第129話 お前が噂の
「お?
鳴宮じゃねぇか!
こんなとこで会うなんて奇遇だな!」
「……それは、こっちのセリフだよ……」
声をかけてきた主に、思わず目を丸くする。
これだけ至近距離まで見知った3人が来ていたことに気付かないなんて、いくら穏やかな町にいるとしてもさすがに緩み過ぎだと己を戒めた。
……いや、想定外だったことも間違いない。
気配で事前に探っていても感じ取った瞬間、同じ表情になっただろう。
なぜ、この国に?
そう思ってしまうのも仕方のないことだった。
俺はラウヴォラ王国が一条を囲っていると思っていたからな。
それがまさか"他国"で再会するとは、さすがに考えていなかった。
……となると、王国側は一条に何をさせたいんだ?
軍備増強目的で勇者を召喚したんじゃないのか?
手を離す本当の狙いが俺には分からなかった。
「お久しぶりです、ナルミヤさん」
「……元気だった?」
「あぁ、ふたりも元気そうで何よりだよ」
「なんだ、ハルトのダチか?」
ヴェルナさんの言葉は、以前一条に聞かれた時とまったく同じ口調に思えた。
それだけ似てても中身はまるで別物だから、こいつの性格を知ったらふたりは呆れるかもしれないが。
「魔術師がレイラで、剣士がアイナさんだ。
男のほうは
「……へぇ、お前が噂の勇者サマか」
目を細めながら、重く沈んだような声色で言葉にするヴェルナさんだった。
挑発的な気配を向けるが、一条はそういったことに疎いから気付くことはなかったようだな。
ギスギスしなくて助かると思えるのも、こいつの言動次第で変化するが……。
「にしても、随分目立つ格好してんな?」
「……これでも抑えたつもり。
持ってる装備の中で地味なのを選んだ。
今は一般的なランクC冒険者だから」
「そいつぁランクCじゃ手に入らねぇぞ……。
嬢ちゃん、いったい何モンだ?」
確かに以前は絵に描いたような漆黒のローブ姿で小さな杖を持った魔術師と、胸部、腕部、腰部、足部に濃い銀色の金属鎧を付けた剣士に見えたが、今の姿はサウルさんがそう訊ねるのも仕方ないと思えるような装備に一新されていた。
アイナさんの金属鎧は
……いや、陽光が当たるとやや青みがかる、とても不思議で美しい色合いだ。
レイラの持ってる身長よりも30センチほど大きい金属杖と、身に着けている胸部の鎧も同じ材質のものだと思えるような輝きを放っていた。
これはもしかすると、噂に聞く希少金属製の武具かもしれないな。
俺の表情から読み取ったんだろう。
こちらに視線を向けたまま、レイラは頷きながら答えた。
「……うん。
魔法銀と呼ばれた特殊金属製の武具。
でも遥かに安価で作れた。
むしろローブのほうが高い」
「これが、話に聞いた"ミスリル"か」
サウルさんの言うように、最高の金属とすら呼ばれる材質の武具をランクCで揃えられるはずもなく、間違っても一般的ではないことは確かだった。
しかしミスリル装備が安価だとは、彼女なりのジョークだろうか。
レイラの着ている純白のローブはとても美しいし、上品な刺繍も適度に付けられたものだから高価なのは想像できるが、こういった類の冗談を言うような人でもないと思っていたが。
そもそもミスリル製の武具は短剣でも目が飛び出るほどだと聞いたし、何よりも金を出して手に入るような代物でもない稀少な金属を使っている。
だが実際に彼女たちの装備は、それほど高価でもないらしい。
その理由を聞いて、素直に納得してしまった俺がいた。
「……
鉱石もあたしが見つけた。
だから、武具の生産費以外はタダ。
アイナの分も頑張って作った」
「素材をレイラから渡された時は本当に驚きましたし、騎士団を抜けるずっと以前から防具の制作は済ませていたのですが、実際にこれを身に纏って冒険者としての生活を始めるとは、当時の私からすれば考えもしなかったことですね」
「……そだね。
カナタとの出会いは、とてもいい切っ掛けになった。
昔からアイナは真面目で、騎士団を抜ける理由を探してたけど"無責任には退団できない"って、ずっと言い続けてたもんね」
「そうか、ふたりは幼なじみなのか」
「……うん。
子供の頃から"まぶだち"。
ちょっとだけ年は離れてるけど」
いつもと同じでとても眠そうな表情ではあるが、どこか心が弾んでいるような、そんな雰囲気を彼女から感じた。
よほど仲が良かったんだろうな。
表情豊かに思えるアイナさんも嬉しそうにレイラへ笑みを浮かべた。
「どっちも俺の嫁だから、手ぇ出すなよ?」
「……なに言ってんだ、お前……」
余計な一言を嬉しそうに投下しやがった。
まぁ、冗談だと思うように言葉を返してくれた大人のサウルさんには感謝だな。
「……コイツに比べたら、俺は誠実さを貫いて生涯を終えられそうだな」
「どーいう意味だよ」
気持ちは良く分かるし、俺もまったく同じことを考えた。
残念ながら眼前にいる"金色の勇者サマ"には通じなかったが。
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