問だ。

 しかし、少なくとも次に再会することがあれば、偶然ではないと確信できる。


 それこそ作為的な何か・・・・・・を感じてしまう。

 "人ではない何ものかの介入"を強く疑うことになる。


 これまでも何度かそういった感覚はあった。

 一般人が旅をしている中では体験できない問題と遭遇し続けてきたからな。


「まぁ、今はいい。

 次会った時に考えるよ」


 今はそう答えることが精いっぱいに思えた。


「……そんなツラしてねぇけど、お前がいいならそれでいいさ。

 ともかく!

 次はもっと強くなってるからな!

 再会した時は俺の成長っぷりを堪能させてやるぜ!」

「若干、気色の悪い言い方に聞こえるが、楽しみにしてるよ」


 いったいどれだけ強くなれるのか、正直楽しみだった。

 今のこいつなら、本当に化けるかもしれないと思えるほどに。


「そんじゃあな、鳴宮。

 俺たちは、俺たちの道を進むぜ!」

「あぁ」


 そう答えた俺へ握手を求める一条に目を丸くした。

 右手に触れてドン引いたくせに、自分から手を差し出すなんてな。

 こういうところも、こいつのいい部分のひとつなんだと思えた。


「……カナタの教育は任せて。

 時間はかかるけど、どこに出しても恥ずかしくない"勇者"に育ててみせる」

「ぅおい!?

 イイ感じにまとまってたのに、そりゃねぇよレイラ!」

「大丈夫よ、カナタ。

 あなたは私たちがしっかりと教育しますからね」

「アイナまで……。

 あぁもういい!

 訓練でも座学でも何でも持ってきやがれってんだ!

 全部クリアして俺の糧にするかんな!」


 破れかぶれにも思えるが、そう簡単に性格が変わるはずもない。

 それに一条は今のままなら大丈夫だと思えた。


 対照的に、俺は成長していない気がする。

 武術の練度もある程度完成されてるから、新たな試みはかえって混乱を招くんだが、できることを考えてもいい頃合いかもしれないな。


 サポート役として魔王と対峙する可能性を考慮すれば、それに徹するべきだとも思えるし、一葉流の奥義体得を優先するべきだとも感じる。


 だが、魔王に一葉流が効く保証などない。

 並外れた力を持つ武術だろうと効果が見られなければ意味がないし、それなら"明鏡止水"を活かした補助に回ったほうがいいんだろうか。



 ともあれ、まずは情報が不足してる。

 そもそも魔王がどこにいるのかも分かっていないんだ。

 それこそ"ここではない空の向こう側"だったり、人には到達不可能な"次元の狭間"にいると言われても驚きはしないだろう。


 可能性が高いのは"魔界"のような特殊な場所か。

 別大陸だったり地下世界だったりと、創作物によって表現が違う。

 この世界ではまったく違うことだって十分に考えられるんだから、魔王の存在の有無と居城等の正確な情報を手に入れなければ手の出しようもない。


 しかし、それを知る者がそう簡単に見つかるとも思えなかった。


「……前途多難だな」

「あんま気にしすぎんなよ、ハルト。

 アタシらはアタシらの道を進むだけだろ?」

「そうだな」

「魔王について書かれた本くらいならあるからよ、今度の町で探してみようぜ。

 それを読んだからどうってことでもないんだけどな!」


 楽しげに笑うサウルさんとは対照的に、重苦しい空気が体に纏わりつくような感覚があった。


 ……本音を言えば、不安に近いものを俺は感じていたのかもしれない。

 その感覚が何か、どういった感情なのかも答えられないような曖昧で不確かなものだったが、それでも俺は気のせいだと安堵することができずにいた。

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