第138話 スキルなしで不要と
それから色々と情報交換をする中、薬の効果についても一条に訊ねた。
だが想定していた返答をされたことで、ある仮説に確信を得られた。
「あるだろ、効果」
「そうか。
やっぱり一条にはあったんだな」
「……どういう意味だ?」
「俺には魔法薬の効果が得られないんだよ」
その言葉は、一条の目が点になるには十分すぎたようだ。
これまでは仮説だったが、同郷の一条とも差がつく理由はひとつだけか。
明確な答えと思える話をレイラはしてくれた。
「……つまり、こういうこと。
ハルト君は魔力を持たないから、魔法薬の効果が得られない。
あたしも薬は専門外だけど、おおよその見当は付けてた。
魔法薬は体内を循環する"マナ"に反応して体に影響を与える。
マナとは、魔法を使うために必要不可欠となる力の源。
それを巧みに扱うことで、武術では体現できない力として発現できる。
故に、マナを持たない特異体質のハルト君には魔法が使えないのはもちろん、魔法薬の効果が得られないのも道理だと推察される。
これに関しては、ストレムブラード王国お抱え薬師に聞かなくても分かる。
あくまでもあたしの推察ではあるけど、まず間違いないと思っていい」
「王国お抱え魔術師団次席の嬢ちゃんが言うんだから、そうなんだろうな」
納得するように、サウルさんは答えた。
確かに彼女の言葉には重みがある。
たとえ推察だろうと、俺には絶対に出せない明確な答えに思えた。
「……その肩書は捨てた。
それに偉そうだから嫌い。
今はただのランクC冒険者」
「それ、言いたいだけじゃねぇか?」
「……うん。
そこそこ気に入ってる」
ヴェルナさんの問いに真顔で答える彼女は両手で木製のジョッキを持ちながら、くぴくぴと美味しそうに酒を飲んだ。
「つーことはよ。
お前、"スキル"も使えないのか?」
「それは召喚者のみが使える"特殊な力"のことか?」
「あぁ。
それこそ魔物を倒した時とかに閃くような感覚って言えばいいのか?
思い出すってのとはちょっと違うものでよ、急に思いつく感じだな。
勇者としての力が俺にあるように、お前にも何か特別な力があるんじゃないかと思ったんだよ」
「……どうだろうか。
それを自覚したことは、これまで一度もないが……」
「……"スキル"という名称は、誤解を招きかねない。
この世界で言うところのスキルとは"技術的な技能"のこと。
職人が使う技術や、ご家庭にいる主婦が使う調理も含む。
才能の類ではなく誰もが習得できる技術を指す」
それは俺が想像していたものとは別の、言ってみれば日本で言われている言葉と同等の意味になるようだ。
王都を追放された理由は俺の予想通りだったみたいだな。
だからこそ俺は"スキルなし"で不要と判断され、即座に王都を追放された。
同時に、一条が言葉にしたものを所持していないことも確認できた。
そこに勇者召喚の儀を実行させた狙いと繋がるのは間違いなさそうだ。
恐らくあの時、俺が武術流派の師範代だと伝えたところで結果は同じだろう。
王国側は、"そういうもの"を欲してるんじゃない。
つまるところ、勇者としての技能を利用しようって腹づもりか。
だとすると一条を手放したのではなく、経験を積ませるために行動させている体でレフティ率いる別組織が動き出したのかもしれない。
金色と呼ばれる伝説の勇者サマの潜在能力を買ってのことだとも思えるし、色々とキナ臭くなってきたな。
どちらにしても御しやすいからな、一条は。
だが王や大臣がこいつを利用するだけして処分しようと画策するつもりなら、俺も一切手心を加える必要もなく全力で叩き潰せる。
「俺も初めはこの世界の誰もが持ってて、言葉にすれば超絶な技や魔法が自然と発動するもんだと思ってたんだけどな」
「……そんなものはない。
魔法だって無詠唱で発現できる。
詠唱してる人は、よりイメージを掴みやすくするためで、悪くない練習法。
想像することで現実に具現化しやすく、また高威力になる傾向も強い。
でも、言葉にしなければ放てないものでは決してないし、努力次第でいくらでも改善できる。
実戦で技名を叫びながら攻撃する人は危ない子だから、お付き合いしちゃダメ」
……真剣勝負の場でそんなやつがいるとも思えないんだが、いるんだろうな。
そういった形から入る連中とは、なるべく関わり合いになりたくないと思えた。
当然、魔術も剣術と同様に日々の鍛錬が欠かせない。
むしろ怠れば鈍っていくのが一般的で、そういった点も武術全般と変わらないようだ。
それでか。
これまで揉めた魔術師以外の連中が、攻撃魔法を放とうともしなかったのは。
どっちつかずになるから、生活魔法以外は身に付けられないんだろうな。
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