第140話 本当に分からないのかよ
……いや、アーロンさんは"スキル"を知った上で話をしていた気がする。
あの時はそういったものがあるんだと、大して気にも留めなかったが。
彼は放逐された者も体得できると判断した上で、俺にその話をしたのか?
それとも、実際にこの世界の住民の何人かはすでにスキルを手にしたのか?
勇者と魔王の物語は世界でも有名な伝説として伝わっている点を考えれば、勇者が持つ技能を詳細に知っていても不思議ではない。
召喚された者のみが使える特質とも言える能力を"スキル"と独自解釈した可能性もゼロではないと思うが、別のことに引っかかりを覚えた。
まさかこの世界には、一条の他にも"勇者"が存在するのか?
もしくは、俺と同じ放逐された異世界人を彼は導いたことがあるのか?
直接本人に確かめてみなければ分からないことだが、もしかしたらそこに彼の"話せない内容"と深い繋がりがあるのかもしれないな。
しかし、その線はどれも薄いと思えた。
王国魔術師団に所属していたレイラが"一般人には伝わらない"と話したからな。
右も左も分からない俺に、この世界でも日本と同様の使われ方をしているスキルを、その説明もなしに別の意味を含ませて伝えるとは考えにくい。
それこそ日本人のように異世界転移、異世界召喚などの創作物に多く触れた者と何人も関わっていなければそういった発想もできないはずだ。
どちらかが嘘をついたとは、さすがに思わない。
どの道、西の果ての調査が終わればトルサに戻る予定だ。
その時にはアウリスさんたちも詳細を話してくれると話した。
本音を言えばすぐにでも聞きたいと思えるが、今は抑えるしかない。
仮説と可能性を考慮していると、レイラから思ってもみない提案をされた。
無学な俺にとって、それは願ってもないことだった。
「……ハルト君さえよければ、魔法の入門編を教える」
「いいのか?
すごく助かるが、本当に初級的なものからになるぞ」
「……大丈夫。
人に教えるの、結構好き。
カナタを鍛え上げるのは、もっと好き」
「――ッ!?」
一条に視線を向けるレイラ。
強烈な悪寒でも感じたんだろうか。
青ざめながら上半身を軽く震わせた。
「……それでハルト君は、魔法についてどの程度の知識があるの?」
「人によって属性が違うことくらいだろうか。
俺には使えないと聞いたから、対抗策程度の知識以外はないと思う」
「……じゃあ、最初から教える。
何かの一助となるかもしれないし」
「あぁ、ありがとう」
礼儀として言葉にしたが、思いのほかレイラには嬉しかったようだ。
どことなく心を躍らせながら、魔法の基礎について教えてくれた。
魔法とは、体内にあるマナを集中させて様々な形に具現化できる力の総称だ。
人によって扱える属性が決まってることくらいは俺も理解していたが、自身が持つ属性は生まれながらに決められてるとも考えられているようだ。
要するに、扱える属性を変化させられないと現在でも言われる。
「火、水、土、風。
そこにカナタが使える光を入れると5つ目の属性になるけど、これは異世界から来た勇者にしか扱えないと言われ、この世界の住人が発現したとの報告は有史以来からみても皆無。
属性には相性があって、先に述べた順番で不利になる」
「火は水に弱く、水は土に、土は風、そして風は火に不利、か」
逆に言えば火は風に強く、風は土に強い。
土は水に強く、水は火に強いってことだな。
「……これが魔法における相性の基本。
ここに術者の技量と込めたマナの量で増減するけれど、実際に同じ力をぶつけた場合、優劣の差は明らかだと断言できるほどの影響を受ける」
実際に放たれた魔法の魔力量を数値で計測することは不可能だから、結局は武術と同じで鍛えた者とそうでないものが対峙した際、明確に表れるものだと彼女は続けた。
ただし、魔術に関しての研究もこの世界では随分と進んでいるようで、仮に同等の力をぶつけると、その効果は半減されると結論付けられたらしい。
つまりは質の良い魔剣で相手の弱点属性魔法を狙い撃てば、威力に応じて相殺することも貫くこともできるようだ。
問題は、鍛え上げた魔術師の魔法を相殺できるほどの魔剣ともなると、その値段もとんでもないことになるらしく、まず一般的な冒険者が入手することはできないとレイラは断言した。
そもそも4つもある属性すべてに対策が取れるほど良質の魔剣を揃えるなど莫大な資金が必要となることから、あくまでも魔術師同士の戦い、それも盗賊や野盗などの悪党、さらには魔法に長けた者と対峙した場合という限定的な話になる。
だが問題はそこではない。
一条の扱う光属性の特異性に話の核があるようだ。
「……でも、"光"だけは例外。
4属性のすべてを飲み込む絶大な力を秘めてると言い伝えられてる」
レイラの言葉に眉をひそめた。
仮にそれが伝説通りであれば、すべての魔法を無効化する潜在能力を持つ。
言うなれば魔術の頂点に座す力と言っても過言ではないほど圧倒的な属性だ。
「……今のカナタは微弱な光を短距離で放てる程度の技量。
魔物に当たっても目くらまし程度で、傷を負わせることはできない。
でも、言い伝えられた勇者の力が覚醒するように備わったら、カナタはすべての魔術師を敵に回しても確実に勝てるだけの力を所有することになりかねない」
「すげぇだろ!?
やっぱ勇者だからな、俺は!
どうしても一般人とは違うんだよな!」
何を嬉しそうに話してんだ、こいつは……。
レイラの話を聞いてなかったのか?
それが何を意味するのか、本当に分からないのかよ。
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