第139話 いるから呼ばれたんだろ

 一条が言葉にしたスキルとは、いわゆるゲームやアニメ内で言われる特殊技能のことで、この世界の住民が持ちうる能力ではないと確信できた。

 だが同時に、異世界人が使う力が凄まじいことの裏返しのようにも思えた。


 それを知ってか知らずか。

 どことなく自慢げに一条が話してるところから判断すると、やっぱり特別な力に魅力を強く感じているみたいだ。


「要するに、"勇者"のみが扱える特別な力が"スキル"だ!」

「……スキルと言い伝えられてるわけじゃないけど、前者は合ってる。

 勇者のみが放つ"光の一撃"が、唯一魔王に対抗できる手段と云われる」


 レイラは普段通りの眠そうな顔で話したが、どうにも俺にはピンと来なかった。

 そういった影響をこれまで一度として感じなかったことが大きいんだろうな。


 だから呟くように言葉が溢れたのも、仕方がないのかもしれない。


「……魔王、か。

 本当にいるのか、そんな存在が」

「いるから俺たちが呼ばれたんだろ。

 ……いや、この場合は俺が呼ばれたのか?」

「その言い方だと、俺が巻き添えを食らったみたいじゃないか」

「実際そうじゃねぇか?

 仮に魔王を倒せるのが"勇者の一撃"だってんなら、俺しか倒せねぇんだろ?」


 ……痛いところを突く。

 簡単には受け入れがたいが、本当にそうなのかもしれない。

 ラノベじゃ勇者召喚に巻き込まれる一般人も割といたような気がする。

 それを俺自身が自ら体験していると思いたくないのが本音だろうな。


「あくまでも私の推察ですが、ハルトさんも何らかの役目があるからこそ呼ばれたのだと思っています」


 その可能性も考えた。

 アイナさんの言うように、俺にも何かしらの役目があるのなら、魔王に致命的なダメージを与えられなくても勇者の力になることくらいならできるはずだ。

 少なくとも、一条が抱え込むだろう大きな負担を軽減させられるかもしれない。


 それは言うなれば、魔王討伐の成功率を上げることに繋がる重要な役割だ。


 俺には英雄になりたい願望や憧れも、勇者として活動する意欲もない。

 だが世界を救う勇者の力になれるのであれば、協力を惜しむつもりもない。


 そうすることで世界に生きる人たちの笑顔に繋がるんなら行動するには十分すぎる動機だし、だからこそ武術経験者の中でも師範代に到達した俺が呼ばれたんじゃないかとも考えられた。


 存在意義にも通ずる大切なものに感じられる。

 本来の役割がそこにあるのなら、全うするべきだとも強く思えた。


「……真面目だな、ハルトは。

 そういうとこはカナタを見習ってもいいんじゃねぇか?」

「ヴェルナの言う通りだぞ!

 考えてるようであんま考えてねぇからな、俺は!」

「俺が惹かれる理由がその言葉のどこにあるのかを直接本人に問い詰めたいところだが、言いたいことは伝わったよ」

「……カナタには勉学も必要だと思えてきた」

「私も今、同じことを感じました。

 これからは座学も修練に入れましょう」

「なんでだよ!?」

「……最低限、それを理解できるまで頑張ろうね、カナタ……」

「なんで可哀想な目で見てんだよッ!?」


 ローブから白いハンカチを取り出して目尻に溜まった涙を拭うレイラは、とても切なそうに一条を見つめながら小さく鼻をすすった。



「それで、勇者の使う"スキル"について聞きたいんだが」

「……カナタ独自の言葉だから、あたしたちが使うものとは違う。

 もしかしたら、勇者または召喚者が体得する特殊技能を指す意味で使ってる人が世界のどこかにはいるかもしれないけど、一般人には伝わらない」

「そうだったな」


 ある意味では、この世界でも俺だけに通じる言葉なのは間違いなさそうだ。

 俺が王都を追放されたのも、勇者のみが使えるスキルを持っていないからだ。


 だとすると王国の中枢が何をしようとしているのか、余計に気になった。

 帝国と本格的に揉めるなら、勇者の力は必須と思われているのか?


 絶大な力を秘めているのならそれも分からなくはないが、まさかとは思うがそんなことのために一条が一方的にこの世界へ呼び出され、俺まで巻き込んだのかと考えると苛立ちを抑えきれない。


 俺には俺の、こいつにはこいつの人生がある。

 それはガキだろうと何ら変わることがない。


 そのせいで悲しむ人がいるのは間違いないからな。

 もし本当に戦力を増強させるために召喚されたのなら、俺は王国の頂点に座している者だろうと殴りかかりたいと本気で思うだろう。


 王国側の画策を阻止、もしくは王の座を奪取しようとしているのが騎士団長レフティ率いる革命軍で、アイナとレイラのふたりは一条のお目付け役と技術的な師を兼任している、なんてのはさすがに考えすぎだろうか。


 辻褄は合うようにも思えるが、実際にそれをしているのであれば気配に揺らぎを感じさせるはずだから、その線もないか。

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